第四百八十話
仮設住宅を建設して公的な炊き出し終了。
やっぱり年寄りはあまりいないな……。
おばちゃん軍団のリーダーのハーさんはそれでも67歳。
クロノスの料理店やってて力仕事も普通にこなすし走れる。
あの日は店の定休日でラターニア銀行にいたらしい。
お店はなくなっちゃったけど前向きに生きてる。
しばらくはおばちゃん軍団でお店をやるようだ。
おばちゃんたちの店は屋台区画にある。
屋台と言っても食べ物ばかりじゃない。
服に電化製品に工具に燃料なんかも売ってる。
外の調理台用に炭なんか売ってる。
仕立屋や服の直し、服のクリーニング組合の出張所もある。
靴の修理なんかの各種修理業や鍵開けなどもある。
で、奥に公営浴場も作った。
生活支援金漬けにして働けないようになる前に屋台でいいから動いてもらうことにした。
仕入れの金は貸し出すよ~って感じかな?
この頃に大急ぎでやって来てくれたゼネコンの皆さんが到着。
ラターニアと銀河帝国の精鋭である。
太極国はまだ再建中だからそっちがんばってね。
ただ製造業は帝国が強いんだよね。
クレアがアップをはじめた。
現在クレアは精力的にカミシログループのゼネコンとお話ししてる。
いやインフラ作るんだけどさ……。
ほらクレアは明るい独裁だから……。
やりすぎないでね。
で、俺はおばちゃんたちの店に行く。
屋台街を歩くと住民に声をかけられる。
「あ、大公様! これ持ってって」
30歳くらいのお姉様に果物を渡された。
柑橘類みたいなやつ。
みかんとオレンジの中間くらいの味。
クロノスの俺の家、仮設住宅で食べようと思う。
「お金払うよ~」
「いいから! お仕事がんばってね!」
「あざっす!」
こんな感じで歩くだけで荷物が増えていく。
レイブンくんたちもいろいろもらってる。
すっかり人気者である。
なんでこんなに声をかけてもらえるのか。
それは簡単だ。
だって俺、いま仮設住宅に住んでるんだもの。
クロノス民扱いで。
みんな近所の人。
嫁ちゃんとは別居中。カナシイ。
いつの間にかクロノス語も普通にしゃべれるようになった。
共同の炊事場と洗濯機使ってるし、共同トイレも同じ。
ゴミ拾いなんかもレイブンくんたちと普通に参加してる。
おかげで犯罪なんぞ起こらない。
鬼神国の子分どもが警官やってくれてるし。
ちゃんと給料払ってるんだからね!
ハーさんの店が見えてきた。
「やっほー、おばちゃんいる?」
「おおー! 大公様どうしたの?」
ハーさんとおばちゃんたちが出てきた。
炊き出し手伝ってたんですっかり仲間である。
「あのさー、お願いがあってさ」
「金は貸さないよ!」
「借りないって!」
借りたかったら国に借りるし。
「冗談だって。それでアタシになんのお願いだって?」
「うん、子ども保護してる施設あるじゃん。軍の」
「悲しいねえ。預かってやりたいが、アタシらも家族がどこにいるかもわからないしねえ」
そう言うハーさんは独身である。
でもハーさんの店で働いてる従業員の大半が未だに家族の安否もわからない状態だ。
子どもたちも家族を探してやりたいが、探した方がわからない状態である。
「そろそろ食事が限界でさ。スタッフ派遣してくれない? 国の正式な依頼ね」
別におばちゃんだけじゃない。
他の店にも声をかけてる。
「あ、ああ、いいけど。大公様って本当に大公様なんだね……」
「自分でも大公ってなんだっけって思うわ……でさー、調理できる仕事ない人いたら声かけてくれない?」
屋台で働きたくないでゴザルって人も多い。
高級店の従業員は特にね。
今まで積み上げたキャリアがいきなり無になったと思うと……。
がんばって立て直してもらうしかない。
おばちゃんたちの店を出て屋台で食糧を買う。
俺の夕飯である。
「レオの兄貴! お疲れ様ッス!」
鬼神国の警官が俺に挨拶する。
彼らは俺の子分である。
どうしても手伝うって言うから警官にした。
クロノス警察の服が手に入らなかったので帝国軍の警官の服を着せてる。
クロノスは警察は軍の一部みたいなんだけどね。
実はその辺もまだ勉強中だ。
大佐だって軍人だけど、組織図の細かいところの細かい話なんてわからない。
同じ組織内でも、自分が経験してない部署の知識って曖昧だよね。
大佐は大佐のまま軍のトップになった。
上層部で生き残ってるのが大佐だけだったのである。
システムとデータベースの復旧したら昇進させる予定だ。
でだ、鬼神国人を警察官に起用したのは会心の策だった。
喧嘩大好き鬼神国人の悪評は有名だ。
ただ喧嘩に特化してて他の悪評はない。
女性への狼藉とかありそうじゃん。
ないない。
喧嘩した後、女性放っておいて、さっきまで喧嘩してた野郎どもだけで飲みに行く感じ。
そういう生き物だ。
つまり東でクロノス人が喧嘩してると俺も混ぜろと飛んでいき、西で酔っ払いが喧嘩してると……。
要するに喧嘩を喧嘩で納めると。
たまに軍が出動する騒ぎになる。
鬱憤を吐き出すには悪くない。
俺も喧嘩売ってきた鬼神国人を容赦なくボコボコにしてる。
こんな混乱期にうるさいことなんて言ってられない。
いいの! 加減わかってる連中はそれで!
銀河帝国のモラルが疑われてるけど……ぽく知らにゃい!
「お疲れちゃん」
というわけでハイタッチ。
すると屋台のおっちゃんがお酒をくれる。
「レオの旦那! 持ってってくんな!」
「あざっす! ほら、お前らも礼を言え!」
「あざっす!」
俺はまだ酒飲めないのはみんな知ってる。
警官に直接酒を渡すと賄賂を疑われるから『近所に住んでる大公』に渡して、俺に下賜させるわけである。
大公は賄賂にならないの?
やだー、自分の会社で販売してる酒だもん。
賄賂の効果なんてねえって!
「ちゃんと仲間に分けてやれよ~」
仲良くしろとは言わない。
「暴れたら叩きつぶすからな」
鬼神国人にはこう言わないと伝わらない。
「承知!」
というわけで威厳もへったくれもない大公生活である。
単身赴任つらい。
あ、そうそう。
他のみんなは兵舎の寮にいる。
俺は少将だから寮に入れないんだって。
既婚者で将官だからダメだって!
兵士が萎縮するからあっち行けって!
なーぜーだー!
あ、でもエディ、イソノ、中島も寮から追い出されたから半分勝利。
でも憲兵隊の偉い人であるリコちが追い出されなかったのだけは納得いかない。
女子だから? ……そうっスか。
野郎どもはご近所さんである。
家に帰る。
すると家の床で既婚者三人がくつろいでた。
「レオ~、晩飯どうするよ?」
イソノの野郎がゲームしながら言った。
「おかずは買ってきたぞい」
焼き鳥。
クロノススパイス味と塩味。
串刺してないけどいける。
「米は炊いたぞ」
こういうときのエディは本当に頼もしい。
エディは仮設住宅に住んでる。
隣は末松さんと近衛騎士団。
「やや! 焼き鳥のにおいがしますな!」
はい末松さん登場。
「末松さんの分も買ったよ。食べてって」
「いやー申し訳ありませんな~。はっはっは!」
こうして単身赴任族の生活は雑にすぎて行ったのである。