第四百九十七話
なぜか俺は十字架に縛りつけられて周りにカミシロ一門が松明を持って囲んでいる。
完全に謀反である。
だけど我がクロノス近衛騎士団ですら「また王様か」「王様なら大丈夫でしょ」と完全スルーである。
日頃の行いが悪いせいだろう。
「大会……楽しみにしてたのに……」
陸上部の女子に槍を突きつけられる。
やめろ! 獄門はやめろ!
あと野球部!
俺の腹と胸に的を描くな!
胸にハートマークとかイラつくわ!
「わかったから! スポーツ大会の開催を約束します!」
「おおー!」
体育会系どもから歓喜の声が上がる。
そしたらマスクを被った集団が松明で俺を炙る。
やめろ! 俺はスルメじゃねえ!
つうか先頭! そこのタイガー!
クレアさんだよね! 止めてください! オナシャス!
「プロレス……発表会」
「スポーツ大会で一緒にやるから!」
「レオ、約束だよ」
やだ怖い。
「この状態での約束が合法なのかはクロノスの裁判所に一任して……やめろ火あぶりはやめろ!」
冗談なのに!
この謀反によって秋のスポーツ大会を約束させられたわけである。
俺はカミシログループ・クロノスの本社に泣きついた。
民主主義なら「利益供与だー! 腐敗だー! 汚職だー!」って怒られるところだ。
でも! 俺たちの会社だもんね!
それにクロノスの会社に仕事振り分けてるもの。
たしかにカミシログループは外資だ。
だけど上層部の一部を除いてクロノス人だ。
実際の業務も俺たち国家じゃ把握できない民間企業との橋渡しである。
しかたないじゃん。
イナゴに壊されて未だに休業状態の幽霊企業多いんだもん。
民間の横の繋がりじゃないとわからない情報が多いのだ。
特にゼネコンな!
あとイベント会社も!
結局「仕事じゃー! 仕事したい人この指止まれ!」ってやってくれる会社が必要なのである。
プロジェクトの責任取るのは俺とカミシログループだし。
というわけで楽しい体育祭である。
文化祭と同じ会場を押さえて~。
キッチンカーの計画丸投げして~。
え? 海賊ギルドも関わらせろ?
いいけど。犯罪やったら俺が直に乗り込むから。
え? 香具師もやってるの? そっちは合法的な会社?
あ、そうっスか。……食中毒出すなよ?
食中毒出したら一方的に悪者にして殴り込みな?
お返事は?
「はい!」
良い返事である。
警備計画をリコちに丸投げして~。
ケビン、衛生兵の計画……。
「国試の受験で死にそう」
ごめん……。こっちでやっとくね。
医師国家試験だもんね。
あとで差し入れするわ。
果物がほしい?
あ、はい。了解です。
「あと、ケーキ焼いて!」
「うっす、ニーナさんに相談するっす!」
ケーキ焼けるけど、ニーナさんの方が女子向けキラキラケーキに詳しい。
俺だと生クリーム=攻撃力になるからな。
ドレンチェリーとアラザンとチョコスプレーを注文しておこう。
ついでにチョコバナナでも作るか……。
あとお店の申請書書いとこ。
こうして俺は完全にお店を出店するつもりだったのだ。
「ダメに決まってんでしょ」
クレアに呼び出されて申請書突っ返された。
「オレ……カナシイ」
「国家元首が屋台出さないの!」
「ウウ……オレ、料理作リタイ……食糧自由化前……オレ、飴細工ノ通信教育受ケタ」
腹減りすぎて、つい受けたものだ。
動物はマスターしたぞ! えっへん!
「宮殿の厨房使っていいから!」
「ウッホーイ! 今作ル!」
スキップしながら厨房へ。
和ハサミとバーナーで作っていく。
やはりこういう細かい作業はいい。
思考がクリアになって今ある問題が見えてくる。
「はいウサギ!」
厨房の料理人に渡す。
「……王様。これ売れますよ」
「ふふふふふ……」
なお俺が厨房に行った瞬間、ワンオーワンがやってきた。
ほぼ特殊能力である。
ワンオーワンには柴犬を作って渡す。
「ありがとうであります!」
タチアナとシーユンもやって来た。
シーユンには白鳥。
タチアナには金魚を作る。
「す、すごい……」
「クオリティ高ッ!」
「ふふふふふ、餓死しかけた者の集中力をなめるな~! ぐわーはっはっは!」
というわけで体育祭の準備は進んでいくのだった。
それはそれとして、お仕事。
エディと会議。
「プローン旗だがパイロットはクロノス人だった、全員が退役軍人。大佐……今は大将閣下に反発して軍を飛び出した者ばかりだ」
「そりゃねー、国家元首が外国人じゃ怒るでしょ~」
「いや、レオ。お前のことは受け入れてるみたいだぞ。『イナゴ災害で不甲斐なかった大佐を上につけるのだけは許されない』と供述してるそうだ」
「ねえ、なんで? クロノス人の俺への好感度の高さ何なの? 俺外国人だよ」
「しかたないだろ。必勝の猛将で外交上手。圧政もせず。ちゃんとリスクを説明するし、情報も開示するタイプの王様なんだから。だいたいさー、あの嫌われ者のプローンを保護した人格者って元から評判だぞ。甘ちゃん寄りでな。あの状況だったらさ、俺でも滅ぼす選択しただろうからな」
「今までの選択すべてが自分に降りかかってきたのね!」
絶滅しそうな種族の保護のつもりだったが……やっぱ普通なら滅ぼすのね。
でも……うーん、敵だからっていちいち滅ぼして無慈悲って悪評がつくのも嫌である。
他の勢力に降伏を迫るときの足かせになる。
皆殺しにした実績がある相手に降伏しないだろって話よ。
降伏した相手には甘いって思われた方がマシだ。
銀河帝国向けには、いい話風にすれば納得してもらえるし。
バトルドーム加盟諸国には交換条件で援助を求められたが……元から援助するつもりだったしねぇ。
仕事回してるし【わかり合えないけど仲間】くらいの位置になってる。
主張すべきことは主張しないとね。
ラターニア人の約束への執着くらいの【厄介な習性】に思われてる。
上出来じゃないかな?
「それで誰が支援したの?」
「資金の原資は逃亡した商人のようだ。禁止品の密輸に不正蓄財に物資の価格つり上げに……」
厳しめに懲らしめた連中だ。
甘ちゃんだと思われてた俺が、徹底的に取り締まりしたからびっくりしたようだ。
かなり逃げられてちゃったんだよね……
俺は食い物の恨みは軽視しない。
火事場泥棒も許さないし、麻薬や武器の輸入したやつらもぶっ潰した。
少々の賄賂は許すけど、賄賂を制度化しようとしたアホどもは地獄送りだ。
俺の本気がわかったからこそ、財産残ってるうちに復讐したのね。
「ゼン神族は?」
「尻尾がつかめない。むしろラターニアや太極国で問題になってる。正式な謝罪がしたいと打診されてる」
「うっわ、めんどくせえ!」
別に両国ともに悪くないのはわかってる。
世に出たものが横流しされるのは運命である。
うーん、めんどくさいな。
「体育祭に集中しようか……」
こうして事件は一旦棚上げになったのである。