第四百九十三話
うっす! メリッサだよ!
いやー、びっくり。
収穫祭で俺とクレアとレンがクロノス妃になることが正式に発表された。
すでに正妻はヴェロニカちゃんなんだけど、クロノス妃は私たちみたい。
いやー、びっくり。本当にびっくり。
俺、本当に結婚するんだな。
いまだに実感ないや。
……なんて思ってたらいきなり避難誘導だよ!
演武まだやってない!
いやー、そうそう演武。
ちょっと腐ってたんだよ。
そりゃさーレオに負けるのはしかたないよ。
あいつほぼ人間じゃないし。
大型の猛獣が一目見て命乞いするレベルだし。
そういうのに詳しいレンに聞いたんだよね。
そしたらさ……。
「旦那様は初対面から人類から片足はみ出してる感じでしたよ。熊? ライオン? ボス狼? 象かなって感じで。ゾーク戦争直後くらいから完全に人間やめましたね~」
と笑顔で教えてくれた。
最初はビースト種の血が先祖返りで出たと思ってたらしい。
オスにしては大人しいなと思ってたら、ゾーク戦争あたりから本性剥き出しに。
それはそれでビースト種としては「あり」だったらしい。
そのまま婚約して見てたらオスとして成長しまくって。
「ああ……これビースト種じゃない」
って確信し、「もうお腹見せてもいいや」って思ったらしい。
異文化はよくわからないね。
というわけで旦那は最強として、最近では女子じゃリコちが突出してる。
何度か手合わせしたけどリコちは強い。
リコちはうちの蒸発した実の母親と同郷みたい。
となると館花家の剣術よりも自分に合ってるかも……よそう。
俺の技は親父や兄貴たちとの絆だ。
本当に血が繋がってるかすら妖しいしな。
カトリ先生に言わせると「お前もリコもたいして変わらんだろ」と言われた。
そうなのかな?
剣術はあまりスッキリしない。モヤモヤする。
これがスランプなのかもしれない。
それに比べて結婚の方は順調だ。
一年かけて準備だって。
クロノスの大きなイベントになるんだってさ。
なのでイソノと中島、それに男子どもをとっ捕まえてお話しした。
「なあお前ら、なんで俺の事ブス呼ばわりしてたの?」
「それはその……」
今までなんとなく許していたが原因だけは聞き出さねば。
もう怒りはないが原因だけは知りたい。
答えが欲しい。
「ま、待て! 違うんだ!」
イソノが声をあげた。
「違うんだ! 俺たちは……その……メリッサを……エロいなと思ってたんだ」
まさかの斜め上。
「それはちょうどいいブスって意味か!」
知ってるぞ!
男子の好きなやつだな!
「ち、違う! そうじゃない! エロいんだ! その、なんだ。清純派アイドルでもグラビアアイドルでもエッチなビデオのお姉さんでもない! 俺たちは表現する言葉を持たなかったんだ! そう、お前はエロいんだ!」
「やっぱ殴っていいか? 二人の嫁さんには許可取ってあるぞ」
「違う! 聞け! 俺らもわからんのだ! 妙に色気があるんだよ! お前は!」
「は?」
その説は前に聞いたような……?
だがふざけてるとか思わなかったが。
もしかして……本気……だったのか?
「ブス決定戦の候補者はエロいんだ! そう! エロい! 俺ら10代の心をかき乱す系の魔性の女なんだよ! 表現が追いつかなかったんじゃあああああああああ!」
イソノ大号泣。
「なんじゃそりゃあああああああああああああああああああッ!」
というやりとりから……まあ許した。叩きたい。その横っ面。
正直、いまだに腹立たしいが……まあ、許してやった。
大公妃だしな!
やっぱ殴っておけばよかった……。
女性としては釈然とはしないものの……まあ、満たされた。
少なくともクロノスで俺をバカにするものはいない。
宮殿に行くと正式な結婚前なのに【奥様】って言われるのも少し、いや、かなり気分が良い。
……そろそろ人妻らしく【ワタクシ】にするか? うーん、今すぐは無理。
というわけで護衛をつけられて避難誘導される。
誘導する側の方が気が楽だ。
刀は親父がくれた先祖伝来の……って言いたいけど、人間国宝の手による新造刀。
逆にこっちの方が価値がある。
もともと子爵なんだから凄い刀持ってるわけないしね~。
手入れに専門の職人が就けられたレベル。
それをクロノスのお祭りで披露しろって話だ。
練習じゃあまりにスパスパ斬れるから焦った。
大学と共同で戦艦型ゾークの外骨格を斬れるように開発したものらしい。
普通の鞘だと居合なんてやったら、鞘ごと指が斬れてしまうので鞘専用の樹脂まで開発したとか。
いくらなんでも嘘だ!
いくら居合いでも刃に完全に接触するわけじゃないじゃん!
ってバカにしてたけど……あるかも。
とにかくスゴイ刀を持って避難。
もう着替えてたので袴と道着である。
「人型重機接近!」
会場の天井を突き破って重機が落ちてきた。
プローンの国旗がプリントされてる。
たぶん警察車両の改造機だ。
「奥様!」
「下がってな」
居合斬り。
等身が光った。
大気中の電気……いやわからない。
なんだこりゃ!
本気の斬撃が人型重機の腕に当たる。
スパッと斬れた。
切り口から自重で腕がひしゃげていく。
戦える!
筋力アシストなしでもぜんぜん問題なし。
だいたいさ!
カミシロ隊の人型重機制圧で一人前説!
あれだってパルスライフルとグレネードの使用は許されてるからね。
いままで近接武器だけで制圧できたのはレオとリコちくらいだ。
レオは操縦席急襲。というか化け物すぎて比較対象にならない。
リコちはパワーアシスト付きの戦闘服。
俺はそのどちらでもない。
自然と笑いがこみ上げる。
楽しい! 最高に楽しい!
こんなに思い通りに戦えるなんて!
足に一撃。
装甲の中のケーブルがちぎれた。
すると足が折れ重機が倒れた。
操縦席のクロノス人が見えた。
化け物を見る目だ。
いいぞいいぞ。楽しくなってきたぞ!
「し、死ね!」
人型重機が片手で拳銃を構えた。
拳銃って言っても人型重機用。
ミサイルみたいなサイズだ。
俺は納刀した。
引き金が引かれ弾が飛んでくる。
「アハハハハハ!」
拳銃の弾は完全に見えてた。
俺はそれを斬る。
一回、二回! 避けて横からもう一度!
弾がバラバラになっ地に墜ちた。
俺は拳銃の本体である手首を斬りつける。
これで戦闘力はなくなった。
「確保ぉ!」
「はっ!」
それを見てたクロノス人が歓声を上げた。
「メリッサ奥様すげえええええええええええ!」
「帝国軍すげえ!」
「そりゃゾークも屍食鬼もかなうわけねえわ……」
私は腕を上げる。
うぇーい。
少し成長できた気がした。