第四百九十八話
体育祭の準備期間の間、急に暇になった。
死ぬ気で畑を整備したし家畜も輸入しまくった。
借金は増えたけど返済計画は順調。
工場も建てまくって民間用の重機含めた車両を作りまくってる。
ソフトウェアは組み込み系を多く受注してる。
「自分がなに作ってるかわからない」と不満はあれど滅亡状態のクロノスでは給料はいい方だ。
あと帝国やラターニアじゃ儲からない部品も作ってる。
ねじ切り大事。
帝国製の旋盤やらCADやらCAMを買って……いやクロノスのメーカーあるんだけどさー。
ベテランエンジニアが亡くなっちゃって、新しいのが作れない状態なのだ。
それでとにかく部品を作りまくる。
ソフトは……いつか復活できる日を夢見て大学や工業高校、それに軍で技術者を養成する。
この際、軍は職業訓練校としての役割も与えてしまう。
これ……銀河帝国式だよね……。
さて……となると銀行持ってるラターニアとの関係が問題になる。
契約違反で逮捕者出てるし、ラターニア怒ってないかなって話。
ところがクロノス公国との関係は良好だ。
ラターニアもゼン神族や他の強国との緩衝地帯として強いクロノスが欲しいという事情がある。
だけどラターニアもクロノス公国の領土を切り取る余力はない。
国王が退位するレベルだもんね。
俺も援助は受ける! 土下座くらいはする!
なので銀行に監視されながらも自由にさせてもらってる。
同じく隣国である太極国も絶賛建て直し中、クロノスを征服する余力はない。
太極国も友好国扱いで工場として仕事をくれる。
鬼神国は繊維産業で提携。
ファッションの聖地と化した銀河帝国から大量の仕事を受注してる。
落ち着いたところで先物市場がようやくオープン。
ようやくだ……これで経済が回る……。
金融派生商品ないと経済死ぬからね!
素人が手を出すと死ぬけど、商社や卸売業者には必要なものだ。
特に天候に左右される農業生産物を扱う食品産業が死ぬ。
収益計画が立てられないからね!
同じ日に株式市場も復活。
これで大きな会社に投資しやすくなる。
ここまでよく頑張った!
ようやく資本主義復活だ!
俺と嫁ちゃんも開所式に出席する。
いやー、俺、泣いちゃったよ。
銀河帝国が使ってるシステムとの互換性持たせて、クロノス独自の取引にも対応させる。
……会議だけでも死ぬかと思った。
銀河帝国とクロス、どちらも譲らないもん。
でさー、話し合いが終わるかなってタイミングで文句つけてくる無能は出るし~。
議論をするのが目的のバカでしょ~。
なぜか革命を起こそうとするバカでしょ~。
お前らさー、革命起こしたいなら国民投票のときに俺を追い出せばよかったんであってな!
例の元軍人も国民に支持されなかったし!
元大佐である大将閣下だって他にいねえんだからしかたねえだろ!
上流の業務できる人がいないんだから!
そもそも本人が、
「生き残ったからには責任を果たしたいと思います」
って言ってるわけ!
大将閣下にはぜひ俺を追いだしてほしいと思う。
「はっはっは! 追い出す? どうやって? ……勝てるイメージが思いつきませんが」
……左様か。
とりあえず暇なことは良いことだと思う。
安定してきたと信じたい。
国境では頻繁にゼン神族と思われる無所属機と小競り合いが起きてる。
うーん、なんかこの盤面見たことあるような……。
拡張主義的政策から抜け出せない感じ。
そう、別に敵意を持ってなかった我々を攻撃して数々の国を敵に回した。
それどころかプローンを駒にした小国を弾圧政策。
海賊ギルドですら被害者かもしれない。
亡くなったイーエンズ爺さんも被害者だもんな。
イーエンズ爺さんの顔を思い出すたび……こめかみの血管がビキビキ脈動する。
最後まで勝てなかった。
いや仲間なんだけど……仲間なんだけどさ!
俺らに後始末まで全部押しつけて自分は死にやがった。
あの爺さんの老獪さはその後の外交の役に立ってる。
くそおおおおおおおおッ! 悔しいいいいいいいいいッ!
あの爺さんは復讐を口にしてたくせに利他的行為ばかりしてた。
自分の利益を徹底的に排除してた。
本気で部下の死を悼んでたし、太極国のために命を差し出した。
だから部下は喜んで命を差し出した。
リーダーになるからにはそこまでやらねばならない……と思う。
俺の我慢も爺さんを参考にしてる。
ある意味……政治の師匠であるとも言える。
ということで外交で揺さぶり。
ゼン神族を悪者にしていく。
ここでも自分は出さない。
「ゼン神族を悪者にしろ」なんて言わない。
ただ市民を楽しませればいい。
説教は絶対にしない。
必要なのは他人に期待しすぎないこと。
情報はオープンに。ゼン神族が利用してもいい。
来いやオラァ!
「テロに非難の声が高まってます」
これでいい。【誰が】なんて野暮なことは言わない。
アホどもは背後関係を洗うために捜査中。
アマダに頼んで銀河帝国の警察手法も取り入れた。
あとは全方面敵に回したゼン神族の自滅を待てばいい。
ということで遊ぶ。
宮殿の堀を散策……釣りを堪能。
よくわからん魚が釣れた。
ハゼかな?
持って帰って図鑑で検索。
おおむねハゼだな。
惑星が違うから完全に同じ生き物じゃないけどハゼだな。
食用……。へー。
俺が釣りをしてると聞いて、ワンオーワンとタチアナ、それにシーユン遊びに来た。
妖精さんが教えたのだろう。
「ハゼが釣れた」
「へえ、地元じゃよく釣ってたわ~」
コロニー勢のタチアナが感心してた。
コロニーはすべて人工環境だ。
それゆえに好き放題魔改造してることが多い。
「海水魚の施設は維持できなくてよ~。淡水魚に切りかえて農業用水の水路に放流しててよ~。腹減ると魚釣ったりしてたわ~」
あまり治安のよろしくないコロニーだ。
海水魚の養殖施設も維持できなくなったのだろう。
いまは帝国軍が入って治安活動してる。
だいぶ治安も回復したはずだ。
「うちはやっぱり宮殿に川を作ってましたね。小さい頃は小魚を捕まえて水槽で飼ってましたね」
シーユンも思い出があるようだ。
「それどうするでありますか?」
ワンオーワンに聞かれた。
飼うのも時間的に難しい。。
「少し観察したら堀に戻そうかな? 捕まえた魚食べて食中毒になりましたなんて言ったらオシオキされるし……」
……カナシイ。
とりあえずレポート上げておく。
こんなのいたよってやつ。
「それにしても……レオ様。その動物たちは?」
俺の頭の上に巨大な鷹がとまってる。
俺の後ろでは狐みたいな生き物が寝そべってる。
近衛騎士も慣れたもんで気にもとめない。
「本当になんだろうね!」
「クアッ!」
鷹がお返事してくれた。
とりあえずタチアナが撮った写真と動画をみんなに送る。
そしたら嫁ちゃんからメッセージが来た。
「メディアに送ったぞ」
また陰謀の予感!
鷹が「クア!」とまた鳴いた。




