第四百八十四話
戴冠式を受ける。
頭に光るのは王冠。なんか宝石でキラキラしてる。
なぜだ!
こういうときは民主主義が勝つってのが定番じゃないのか!
テメエら正気か!? 俺は外国人だぞ!
ねえ! なにか言えコラ!
「大公陛下に敬礼!」
こっちも軍人に刻まれた反射神経で敬礼!
銀河帝国海兵隊式敬礼!
兵士たちがパルスライフルを空に撃つ。
「いま我々は歴史的転換点にいます! クロノス公国が正式に発足しました!」
俺はずっと「なんでこうなった?」と心の中で反芻していた。
軍の鼓笛隊。……だけじゃ足りなかったので学生のマーチングバンドも参加してもらった。
ちゃんと日当出したもん!
進学で有利になる直筆感謝状も書いたし!
俺はオープンカーに乗る。
手を振りながらパレードと共に移動する。
宮殿というには武骨な建物。
軍事基地だ。
俺は今日からここに住む……嫌でゴザル!
下町の長屋がいいでゴザル!
ふえーん!
宮殿では嫁ちゃんが待っていた。
俺はひざまずく。
「皇帝陛下に永遠の忠誠を!」
嫁ちゃんがニヤッと笑う。
「我が伴侶に永遠の愛を!」
剣の腹で背中を叩かれ終了。
日本刀でやりたかったけどクロノス式はこうなんだって。
嫁ちゃんが大きな声で宣言する。
「クロノスの民よ! 今日から貴公らは我が銀河帝国の家族じゃ! 銀河帝国皇帝ヴェロニカが宣言する! クロノス公国を正式に承認する! 我が夫を上手く使え……銀河帝国最強の戦士にして外交の天才、我が夫こそゾークすら恐れた銀河帝国の切り札ぞ! 我が国からの最高の贈り物である!」
あっれー?
その言い方だと間違ってない。
……おかしいな?
自分の評価だと、常に目標ラインギリギリで駆け抜けた感じなんだけど。
「だけど夫としてのレオは渡さぬからな」
ドッと笑いが起きた。
違う。ギャグじゃない。本気だ。
嫁ちゃん目が笑ってない。
タマヒュンである。
嫁ちゃんの騎士としての認められて、今度は俺の番。
本来だとクロノスの神への神託を受ける儀式があるらしい。
王家が滅んでからかなり経つから細部はよくわからないみたいだけど。
ま、俺は神道と仏教のチャンポンなので、そこら辺は簡易でやる。
クロノス神の像が神殿から出される。
神殿のある惑星はへんぴな場所にあって戦略的価値がゼロ。
国教というわけでもなく政治にも無関心。
最低限の兵士しかいない。それで見逃されたらしい。
俺は神殿から運ばれてきた像の前でヒザをつき祈りを捧げる。
クロノス教は多神教で俺は主神の像に祈りを捧げるってわけだ。
主神は女神。
女神から生まれた聖女と王がクロノスを繁栄に導きましたとさ。
……これ絶対、王を後で継ぎ足したよね?
王権神授説的な世界になったとき王をねじ込んだよね?
最大の被害者の俺に正直に言ってみ?
怒らないから。
もうね教主の爺様をにらむ。
ただの八つ当たりだけど。
中途半端にキレてたらいきなり像が光った。
照明でも入れてるんか。
あれか外側は光当てると透けるみたいなやつか。
すると教主の爺さん、口をパカーンって開けて固まってる。
うん?
「な、なんと! 像が光った!」
周りの人たちが大騒ぎする。
教主だの次席だのが本気で驚いてた。
……まさか! ジェスターか!?
そうだよ! 聖女だよ! ジェスターだ!
やめれ! ジェスターに反応するのはやめれ!
その血は伝説の勇者じゃない!
ただのリアクション芸人だっての!
「か、神に選ばれた君主……」
「我々の王が帰ってきた……」
「大公閣下万歳!」
やーめーてー!
ぜったい気のせいだからやーめーてー!
俺は命乞いモードである。
いやああああああああああああああ!
……この日、俺の支持率は100%に到達したのである。
宮殿の一角に俺の家がある。
日本の城方式にしてみた。
近衛の詰め所がすぐ近くにあるのでセキュリティは万全。
家は普通の家。
風呂トイレ完備!
横に広い構成だ。
いやこれでも宮殿入れても前にあった大統領公邸の半分くらいの敷地である。
宮殿は軍事基地と職場兼用で振り切った。
庭園とかあっても管理できないしね。
歴史がないからこその暴挙ではある。
で、余った土地は国に使ってもらってる。
火除地の公園にするみたい。
恩賜公園的なやつかな~。
「水族館行きたいな~」
ってつぶやいたら中に作ってくれることになった。
やだ怖い!
うっかり口滑らせられない!
スペースイナゴであるが農家による抹殺作戦が開始。
いや結界あるんだけど、いきなり耐性つくかもしれない。
なぜか……いや当たり前なんだけど、クロノス公国全土でボランティアも参加。
土の中のイナゴなんて存在を許さねえぞっていう勢いで駆除をする。
と言っても姿形はなし。
初見殺しの大量殺戮兵器だけど結界があれば怖くない。
さらにイナゴに有用な毒を作れた。
これが……納豆菌である。
いや納豆菌そのものじゃないんだけど、似たような菌である。
もともと蝶類の幼虫には効果あって、昔からそういう薬が使われてる。
その一つが宇宙空間での実験でスペースイナゴに効果があることがわかった。
卵にも効果あるって!
もともと自然界の生き物じゃないしね。
蝶の遺伝子でも使ってるのかな?
ということで散布。
クロノスの土から培養した菌だから土着生物には影響ないって。
え? うちの庭の土から発見した?
お、おう。まあいいや。
長屋の人たちに挨拶してお引っ越し。
どうせ単身赴任勢が入り浸るので多段ベッドは新居にそのまま設置する予定だ。
「ちょっと男子ぃッ! トレーニングベンチ自分たちで持って行きなさいね!」
男子というかイソノの野郎に言った。
「レオ! てめえも懸垂台持ってけよ! あとサンドバッグ!」
「はっはー! バカめ! 俺たちは宮殿の兵士用トレーニングルーム使い放題だ! これらは近所の連中に引き渡すのだよ!」
「あ、ずりぃ! 知ってて教えてくれなかっただろ!」
「伝えてないことを忘れてただけだ!」
「もっと悪いだろ!」
軽トラに荷物を積み込んでっと。
俺が運転……おっと侍従長さん。
え? お車のご用意があります?
あ、はい。
身なりを整えて……あ、はい。
クロノス軍の礼服に着替えて。
長屋や近所の連中が集まっていた。
商店街の店主たちもいる。
「不肖! レオ・カミシロ・クロノス! 大公就任につき公邸に転居いたします! 皆様には大変お世話になりました!」
一礼。
エディとイソノと中島も一礼する。
「我々もお供いたします! 皆様、ありがとうございました!」
拍手されながら俺たちは公用車で長屋を後にした。
「がんばれよー!」との声援に手を振って応える。
メディアの取材まで来た。
その熱狂ぶりはすさまじいの一言。
「なあ、イソノ。その昔、皇帝ネロっていうのが……」
「次それ口にしたらしゃべれなくなるまでぶん殴るからな。オメエが言うとシャレにならねえんだよ!」
こうして俺は国民の熱狂的支持で公邸に移り住んだのである。