第五百二話
開催日程が順調に進む。
陸上競技に移ると鬼神国と改造人間勢が無双する。
特に重量挙げはクロレラ処理人間のサトシ選手と鬼神国のビバル選手がしのぎを削った。
サトシ選手は銀河帝国宇宙海兵隊所属の二十五歳で伍長。
農家の三男で中学校卒業と同時に宇宙海兵隊に就職した。
十年目で伍長か……そりゃ士官学校出身のガキが少尉で来たら殴るわな……。
銀河帝国軍の根本的問題点が垣間見えた気がする。
ゾーク戦争前から重量挙げでは有名だったそうだ。
ビバル選手は重量挙げを始めてまだ一年くらい。
なぜ紹介が短いかって……俺の子分だからだ。
サトシ選手が勝って終了。
ビバルくんあとで仲間にイジラれるわ~。
で、レスリングにボクシングに空手に柔道なんかのか格闘技が始まる。
この辺は経験がモロに出る。
ほぼ銀河帝国民が勝つ。
これはしかたない。
で、問題は相撲。
似たようなルールの格闘技は全宇宙に存在する。
さすがに大相撲のプロに来てもらってるわけじゃない。
なので負けてもしかたない。
鬼神国人体格いいしね~。
ぷぴー! 元相撲部のやつ! 鬼神国人に腕力で負けてやんの!
なんてアホ面下げて言ってる俺は次の瞬間凍り付いた。
カトリ先生が手招きしてる。
声は聞こえないが「レオ、お前も出場な」って言ってるのがわかる。
え? どっち? 剣術。あ、はい。
防具つけて嫌々控え室へ。
「レオ大公陛下と剣聖カトリ師範とのエキシビションマッチです」
「やだー! やだやだやだやだー!」
駄々をこねる。
だけど現実は厳しい。
イソノと中島、それにメリッサがやって来る。
メリッサは澄んだ眼差しで言った。
「隊長が少しでも弱らせてくれないと困るって」
「ぴぎゃー!」
「俺たちもお前の後に戦うんだからな!」
イソノと中島も結託してた。
こうして俺は出荷されたのである。
「オラオラオラオラ! カトリ先生なんて怖くねえぞ!」
「おう、いい度胸だ!」
木刀を構える。
全体を見る。
俺はこれが甘い。
視界の隅から木刀がやって来た。
よける!
髪の毛をかすめた。
だけど回避だけじゃボコられる。
回避と同時に反撃。
手首に一撃……するりと避け……そのまま突きが来たぁッ!
三連撃を避け……られない!
食らってもいいから体当たり。
額に一撃もらったのを……顔の向きを変えて……スリップしてくれた!
ドゴンと体当たりがカトリ先生に直撃した。
「な!」
重戦車みたいだったカトリ先生が吹っ飛んだ。
もちろんカトリ先生は自ら後ろに飛んで衝撃を減らしていた。
さらにゴロゴロ転がって勢いを殺して立ち上がった。
「やるじゃねえか!」
「ここまでやってこれかよと……もう逃げたいです」
「最高だ! リスク覚悟での攻撃! 俺は感動したぞ!」
「勘弁してくれよ……」
もう俺はぼやくしかない。
スピードもなにもかも異次元だった。
稽古量はどうしても減ってる。
シミュレーターくらいだろうか。
筋トレはゾーク戦争時と変わらない。
だが確実に腕は鈍ってるはずだ。
その代わりに精神はかつてないほど研ぎ澄まされてた。
餓死寸前を体験したこともあるだろう。
それ以上にクロノス国民の生活を背負ってるという責任感と緊張が俺を成長させていた。
カトリ先生の攻撃は相変わらず見えない。
だが攻撃の予想はできた。
だんだん勘を取り戻してきたようだ。
「はッ! いい動きだな!」
「そりゃどうも」
お互い打ち合う。
少しでもビビって距離を取ろうものなら終わる。
それはお互いわかっていた。
もう観客の声すら聞こえない。
耳に血管の脈動するじんじんという音だけが響いていた。
ばきりと音がした。
お互いの木刀が折れた音だった。
ようやく終わる……と思ったらカトリ先生が木刀を投げ捨てて組み討ち!
「ふんが!」
俺は後ろに飛びながら足を出す……巴投げじゃあああああああああああぁッ!
もちろんカトリ先生がその程度で止まるわけがない。
猫みたいな柔らかい動きで着地。
俺は構えて「おりゃああああああああああああッ!」と雄叫び。
カトリ先生も「えええええええええええええいッ!」と気合を入れた。
そこまでやって嫁ちゃんの「待て!」とストップしてくれた。
今度こそ終わった。
「ふひー……」
「レオ……強くなったな。完全に俺の負けだ」
「先生……」
熱いハグをする。
これでカトリ先生の稽古は終わりのはず……。
だけど耳元でカトリ先生がつぶやいた。
「くっくっく、次楽しみにしてるぞ。俺も稽古して強くなるからな」
ガッデム!
これで終わらせる気がない!
この悪魔め!
観客にもウケなかったしさ!
なんてブツブツ文句言ってた。
だけど次の瞬間、会場がわき上がった。
「王様すげえええええええええ!」
「帝国最強って本当だったんだな!」
「すげえや王様!」
子どもまで声援を受けた。
はっはっは!
調子に乗って手を振った。
その後、男子はエディとイソノと中島に剣術部。
女子はメリッサと剣術部女子でトーナメントを行う。
ちゃんと防具つけた公式ルールでな!
男子はエディ。女子はメリッサが優勝。
こちらも声援を受けた。
なお俺は極限まで精神力を使って「ばななー」状態になってた。
「旦那様。はいバナナ」
「ばななー」
むしゃー。
嫁ちゃんがゲラゲラ笑う。
「婿殿は可愛げがあるのう!」
「ばななー!」
抗議するが嫁ちゃんは俺を見てさらに笑う。
体育祭はとても盛り上がったのである。
すべての競技が終わり閉会式。
「犠牲になったすべてのクロノス軍人に黙祷!」
現在、クロノスの国内世論が「軍人は無能」に傾きつつある。
それは許されない。
俺は最後の一人になっても亡くなった軍人に敬意を表したい。
そりゃ軍人は結果論で語られる職業だ。
でも俺くらいは無能って言葉に逆らってもいいはずだ。
いきなり攻撃されたのに……がんばったと思うよ。
夜……後夜祭で花火が打ち上がる。
俺たちは大会の閉幕に満足してた。
そして閉会式の数日後……だったかな?
とにかく気が抜けた午後のことだった。
ゼン神族が……クロノスに隣接する小国、マゼラン民主主義連邦から突如としてクロノスに攻撃を仕掛けてきたのである。




