第四百九十四話
クレアです。
私ちょっとだけ怒ってます。
私の所属するプロレス研究会。
もう士官学校生じゃないから法人にしたけど。
軍属で会社の職員扱いだとダメじゃない?
って話になったから外務省の関連法人にしたのね。
外務省を引退した人をトップにしてプロレスラーのタンク先生とザウルス先生に実務やってもらってる。
タンク先生とザウルス先生は帝国の国営放送で外宇宙を紹介する番組に出演してる。
様々な国の文化や風習を紹介してる。
番組は外宇宙でも人気だ。
そう……、とうとうクロノスでもプロレス興行やるぞってなったのに!
もう着替えちゃったのに!
中止ってなんじゃああああああああああああああああああッ!
中止のアナウンスを聞いたとき折りたたみ椅子を持ってポカーンとしてた。
イソノくんことマスク・ド・イソノ選手もポカーンとする。
野球の試合やった後でプロレスの試合に出る体力お化けの目から涙があふれた。
「なんじゃそりゃあああああああああああああああああああッ!」
がんばったのに。
プロレスの試合だけじゃない。
現地の法律や風習を調査してどこまでやっていいか。
現地の人が怒らないような試合を考えた。
そのすべてがいきなり中止に追い込まれた。
「ひでええええええええええよおおおおおおおおおおお!」
イソノくんが号泣する。
お嫁さんに勇姿を見せたかったのだ。
中島くんと抱き合う。
中島くんも泣いていた。
暑苦しいけど……そういう友情嫌いじゃないよ。
「それよりも避難!」
「うわあああああああああああんッ!」
クロノス兵とイソノ家に中島家の近衛騎士団、それにクロノス近衛騎士団が私たちを誘導する。
護身用のパルスライフルを渡された。
あわててたせいかパイプ椅子も持ってきてしまった。
そしたら警備用重機と敵機が戦っていた。
敵機はプローン旗が描かれてる。
ありえない。
するとイソノくんが「翻訳」とつぶやいた。
そしてカミシロ一門の権限で館内スピーカーにアクセス。
プローン語翻訳アプリで歯舌をこすり合わせる音を流す。
えーっと強い拒絶かな?
この場合は上位者から下位者に対する【やめろ】だと思う。
判別が難しいけど、たぶん司教レベルからの【やめろ】かな?
プローン語って難しいよね。
だけど答えは返ってこない。それどころか戦闘をやめようともしなかった。
イソノくんは激怒した。
「この偽物が! クロノス軍! 全力排除せよ!」
イソノくんってバカのフリしてるけど頭良いよね……。
とっさにプローンの上位者の命令思い出すなんて。
かなりプローン社会を学んでなきゃ出てこないよ。
これで計画的なテロだって確定した。
次の瞬間、警備車両が撃たれて倒れた。
「撃て!」
イソノくんが号令をかけるとパルスライフルの一斉射撃が始まった。
ビームが当たるけど効果はあまりない。
ビームが霧散したかな?
戦闘用人型重機ってライフル持ってる暴徒用の装備だもんね。
「よし、わかった。スピーカーオン」
イソノくんがスピーカーがオンにする。
「てめえええええええええええ! なにがプローンじゃぼけえええええええええ! そりゃラターニアの警察モデル、しかも現行品の横流しだ!」
「なんでわかるの?」
「パルスライフルを無効できるのは銀河帝国の加工だ! ラターニアの新型機だ! よしなにもできない! 逃げるぞ!」
だけど逃げようとしたらこっちに突進してくる。
「クレア! 俺らが引きつける。パイロット倒せ」
「え? だって」
イソノはパイプ椅子を指さす。
「オラオラ! カミシロ一門の気合見せろ!」
「うおおおおおおおおおおおおおッ!」
イソノくんたちが突撃する。
と言っても勝算はある。
対海賊用のネットランチャーだ。
ネットランチャーで動きを封じる。
その間に私は階段を登る。
そして会場の二階席からジャンプ!
パイプ椅子で思いっきり操縦席の窓をぶん殴る。
そのまま肩に着地。
割れない。当たり前だ。
操縦席にいたクロノス人が笑う。
もう一回パイプ椅子で殴打。
「バカめ! 防弾だ!」
そんなのわかってる。
それでもパイプ椅子で殴ったのには理由がある。
演出だ。
そろそろかな。
私はぴょんっと下に飛び降りる。
「ぐははははは! 帝国人とはなんと愚かな!」
「さん」
私は音声をスピーカーに繋いでカウントする。
「は?」
「にい」
「お、おい、まさか」
「いち」
「や、やめ!」
「ぼんっ」
人型重機が爆発した。
ゾーク用手榴弾である。
飛び乗ったときに仕掛けた。
「はい確保」
騎士団が犯人を確保した。
ラターニアの新型だ。
このくらいの爆発じゃ死なないだろう。
骨折くらいはしてるだろうけど。
すると会場から声援が発せられた。
「すげえ! 生身でロボット倒した!」
「な、生身だろ! 女の子だぞ! すげええええええ!」
「バカ! ありゃ王様の奥方だ!」
「お、おい! ってことは王様も銀河帝国人って素手でロボット倒せるのか!」
「そりゃできるだろ! 神に選ばれた王だぞ!」
なぜか……素手で戦闘用重機倒したことになってる。
い、いやグレネードだから!
グレネード使ったから!
イソノくんが哀れみの眼差しを向けてきた。
「あきらめろ。これがレオに関わった者の末路だ……」
「えー……」
私はまだ人間側だと思うんだけど。
引きずり出すとクロノス人。
「ルナちゃん、照合お願い」
「はーいクレアちゃん。えっと、クロノス解放戦線の人ですね、現在指名手配中」
「容疑は?」
「塩の価格つり上げと穀物転売容疑ですね」
「ショボ!」
ショボいけど食糧難のクロノスでは重罪だ。
そう……、重罪にしたのには理由がある。
市民にリンチさせないように専用刑務所に隔離したのだ。
【レオ大公まで栄養失調で倒れるような状態で少し我慢しろって言ってるだけなのに……なに考えてるんだ!】
こう市民がお怒りなのである。
レオは子ども用のミルクなんかは身銭切って輸入してるもんね。
そりゃ怒るよ。
前に何人か捕まえたときに刑務所が襲われたことがあった。
そういうレベルなのだ。
レオが我慢してるから俺も我慢する。
そういう市民は多いのだ。
犯人は捕まるがその場で市民の集団に蹴飛ばされてる。
「クレア……止められる?」
イソノに聞かれる。
「無理」
「ですよねー」
「あー……背景知りたいから殺しちゃだめよ」
イソノが優しくアナウンスしたらリンチが止まった。
すると今度は声援が浴びせられる。
「奥様がんばれー!」
謎の声援に包まれながら避難した。
こうして銀河帝国人は素手でロボット倒せるという偏見が広がっていったのである。
いやゾーク用のグレネード使ったから!
それにしても最初から気になってるんだけど……敵が実弾兵器なのはなぜだろう?




