第四百八十八話
焼きそば……タベタイ……。
ぐるるるるる。
クロノス公国の正装で皆の前に出る。
なまっちゃいけない。軍人だもの。
だから軍艦にいたときよりも筋トレに精を出してた。
減量期のボクサーみたいになってきた。
そのおかげか正装お直し。
動きはシャープになった。
クロノス国営放送でも痩せていく俺の健康を心配する報道がしきりになされてる。
いやだって食糧難なんだからしかたないじゃん。
ラターニアや太極国からの援助でどうにかって感じだし。
そりゃ大公が倒れたらまずいけど、倒れない程度に庶民の食事に寄りそってるんだからしかたない。
俺だけ満腹じゃまずいだろがと。
炊き出しの頃はよかった……味見と称してお腹いっぱい食べられた……。
だが! とうとう! 収穫期である!
肉は……ちょっと今年は無理として……。
豆から合成すれば【肉っぽいなにか】はできる!
たしかに肉を完全再現ってのは難しい。
精度上げて肉っぽくしても人間の舌の方がレベルアップして違いがわかるようになっちゃうんだよね……。
だが【肉っぽい何か】は揚げ物にしてしまえばわからん!
味は濃く、そう濃い味! 米! これだけはある!
クレアの惑星から取り寄せた米!
調味料は確保してある!
ぐはははははははは! 待ってろよ! 収穫祭!
米! 肉! 野菜! 勝利!
さて収穫祭である。
俺と嫁ちゃんとタチアナである。
三人で同じオープンカーに乗る。
シーユンは太極国代表で別の車。
祭りはスポーツ大会やら国際見本市や国際会議なんかをセットで展開。
土地だけは余ってるからサクサク建物建てた。
いいのよ。国民に職を与えるのが急務なの。
自動車や重機の見本市に、コンピューターショーに……同人誌即売会も。
産業機械のもあるよ!
造形プリンターも悪くないけど、土地があるなら機械と労働者の方が効率がいい。
スポーツは野球にサッカーにと各国代表チームを派遣してくれる。
さすがにクロノスは無理だろと思ったら、イソノが支援してる社会人チームが出てくれるらしい。
その話をしたのが二日前。
「イソノ……お前……金の使い方上手だな」
「くっくっく、王様になっても餓死しかけてる貴様とは違うのだよ!」
な、なんだってー!
お前だってドクターストップかかったじゃん!
なおケビンであるが、暇になるとミネルバちゃんやハナザワさん、それに中島の嫁様と女子寮から単身赴任族の住む宮殿に来てくれる。
「もー! キミらは本当にバカなんだから! ほら食べな!」
食糧持ってきてくれて料理を作ってくれる。
いや俺たちみんな料理得意なんだけど、作られたからにはお残しはできない。
お残しは許されない。
それが宇宙海兵隊鉄の掟だ。
……なお、調理失敗は除く。
食べられるものは食べるけど。
「ほら卵!」
卵をたくさん茹ででくれた。
そう、俺たちに足りないのはタンパク質。
タンパク質があれば体重も維持できるはずだ。
嫁ちゃんはイベントの銀河帝国側の総指揮。
クレアとニーナさんは模擬店とイベントの準備。
メリッサとリコちは警備の指揮。
レンはスタッフの研修。管理側。……これができるのよ。
なんかレン、忙しくしてるなって思ったら国家資格の上級侍従資格取ったんだって!
俺と嫁ちゃんの秘書まで含めたメイド業務やってたのでそれで受験したらしい。
これで後宮まで含めた管理職の道が開かれた。
収穫祭終わったらクロノス宮殿の女官のトップに就任するみたい。
今回の収穫祭で管理側を学ぶんだって!
すげええええええええええ!
いや文官のトップよ!
俺たちも偉くなったものである。
なんて行ってたのがつい二日前だよ!
今は会場に着いて貴賓席で休憩。
もうスケジュールが厳しすぎてつらい。
嫁ちゃんとタチアナも一緒。
ゾーク代表のワンオーワンとケビン組、シーユンとお兄ちゃん、なんか来てくれたラターニア王、嫌がらせで呼んだサリアでブースが分かれている。
……と思ったら、なんかここにいちゃいけない感じがした。
「婿殿顔が真っ青だが」
「な、なんかここにいちゃいけない気がする……」
「あ、アタシも……」
ジェスター二人が顔を青くしたことで嫁ちゃんが焦った。
「警備を警戒レベルを上げよ! ジェスター二人が警告を出してる!」
でも間に合わなかっただな。これが。
「よう、小さくなったじゃねえか」
「ぎゃあああああああああああああッ!」
俺に気配を察知させずに接近したその生き物は……カトリ先生!
「おうおう、暇だから来てやったぞ!」
「ご、護衛はどうしたでありますか?」
「お前さー、クロノス軍の教育どうなってんの? 弱すぎるだろ」
すでに倒された模様。
「うちの近衛隊は? リコちは!?」
「顔パスに決まってんだろ」
「でーすーよーねー!」
ぐ、カトリ先生が刺客だったらどうすんだ!
って刺客だったらもっと前に警告くるか。
「おう、ちょうどいい、会場で稽古するぞ」
「お話が狂ってやがるせいで意味が理解できないのですが!」
「いいからいいから。鬼神国のお友だちも来てるぞ」
やだー! 行きたくない!
タチアナは「アタシは関係ねえや」って笑ってる。
嫁ちゃんも「どうせ止められん」って顔だ。
俺はカトリ先生に連行された。
会場にはすでにイソノに中島、それとエディが捕まってた。
捕まえてるのは鬼神国のエリート部隊。
なぜ顔知ってるかって?
全員ボコボコにしたことあるからだ!
鬼神国の連中が俺を見てうれしそうな顔をする。
「レオの兄貴! カトリ先生に鍛えてもらいました!」
「なんでおっさん余計なことばかりするのぉッ!」
もう腹減りなのに動けとか言われるの! キツい!
「よーしレオ、まずは喧嘩してあげなさい!」
俺はゆらっと立ち上がる。
「お前ら……俺が買ったら屋台でメシ買ってこい……」
もうメシのことしか考えられない。
「へ、へい! おらぁ! みんなやるぞ!」
焼きそば焼きそば焼きそばぁ!
お腹がきゅーっと鳴った。
舞台に上がると歓声が上がる。
「プログラムを一部変更してクロノス大公、レオ・カミシロ・クロノスのエキシビションマッチが開催されます」
アナウンスがあると会場がざわつく。
「王様が戦うって」
「相手は鬼神国人だろ? 大丈夫かよ?」
「王様って銀河帝国最強らしいぞ」
「もしかして鬼神国人よりも強いのか?」
「鬼神国人の憧れの存在らしいぞ!」
半分嘘だな。
俺は鬼神国人と遊んでただけだ。
今回も遊びである。
おら、かかって来いや!
焼きそば買ってこい!




