第四百八十七話
アガスティアに生命の樹に扶桑樹に知恵の樹に世界樹に……古今東西というか全宇宙で木の神話がある。
クロノスでは世界樹の神話に近い。
世界樹が世界そのものであるという神話だ。
末松さんを捕まえて尋問。
いやだってゼン神族の手先まであるからね。
ところが末松さんはこう供述した。
「船霊様に分霊を置けと指示されたのです」
えー!
座敷童ちゃん!?
もう意味がわかんない。
座敷童ちゃんのところに行く。
座敷童ちゃんの神社はクロノスの宮殿の一角にある。
そこに行くとブランコで遊ぶ座敷童ちゃんがいた。
「うっす。座敷童ちゃん。」
『レオクン!』
トコトコやって来た。
「ねえねえ、あの木って何?」
『ヒモロギ』
神籬かな?
要するに木の神話である。
帝国でもあんまり聞かないな。
マンガとか小説くらいか?
「XXXX、XXXXニナルノ! クロノス守ル!」
一部聞こえない。
いや脳が拒否して言葉にならない。
でも悪意はなさそうだ。
うーん……。
「いいね!」
俺は考えるのをやめた。
考えてもわからん。
そもそも単語を理解することすらできないのだ。
人間に理解しろって方が無理である。
ということで嫁ちゃんに報告。
そしたら教主さんとリモート会議。
気絶から回復したてのとこだけど、がんばって起きてくれた。
ごめん!
「皇帝陛下の軍艦に神がいるんですが」
「……神ぃッ?」
「あー、えーっと、昔の風習で船に祭壇を作る風習があったんですけど。船を作った職人が古式ゆかしい様式を復活させましてね。それで祭壇がありまして」
「はあ……」
そりゃ異教の話をしてもわからんわな。
俺だってわかんねえのに。
「で、超能力者を中心に姿が見えるようになりましてね」
「はいいいいいいいいッ?」
「それでうちの副長の片腕で末松さんっていう超能力者なんだけど超能力を特定できない人材がいましてね。その人が神様の命で例の遺跡に分霊……えーっと御札みたいなのを置いたんですね。ご安心ください。俺もまったく意味がわかりません」
自分だって理解してないことを人に伝えるのは困難を極める作業だ。
だって意味わかんないもん。
「……は?」
「そしたら木が生えたんですね。神の木らしいです。ご安心ください。我々の誰も理解してません!」
嫁ちゃんが神社的なところに問い合わせ中、会議が紛糾してるようだ。
そりゃそうか。誰もわからん。
そもそも超能力者にしか見えないってのが、もうわけわからん。
「……悪意のあるものでしょうか?」
「神様に聞いたらクロノスを守ってくれるみたいです」
「……大公陛下。こちらの事情を聞いて頂いても?」
「あ、どぞどぞ~」
「神樹の伝説はクロノスにもございまして……ええ、聖女とともに正当なる王がやってくる。聖女と王が木を植え、育った木が民を守ると……」
よくある神樹伝説ではある。
「大公陛下。私も外つ国の王など……と内心思ってましたが……覚悟を決めました。……我が王」
「えーっと、俺的には批判者でいてくれて、早々に追いだして欲しいんですけど」
「なにを弱気なことを! 我が王!」
まずい!
俺の狂信者が生まれてしまった!
よしごまかそう。
「あ、うん、それはいいとして、クロノス民との文化祭なんですが。土地の使用許可を……」
「収穫祭ですな! ええ! 我らも全面的に協力いたします!」
あー! 宗教混ぜてきた!
「神樹様の誕生を祝いましょう! はっはっは! 外つ国の王の奇跡にショックを受けたこと、それ自体が己の未熟さゆえ! ええ、我が王! 我らクロノス人の救世主、いや全宇宙の救世主!」
ヤバい。
目が! 目が! ヤバい!
血走った目だ。
いやだめよ。
宇宙怪獣カワゴンに頼っちゃ。
軍の畑から盗んだイモしか出てこないよ?
「さあ! 神樹様の誕生を祝いましょう! クロノスに栄光あれ!」
「あ、あのね。栄光はちゃんと民主主義に戻してクロノス人の代表者を選んでからでいいと思うのよ」
「いいえ。レオ陛下こそ! 神に選ばれた! クロノスの王なのです!」
『ぽく大公だもん!』と言えない空気が醸成された。
どうしよう。俺は失脚したいのだが……。
失脚してお家に帰りたいのだが!
嫁ちゃんとイチャイチャしたのだが!
だが俺もわかってる。
この表情になった人間を説得する方法などない。
はい会議終わり。
さーて、祭りの準備しようっと。
俺はもうどうにかするのをあきらめたのだった。
さてジェスターの作り方であるが、成功の確率を考えると帝国民を増やした方がマシなレベルのようだ。
一匹だけでも増えるザリガニであるミステリークレイフィッシュを増やすのは簡単だ。
だけどミステリークレイフィッシュを作り出すのは、ほぼ無理ゲーというのと同じだろう。
銀河帝国自体が実験生物のゴミ捨て場……考えるのやめとこ。
俺としてはご先祖様が何者でもいい。
というかそこまで遡れない。
実家のカミシロ家は位だけ高い名ばかり侯爵家だし、俺は選ばれた勇者ではない。
それでいい。
だがラターニアには言いつけておいた!
どうなるかは知らん!
なにぶん昔のことだからな。
さて、文化祭であるが俺が仕切るわけにもいかなくなった。
だってジェスター問題に座敷童ちゃん問題であちこち説明に奔走してたから。
なのでクレアとエディに丸投げ。
警備はリコちに。
部下たちにクロノスの人たちと交渉してもらう。
俺はというとトーさんとビデオ会議。
「お祭りに最長老様をお連れいたします」
ということでここで外交なのである。
それよりも……だ。
焼きそば係は誰だ!
焼きそば係はわたさんぞ!
焼きそば係は俺のものだ!
そして俺は知らなかったのである。
暇を持て余しまくった最強の剣客……カトリ先生が迫ってるということに。
そうカトリ先生が向かっているのだ。
さらに木を見に来た勢力に……。
あと俺と遊びに来た鬼神国精鋭部隊。
クロノスの陰謀論者に。
そしてゼン神族。
そして体脂肪率低いのに5キロ減らしてドクターストップかかって、その後筋肉で2キロ増やしたのに3キロ減らした常に空腹の俺。
カオスの宴がいま始まろうとしていた。
焼きそば……タベタイ……。