第四百八十六話
装置が光る。
すると扉が開いた。
扉の先には別の銀河が……ってことはなかった。
古い記録媒体やらコンピューターと思われる装置が置いてあった。
妖精さんにデータ抜いてもらおうっと。
「妖精さん」
「はーい。あなたの妖精さんですよ~。端末繋いでください」
「へーい」
ちょうど良さそうなコネクタがあったので、線を自作して妖精さんのモバイル端末と繋げる。
「陛下が工兵というのは本当だったのですね……」
教主さんが驚いてる。
「自分パイロットなもので。銀河帝国じゃ機体が故障しても軽微な損傷なら修理できるように工兵の教育課程を受けるんです」
冷静に考えたら時給アップ狙いでパイロット課程を受けたからこうなったわけだ。
人生どう転ぶかわからない。
ボードゲームでも士官学校から外国の王様にならねえだろが!
「うーん。これはヤバい」
語彙力の消滅した妖精さんがうなった。
やだ怖い!
「レオくん、しばらく親子丼食べられないと思いますけどデータ送りますね。親子丼の味しなくなると思いますけど!」
「やだ怖い! 見ない!」
見ないって言ったのに大画面で表示される。
ふえええええん!
あー、うん、親子丼食べられないわ。
人間の脂肪が……その卵のようで……。
それはいままで一番詳細なマット、つまり野生化する前のジェスターの作り方だった。
解剖写真まである!
やめてー! 自分が解剖されてる気がするから! やーめーてー!
いやね、帝国に「死後解剖させてください」って俺が言われたら「お、おう。食わせてもらったからいいか」ってなるけどさー。
生きたまま解剖って言われたら「ヨシ、帝国滅ぼすぞい」ってなるじゃん!
やだよ俺! そんなの!
これどう考えても同意がないよね!
そういうのが嫌なの!
「ラターニア人を人工的に妊娠させて、実験したようですね」
かつてラターニア人は奴隷だった。
きっと手に入れやすかったのだろう。
そりゃさー、この銀河は基本的に自国民にしか人権とかないんだけどさー。
それでもやめようよ! 非道な実験!
なんでちょいちょい外道の話が出てくるかな!
「レシピがありますが……ほぼ意味がわかりませんね。おそらく未接触の文明のなにかを指してるようです」
胎児に特殊な薬品を投与して……いや違うな。
「なにかの生き物?」
「そのようですね。ウイルスか寄生虫か……そうして作った素体をさらに別の女性に人工妊娠させて遺伝子操作。うーん悪魔の所業ですね」
要するにわからん。
検証が必要だ。
「実験ノートがありますね。おっと、映像付きですよ。再生は……コーデックでっちあげて……いけました!」
再生すると例の水槽に入ったタコが現われる。
海賊ギルドのトーさんと同じ種族だ。
どうやら研究員のようだ。
うーん……聞いてみればいいか。
「この種族、映像でよく見るわりには遭遇率が低いんですよね」
そうなんだよね。
トーさんくらいかな。
海賊ギルドに連絡。
「トーさん、レオです」
「陛下。お久しぶりでございます」
海賊ギルド幹部の女性、トーさんが出てくれた。
彼女の部下の一部が足を洗ってクロノスの海兵隊になってる。
「ちょっとセンシティブな質問なんですが……」
「なんでしょう?」
「トーさんの種族について教えてください」
「フタポジィ人と呼ばれてます。銀河帝国公用語だと【タコ人間】ってくらいの意味です。プローンと同じく貝類を祖先に持つと言われますが人食いではありません」
「その国は?」
「かつて科学で名を馳せた国だったらしいですが……ずいぶん前に滅んだようですね」
わからないようだ。
そりゃそうか。
自分の生まれる前の事なんかわかるはずないわな。
「ゼン神族との関係は?」
「現在は特に。滅びる前は従属していたようですが」
なんだろう。
いま頭の中で何かが繋がった。
ジェスターの原種であるマットを生み出したのはフタポジィ。
それで怒りを買って滅ぼされた。
と、仮定すると納得できる。
「わかりました。またご連絡します」
「陛下、我らの長老にお会いしますか?」
「長老?」
「長老と言っても滅ぶ前の国を知ってるわけではありませんが……」
「お願いします」
こうして会うことになったのはいいんだけど~。
親子丼食べられない不幸をみんなにも分けてあげようっと♪
「妖精さん、みんなにも一斉送信」
「あ、レオてめッ……ぎゃあああああああああああああッ!」
イソノアウト。
「ぎゃあああああああああああああッ!」
中島アウト。
エディは「ぶっ殺すぞテメエ」って顔してる。
ふははははははー!
俺の勝利だ!
と思ったらリコちにアイアンクローされた。
「……レオくん」
「り、リコち! ギブ! ギブアップ!」
「クレアちゃん?」
「オシオキしといて」
ぎゃあああああああああああああッ!
「メリッサちゃん?」
「親子丼の恨み♪」
みゃあああああああああああああッ!
「レンちゃん?」
「私は怒ってませんが……助けられません♪」
にゃあああああああああああああん!
「タチアナちゃん?」
「ぶっ殺して」
タチアナにまで見捨てられた!
「アリッサちゃん?」
「帝国が来るまで狩猟生活だったんで怒ってませんけど。教育的指導お願いします」
びぎゃあああああああああああ!
「末松さん……は逃げたか」
末松さん……恐ろしい子!
「ごめんなさいは?」
「ごめんなしゃーい!」
ぶにゅ。
こうして悪は滅んだ。
こうしてリコちはカトリ先生に続き俺を止められるストッパーと尊敬を集めるのだった……。
なぜだ!
俺は悪く……悪いか。
なお嫁ちゃんに流す度胸はなかったので、夫婦仲は問題なし。
俺は! 喧嘩を売る相手は! ちゃんと考えてる!
ただカミシロ一門による会議で児童保護施設で一週間の奉仕活動を命じられた。
焼きそばと焼き芋の屋台をやろうと思う。
そしたらクロノスの議会に「それ公式行事にしたら」と言われた。
お、おう。なんか規模が一気に大きくなったぞ。
屋台に、イソノと野球部が各地で指導してた野球のエキシビジョンに、同じくサッカー部のエキシビジョンに……。
すでにプロとして活動してる吹奏楽部でしょ。
そしたらクレアのプロレス研究会が黙ってるはずないわけで……。
こうしてジェスターの謎はいったんおいて、カミシロ一門の文化祭シーズン到来である。
王様になっても学生気分が抜けない俺たちであった。
で、そのときは完全に忘れてたんだけど。
末松さんと座敷童ちゃん。
地下に謎の祭壇があって座敷童ちゃんの分霊を置いたらしい。
意味わかんないよね?
ねえ、ぜんぜん意味わかんないよね?
でも木が生えてきた。
巨木がにょきっと生えてきた。
ちょうど文化祭の計画が持ち上がったころかな。
教主さんはそれを見て寝込み、教団は会議を開始。
嫁ちゃんをはじめとする俺らは見なかったことにした。
……ですむはずないよね。はっはっは……。