第五百五話
俺たち増援を確認すると。にらみ合いを続けるゼン神族の戦艦どもが進軍してきた。
ヒャッハー! アホどもが!
結界砲……などと言ってるが、杖を撃って結界を発生させるタイプの新兵器の方だ。
区別のためにタチアナキャノンとして置こうか。
タチアナの結界は原理こそ「なんもわからん」なのだが、発生させる条件は色々試した。
そのうちの一つが遠隔起動である。
と言っても射程範囲は戦艦の主砲くらいの距離だけどね。
それ以上になるとタチアナの力は届かないようだ。
なお原理は専門的すぎて説明されてもわからず。
タチアナは装置の起動コード的な物を送ってるわけだが、起動に必要な出力が距離によって減衰するので……というのはわかった(それしかわからない)。
要するに複数の惑星に設置しておいて一気に起動するのはまだ難しいとのことだ。
「それができるようになったらタチアナ以外も起動できるんじゃね?」と思ったが黙っておいた。
俺は気遣いできる男である。
とにかく我が艦には標準搭載してる……というかタチアナが乗るのがこの艦だからこっちに搭載してる。
これを嫌がらせのためだけに使う!
簡単だ。
「タチアナ! 少し無理させるぞ!」
「おう! どんと来やがれ!」
「タチアナキャノンを複数ぶち込む。そしたら一気に起動しろ」
「あいよ!」
「結界砲! タチアナキャノンの方発射!」
「発射します!」
タチアナキャノンが発射された。
無人の惑星、小惑星、衛星なんかにぶち込んでいく。
「起動!」
「うおらああああああああああああああッ!」
タチアナが気合を入れた。
設計の見直しによってタチアナの負担も減った。
訓練では複数起動も何度も成功してる。
いけるはずだ。
「起動!」
結界が起動した。
「くっくっくっく……がーはっはっはっは!」
俺は最高に悪い顔して高笑いした。
だって勝ち確定だもんね~。
結界が発動するとゼン神族の船どもが舵を切った。
操船が間に合わなかった輸送艦が機関停止した。
そのままコントロールを失い小惑星に突っ込んで爆発していく。
他にもコントロールを失った船が他の船に衝突したりと戦場は地獄絵図になった。
アホが!
「全艦攻撃準備!」
要するにゾークネットワークと同じだ。
タチアナの結界はイナゴを遠隔操作した技術を遮断した。
おそらく……イナゴを積んでは輸送艦は遠隔操作だろう。
たぶん旋回が間に合わなかったのではなく、遠隔操作してた母艦との通信が途絶したことで操作ができなくなったのだろう。
ここまでは読んでた。
あとは未知の技術を持ってる相手との交戦だ。
自分の機体より強いかもね。
ユニットの性能差は俺じゃどうにもならんしね。
それに俺の戦術はシンプルだ。
結界の中を突っ込んでくる戦艦を狙い撃ちにする。
だって人乗ってるのこっちだもん。
イナゴを載せた輸送艦がバカスカ沈んでいく、おそらくゼン神族側のクルーはいっぱいいっぱいだろう。
ここに攻撃すればタスク過多で現場は崩壊するだろう!
現場の兵士の混乱を甘く見るなよ!
結界を避ける決断をしたらもっと楽だ。
俺たちが有利な地形の戦場にご招待。
もう配置済みだもんねー! 総攻撃が待ってるよ!
さあ、どっちを選択するかにゃー。
イナゴを失ったあげくにタスク過多での現場崩壊か、負け確定の地獄にGOか。
地獄の種類を時間制限ありで選ばせてあげるにゃー。
いつも上から目線の勝ち確って空気でやって来てる。
どうせイナゴ封じからの二択なんて訓練やってないでしょ。キミら。
俺は戦術を読むのはド下手くそだけど、現場の空気を読むのは得意なのよ~。
タチアナいるのにイナゴ戦術を繰り返すんだから、そういう傲慢な連中なのは読めてるのよ~。
「隊長……け、喧嘩が上手すぎる……」
メリッサがつぶやく。
ひどい!
「て、敵にしたくない……レオだけは敵にしたくない……」
クレアまで!
「チガウヨみんな……俺は上から下まで兵士の仕事を知ってるのよ~。だから現場の混乱の恐ろしさはわかってるし~」
そう、俺は一兵卒と同じ現場で働いてたのだ。
クロノスでは工事の手伝いもしたし、アホみたいな命令で現場が混乱するのも見てきたもんね!
用意した計画が崩壊したら腹案持って来れるシゴデキ上司なんてほとんどいないもんねー!
ほれほれほれほれ、俺が前線出てるぞ!
リスク取って首取ればお前らの勝ちだぞ!
曲がるかな?
突っ込むかな?
選ばせてやんよ!
「ゼン神族艦隊! 突っ込んできます!」
ゼン神族はイナゴをあきらめコントロールを失った輸送艦を攻撃しながら突き進むことを選択した。
「よっしゃ! 賭けに勝った! タチアナ! イナゴを遠隔爆破!」
「押忍!」
次の瞬間、イナゴを積んだ輸送艦が爆発していく。
自らの兵器が機雷になった瞬間だった。
遠隔で止められるんだから遠隔で爆破もできるのよね。
銀河帝国には日々ハッキングに精を出すマザーAIがいるのだ。
もうシステムの穴は把握済みですわよ。
猿だと思ってた俺たちの搦め手にさぞ現場は混乱してるだろう。
今度はゼン神族の大半の船がコントロールを失った。
イナゴに爆弾の機能持たせなければよかっただけなのにね~。
いやイナゴが優秀すぎたのだ。
タチアナの結界で防がれるのがわかっている。
それなのに戦略に組み込むくらいだからね。
ここからは見てるだけだった。
クロノス艦や戦闘機が攻撃。
次々と敵艦を航行不能にしていく。
俺が出るまでもない。
結局、ラターニアが来る前に決着がついた。
「ゼン神族艦撤退します!」
そしてここからが本番だ。
「はーい皆さん! これからが大事なお仕事です。救助にかこつけて敵の船をかっぱらいます。バラしてリバースエンジニアリングよ~! はい皆さん御一緒に!」
「今日も稼ぐぞ~!」
よくできました。
「か、海賊だ! 完全に思考回路が海賊だ! ぎゃはははははは!」
笑い上戸のメリッサのツボに入ったらしい。
たしかに俺のやってることは海賊かもしれない。
でも私掠船行為じゃないもんねー。
ちゃんと国家の正当な戦闘行為だもんね~。
船返さないだけで。
「はい、今回の敢闘賞はタチアナさん! タチアナさんにはお菓子の詰め合わせと賞金を……」
俺は敢闘賞を読み上げる。
こうやって戦場ごとに褒めて報酬渡していくのは重要だと思う。
こうして……後に歴史に残っちゃう戦闘民族、クロノス公国の初戦が終わったのである。




