第五十話
ケビンの銃撃でカニちゃんに穴が空く。
いままで出会えてなかったスペックどおりの銃だ。
「レオくん! これ戦えるよ!」
なるほど。
有名女優が使ってる機体だ。
闘技場のオーナーやスポンサーが金かけまくってて標準機よりも圧倒的に金がかかってるに違いない。
実弾兵器もとてつもなく状態のいいものだ。
あるところにはあるんだなあ……。
だったら対物ライフルが欲しかった。
闘技場じゃ使いようないから持ってないんだろうけど。
俺もカニちゃんの群れに突っ込んでいく。
チェーンソーはバッテリー式。
ビーム兵器と同じでエネルギーは気にしなくていい。
実弾兵器はゾークに有効なんだけど、弾薬が必要なのと重いのが欠点だ。
あんまり使いすぎてもよくない。
だから俺が行く。
チェーンソーでカニちゃんを斬り払う。
だんだんやつらの急所がわかってきた。
攻撃を避けて相手の体勢が崩れたら関節を切断。
ようやくメリッサと同じ動きができるようになった。
攻撃力を奪ったら別のカニちゃんが襲ってくる。
同じように爪を切断して、隙あり!
ほぼ真ん中に急所!
チェーンソーで貫く。
一撃で急所を貫くと動かなくなる。
一発で殺すにはコツがあったのだ。
気づくまでに長いことかかって、さらに戦闘でできるようになるのに結構時間がかかった。
「異様な器用さと戦闘時の精神安定性! これこそ【スペック低いのになぜか異様に生存率が高い】と言われたジェスターの本領発揮ですね!」
「妖精さん! それぜんぜん褒めてない! ぜんぜん褒めてないよ!!!」
「だってどの分析官もジェスターがなぜ生き残るのかの答えを出せないんですよ!」
そりゃお前、恐怖心がぶっ壊れてるからだろ。
ヘタに避けようとするから死ぬわけで。
平常心で本当にヤバいヤツだけ避ける。
それができるから生き残る。本人は強くはない。
しかも他の兵士にまで冷静さが感染する。
ゾークからしたら最高にうざい生き物だろう。
ジェスターの俺はそれを他人に言わないけどな!!!
もっと過酷な戦場にぶち込まれるからな!!!
分析官も使い捨て前提のジェスターが強い理由なんて言わないだろう。
強化人間じゃない貴族とかの手柄にするに違いない。
学者じゃなくて役人だったら絶対そうする。
使い捨ての兵士の情報なんて残すわけない。
あとでトラブルのもとになるだけだ。
そっちの方が分析官的に幸せだもの!
ゆえに一部の利益より真理を優先するタイプの人間が少数の文書を残したのが現在である。
こうして情報は埋もれたわけである。
隠したのではなく、全体の怠惰で忘れられる。
そもそも残す価値のない情報だ。
やだ怖い。
徹底的に人間扱いされてない。
そのまま戦闘を継続する。
カニちゃんだけだ。
数だけは多い。
俺とケビンで次々仕留めていく。
チェーンソーで手が足りなければサブマシンガンで撃つ。
もう急所はわかってる。
レベルアップとは戦闘経験の蓄積なのだと実感。
百体ほど葬ると戦闘終了。
爪だけもいだやつは逃げていく。
「ふう、疲れたー」
「お疲れー……疲れた……」
ケビンも肩で息をしていた。
こりゃ早く合流しないとケビンがもたない。
「妖精さん、宮殿までの距離は?」
「まだ結構ありますよ」
「うわーお、詰んでる」
「うーん最適な道を計算……うん?」
「どうしたん?」
「前から軽トラが来てますね」
軽トラ?
誰だろう?
しばらくするとクラクションを鳴らしながら軽トラが来た。
「おーい! 警察の人かい?」
車の中から若い兄ちゃんが出てきた。
玉掛け講習にいたような労働者階級の兄ちゃんである。
俺の機体は警察カラーだからそう思ったようだ。
俺は機体から降りる。
ケビンも降りてくるのが見えた。
「違うっす。俺たちは士官学校の学生で……空港の襲撃で本隊とはぐれて……」
「うわ! 本物のレオ・カミシロ!?」
おおう。
俺の顔は知られてるらしい。
これもプロパガンダの影響か。
「お、おう。えっとレオ……さん?」
「なんすか?」
「任務は……?」
「カニ退治ッスね」
カニちゃんの死骸の山を指さす。
「うおおおおおおおおおおお! ちょっと待ってくんな」
どこかに通話する。
「社長! 本物ッス! 本物のレオ・カミシロっす! 今からそっちに連れてきます!」
勝手に話が進んだ。
でも断ったりしない。
流されるままに生きる。
これで今までうまくいった。
「おう、レオさん。この近くに地下鉄の駅があるんだわ。で、二時間後に宮殿への臨時便が来るんだわ。だから俺さ、避難民の捜索してたんだ。レオさんも行くだろ?」
「あざっす!」
警察の機体はここで乗り捨てになるな。
しかたないよねー。
「じゃあ荷台に乗ってくれ、えっと、そっちの子は……あの……その……お胸が大きいですね。俺、私はタカハシ! 独身です!!!」
あ、いまケビンが「ぶち殺すぞこの野郎」って顔した。
「ケイトです!」
ケビンが高い声で言った。
ケビンのこめかみに血管が浮かんでる。
「タカハシさん、急ぎましょう。またゾークが来るかも!」
胸がつっかえるケビンを下から押して荷台に載せ、俺も乗り込む。
「いやー、伝説の英雄を乗せるなんてびっくりしたよ~。あ、俺、この近くの建築屋の社員なんだわ。マンションとか作ってんの。会社の仲間と生存者探しててさー。カニに囲まれて近くのマンションの地下駐車場に逃げ込んだんだわ~」
「うわーお、偶然ってあるんすね~」
しらばく走って行くと地下鉄の入り口が見えてくる。
「とめるぞ~つかまっててな~」
タカハシは悪い人じゃなさそうだ。
道路に適当に駐車して地下鉄に入る。
入り口のシャッターを閉めて中へ。
照明が点灯する。
「下に降りると自販機があるからよ。メシ食うだろ?」
「あざっす」
そういや最後に食事してからずいぶん時間が経っている。
「いやー、お貴族様って聞いてたけど案外話しやすくて助かったぜ」
「あ、俺、休みに重機の講習とか通ってるんで」
「そうなの! どう? 暇なときうちでバイトする?」
「へへへ。そのときはお願いするっス」
タカハシと会話が弾む。
「ねえ、レオ。君、侯爵家の当主だよね?」
ケビンが呆れ声を出した。
「ド田舎惑星の領主なんてこんなものなの!」
ケビンよ!
これが現実なのだよ!
男爵子爵の末っ子とかもっと過酷だからな!!!




