第四百九十九話
鷹が手加減してくれたのか、とまられた頭は無事だった。
鷹は餌をあげたら宮殿の自然公園に巣を作った。
「おうお、動物が仕官しにきたね~。【おやびーん、ごはんまだぁ~】」
鷹がご飯をねだりに部屋にやってきた。
メリッサは相変わらずアテレコして喜んでる。
はいはい、お肉ね~。
なお、鷹って言ってるけど、鷹っぽい姿の鳥ね。
外宇宙なので銀河帝国で定義される鳥類かすらわからない。
とりあえずデカい鳥。
後で調べたら鷲が大きい鷹なんだって。
でもそれも例外だらけみたい。
わからん! 鷹でいいや。
「はーい、お肉」
ピンセットで肉を挟んで近づける。
するとこっちをじっと見る。
肉を食べずに穴が空きそうなほど見てる。
なんスか?
「【小さくして】だってさ」
小さくしたら喜んで食べた。
食べた後スリスリされた。
「おうおう、モテモテだね~。メスかな?」
「お触り厳禁な~」
メリッサが触ろうとしたので止める。
すると追加のお肉を持ってきたレンがやって来た。
「いいですか? 先輩には敬意を払いなさい」
なぜか圧をかける。
すると鷹は俺の肩にとまってピスピス鳴いた。
どこから声出してるのぉ!? それくらい哀れな声を出す。
「おやび~ん! お姉ちゃんがいじめる~!」
「はいはい。レンに逆らっちゃだめよ~。レンもいじめないの」
「は~い」
幼稚園の先生になった気分だ。
「隊長さー。昔動画で見たんだけどさ。仏様が……」
「俺はパンチパーマじゃない!」
涅槃図やめれ。
俺も一瞬思ったけど、俺はパンチパーマじゃない!
やーめーてー!
リスっぽい生き物も来る。
はいはい、キミらもご飯もらいに来たのね。
クルミみたいな硬い木の実を握り潰して、中のナッツをあげる。
これクルミみたいだけど大豆の仲間らしい。
それを見てメリッサがゲラゲラ笑う。
「普通に素手で割ってる! 硬すぎてクロノス人も食べないのに! ゴリラかよ! ギャハハハハ!」
寝っ転がって足をバタバタさせてる。
笑いすぎて涙まで流してる。
ウキー! オレ、ゴリラ違ウ!
今度はクレアがやって来た。
狐……狐っぽい動物が後ろについてまわってる。
「にゃーん!」
クレアにおねだりしてる。
鳴き声は猫っぽいな。
クレアは犬用のジャーキーを取り出す。
「お座り」
「にゃーん♪」
お座りした。
うちの実家の野生動物みたいになってきたな。
「はい」
「にゃーん♪」
ジャーキーもらってる。
今度は嫁ちゃんが来た。
「暇になったぞ!」
モモンガに小鳥にウサギにリスに……。
部屋に入るなり嫁ちゃんは小動物に囲まれた。
「なんじゃ♪」
嫁ちゃんもご機嫌だ。
すると外で近衛が騒いでる。
なんか嫌な予感がするな~。
見たくないな~。
「ちょ! 降りて! ワンちゃん降りて!」
ケビンが焦ってる。
「ワン! 降りろ!」
タチアナも焦ってる。
「大丈夫であります! うわーい! 大公陛下! 新しいお友だちであります!」
ワンオーワンが乗っていたのは巨大な白猫だった。
ライオンじゃない猫だ。
軽トラくらいの大きさなのに「にゃーん♪」と甘え声を出した。
「お、おう……」
みんなで下に行く。
近くで見ても猫だった。
ワンオーワンは巨大猫にまたがってご満悦である。
ワンオーワンがしゅるしゅる降りてきた。
「お友だちの猫さんであります!」
「にゃーん♪」
「お、おう……ご飯なに食べる?」
「にゃーん!」
「魚な。ういー」
するとメリッサがゲラゲラ笑う。
「ぎゃははははは! 隊長ってば猫と普通に会話してる!」
なんとでも言うがよい。
厨房の料理人が魚を運んでくれた。
猫はそれをムシャムシャ食べた。
「いや珍しいですね。ジャイアントキャットです。もともと絶滅寸前だったんですがね、イナゴのせいで絶滅したんじゃないかって言われてたんです」
料理人の兄ちゃんが猫を見て喜んでる。
「へー……って保護しないと!」
そういや帝国の大学からクロノスの生物保護活動させろって言われてたな。
みんなで猫の写真撮って。
『絶滅しそうな生物です』とメッセージを添えてっと。
関係各所に送信。
あと帝国とクロノスの国営放送にも。
すると1分も経たないうちに妖精さんに怒られた。
「全方面から保護させろって申請が殺到してるんですけど! なにがあったんですか!?」
「この猫さん」
「あら……かわいい……保護しましょう」
かわいいは正義である。
了解ッス。
「猫さん猫さん、仲間連れてこれる?」
「にゃーん♪」
「仲間連れてくるって」
「レオ……聞いて。普通は動物と会話できないから……」
「クレア……安心して。自分がアレなことは……もう……あきらめたんだ……」
ただし受け入れるかは別問題。
俺は! 動物と会話できるけど! 普通だ!
「婿殿が異常なのはいつものことじゃ」
嫁ちゃんにトドメ刺された。
ひどいわ!
さて数日後、猫が宮殿に大集合。
もふもふパラダイスができあがってた。
タチアナもモフりまくってる。
お前……ワンオーワン止めてたけど本当はモフりたかったんだな。
「にゃーん」
「子猫がいる? え? 誰……? レン?」
レンは距離をとってる。
猫も距離をとってる。
なんだ? このお互いの間合いに入らないという緊張感は……。
「にゃん! にゃーん!」
「あれは猛獣? そっちじゃなくてこっち?」
すると白猫がぽんぽんっと顔を埋めるタチアナを優しく叩いた。
「それは子猫だな。うちの子です」
「にゃーん♪」
「いい猫だから大事にしろ。へーい、了解」
「うへへへへ」
タチアナはだらしない顔で白猫に顔を埋めてる。
結局、猫たちは宮殿で保護することになった。
うちの猫である。
さらに時が進み、体育祭開催近くになった頃、帝国から動物学者やら獣医やら動物資源の専門家やらが大挙してやって来た。
いままでも信頼できる学者を入れてたんだけど、もはやそんな数ではない。
帝国中から学生含めた大所帯がやって来た。
「クロノス陛下! 参上つかまつりました!」
一目で上位貴族出身とわかる学者に挨拶された。
初めてだぞ。銀河帝国人に「クロノス陛下」なんて言われたの。
動物学とかだと次男とか……いや上位貴族で次男が優秀なら士官学校入れるか。
三男より下かな。
三男にまで充分な教育するんだから公爵かな?
俺を嫌ってないってことは公爵会の系統じゃなさそう。
「動物の研究よろしくお願いします」
もうね、偉そうにする路線は捨てた。
俺は名ばかり侯爵の三男坊なのだ。
その過去はなかったことにできないし、取り繕う必要もない。
もう開き直ったもんねー!
開き直ったからには無敵!
「ははー!」
こうしてカオスがカオスを呼び込むのであった。
体育祭……無事に開催できるだろうか……?




