第四十九話
工事現場の電子錠をハッキングして中に入る。
人型重機がたくさんある……。
ただし戦闘用。
「ロボットバトルの違法闘技場じゃねえか!!!」
マフィアとかヤクザ運営のヤバいヤツである。
「通報する?」
「ケビン……できれば関わりたくないのだが」
「じゃあボクが通報するね」
通報してしまった。
おそらくここは警察も知っててスルーしてる場所だろう。
ロボットバトルくらいなら死人は滅多に出ない。
悪辣で手広い賭博場でもなければ検挙する意味はない。
ヘタに通報すると警察から個人情報がマフィアに送られて消されそうな気がする。
ケビンの場合エッチなお店に売られそうだが。
……あとで嫁になんとかしてもらおう。
「妖精さん、戦闘可能な機体ある?」
「レオくんの戦闘スタイルを考慮すると……そこのIDが狂った警察機ですかねー。チェーンソーとナックル、それに盾で武装してますよ。実弾のサブマシンガンもついてますし。ローラーダッシュもありますよ!」
白と黒の警察用の機体だ。
……これ完全にアウトだ。
「……待って、横流しじゃん。」
汚職の証拠じゃねえか!
知っただけで命が危ないやーつ。
こんなもんいらねえ!!!
「でもスペックは高いですよ」
スペック高いのかー。
これを見つけた運命に悪意しか感じないけどスペックは高いのかー……。
「……しかたない。使うか」
背に腹は代えられない。
システムをハッキングしてもらって乗り込む。
OSは警察用ではなく民間用のオープンソースをカスタムしてある。
「あんれー? なんで火器管制システムだけ帝国軍のなんだろう?」
やめろ!
俺の知らないところで敵を増やすな!!!
システムの横流しの露見とか開発会社や整備の上から下まで恨み買うじゃねえか!!!
「どんどん汚職のヤバい証拠発掘してくるのやめて! マジで消されるから!!!」
俺の命のろうそくがドンドン減っていくぞ!!!
だけど妖精さんは俺のシャウトをスルーした。
「ケビンちゃんはそちらの機体をどうぞ」
ポップなピンクカラーの機体だ。
やたらデザインがいい。
ケビンも乗り込む。
「所有者は女優のサーシャ・ドミトレスクで登録されてますね」
20代の若手女優だ。
アクションもののドラマによく出ていた記憶だが。
「どういうこと?」
「ここのオーナーの愛人で選手ですね。ほら監視カメラにキスする二人が……」
「やめれ!!!」
映像業界までズブズブじゃねえか!
「ちなみにオーナーは警察トップの……」
「やーめーてー!!!」
ゾークの方がまだマシである。
俺を個人的に殺さなければならない権力者とかシャレにならない。
警察トップにもなると侯爵くらいは簡単とまでは言わないが消せる。
……嫁に命乞いして処理してもらおう。
殺られる前に殺るしかない。
「へえこの機体、軍のシステムだよ!」
こっちも軍が絡んでるじゃねえか!!!
シャレにならん!!!
俺は死ぬ運命にあるのか!!!
「レオくん……軍が整備してるから状態はいいよってことで」
「妖精さん、あとで俺のために動いてね」
「殲滅ですかー? 人はなぜ争いを捨てることはできないのか……」
「生き残るためじゃね?」
トラックはここに置いて盗んだ機体で走り出す。
ようやく戦闘力と移動力を持った機体を手に入れた。
嫁に通信を送る。
「こちらレオ、戦闘ができる機体を手に入れた。そっちはどう?」
「婿殿、こっちは宮殿に物資を運び込んでる。前線はどんどん押し込まれておる。数日中に宮殿が陥落するかもな」
おかしい。
こんなに進行速度は速くないはずだ。
予定ではエッジがある程度成長するくらいの余裕があるはずだ。
「わかった。合流を急ぐ」
「婿殿頼むぞ!」
二人で走って行く。
普通の国道であるが戒厳令で道はすいている。
「ここに住んでいた人たちどうなったん?」
「かなりの人数が宇宙港で逃げたみたいだよ。さっきニュースが流れてた」
「逃げるあてがない人は?」
親戚や友人知人が安全な惑星にいればいいだろうが、帝都生まれで裕福でもない人は多い。
行くあてがない人がノープランで避難できる場所は少ないだろう。
例えばカミシロ領は常に農民と軍人を募集中だが帝都民からすれば刑務所よりつらい生活が待ち受けてるだろう。
いや帝都の生活水準が高すぎるのよ!!!
帝都民の生活水準を与えられる惑星なんてねえからな!!!
「各種地下施設とか宮殿に避難かな。宮殿は一帯が公園になってて、地下に防空壕があるんだって」
なるほど。
やはり帝都の施設はスケールが違うな。
公園とかカミシロ領じゃ優先度最低の施設ぞ。
進んでいくと宇宙港市と帝都特別区の境界の看板を見つけた。
「ここまだ帝都じゃなかったの!?」
「うんそうだよ。でも外の人は隣接する市も帝都って言ってるけどね」
「なる」
地方惑星出身者からしたら市レベルの違いなんて理解できるはずがない。
なんなら帝都惑星全体が帝都である。
帝都特別区内に入ると急に店が増える。
国道沿い数十メートルごとにレストランがある。
「みんなお休みだね」
戒厳令に逆らって営業してる店舗はないようだ。
牛丼チャージは無理だったか。
当たり前だわな。
特別区内を走っていると空気が変わる。
「いる」
隠密性の高い機体ではない。
俺たちはすでにやつらに発見されてるだろう。
足音が聞こえてくる。
妖精さんも気づいた。
「レオくん! 来たよ!」
「ケビン! 戦闘だ!」
「わかった!」
ケビンは実弾の機関銃を展開する。
俺はチェーンソーを取り出す。
頭の悪いカラーリングだ。
これで他の選手の機体を破壊するとウケたのだろう。
あれ……?
今の俺と戦闘スタイルあまり変わらなくないか?
……考えたら負けに違いない。
ゾークが前からやって来る。
「撃つよ!!!」
ケビンの声と同時に俺は敵に突っ込んだ。




