第四百七十八話
結局、公館の小屋にいるはめになった。
もうね。被害者数は概算出すだけも数年かかるって。
国勢調査は去年だったらしく、その前のデータはあるんだけどね。
まずは建物の復旧……って言いたいけど、遺体の回収と埋葬である。
首都星は湿気が多く、夏は暑く冬は寒い。
大至急行わないと病害虫の大発生で犠牲者が出る。
とりあえず遺体と瓦礫の撤去要員を特別国家公務員として採用する。
ボランティアでもいいけどさ。
もう半月たったし、やっぱり給料出さないとね。
各種ボランティア団体にも資金を出す。
金を出されたからには給料分は働く。
こういうときのラターニア人は信用できる。
公金を流用するようなアホアホ団体は存在しない。
あれだけ嫌われてるのに存在を許されてるのは約束を破らないからだろう。
やはり厳格なルールは自らをも守る盾になるのである。
ゼン神族による俺たちの足止めは結果的に成功してしまった。
ま、しかたない。
屍食鬼は全宇宙の敵になったようだ。
知らない国で予告なく屍食鬼が攻撃されたってニュースが流れてた。
絶滅まっしぐらだと思う。
今日は経済団体の生き残りと会談。
クロノス人は太極国人と同じで見た感じは我々と大きな差はない。
集まっている人は若い。
30代が中心で俺とあまり変わらない年代までいる。
こりゃやべえぞ……。
参加者の資料に目を通す。
クロノス興産の本社営業部の課長……カッチョサン! 30代。
上役行方不明により会議に参加。
「えっとクロノス興産と……エネルギーに化学に素材まで扱う大企業……これはまずいぞ!」
上が消滅してる!
いや当たり前だ。
イナゴの集団に襲われた状態で生き残ったのは体力のあるものが多い。
あと大人が死ぬ気で守った子どもたちか。
権力者であっても老人を守ってる余裕なんかなかったのだ。
ホントこの世界……たまに正気に戻って現実見せてくるのやめて。
おそらく部長さんたちは偉い人の近くにいて巻き込まれて死んだのだろう。
わけがわからないままね。
クロノス・エネルギーは20代か。
エンジニアだそうだ。
若すぎて不安しかない。俺もだけど。
姉の結婚式で実家に帰ってきたところをイナゴの襲撃を受けた。
命からがらラターニア銀行の地下に避難したそうだ。
エネルギー会社は真っ先に攻撃を受けて壊滅だそうだ。
他のエネルギー会社もどこも同じ状態。
合併してがんばってもらうしかない……。
アドバイザーとして大佐も参加。
いやしょうがないじゃん!
クロノスの社会情勢わからんもん!
信用できるの大佐しかいないじゃん!
首都星電力は40代。
内臓弱そうな細身の男性だ。
ようやく経営が多少わかる世代がいた!
よしこの人に全ベット……あ、研究者。
あ、はい。
クロノス紡は総合繊維メーカー。
やはり30代の課長さんだ。
頭頂部ことだけは触れたくない眼鏡の男性だ。顔は整ってるのに……。
ラターニアと取引してる大きな会社だ。
「工場が消滅して経営どころではありません。経営陣とも創業一族とも、そもそも地元の取引銀行とすら連絡がつきません」
「ですよね……」
機能してるのラターニア銀行くらいだもんね……。
もうほぼ文明崩壊状態まで来てる。
大学も講義できない状態だ。
一方、建築会社組は元気だ。
やはりゼネコンが最強種なのだろう。
もともと体力あるからね。
大クロノス組は50代の部長さん。
見るからに筋肉質のおっさんだ。
筋肉質だけど、腹も出てるおっさん。
部下と一緒にラターニア銀行に逃げこんで難を逃れた。
腕中に樹脂製の傷薬が塗ったくってある。
乾くと傷口が塞がるやつ。
救助活動手伝ったときのケガらしい。
手も傷だらけだ。
作業用グローブなくて軍手でやったら切ったって笑ってた。
豪快なおっさんである。
ヘルメットだけは持っていったので頭は怪我しなかったらしい。
やはり最後にものを言うのは体力なのである。
とはいえ、鉄工や素材を自前で賄えるわけではない。
開店休業状態らしい。
「マニュアル送りますんで、仮設住宅の建設お願いしてもいいですか」
「もちろん!」
一人親方はこれまでも雇いまくってた。
でも勝手がわかってるゼネコンが間に入ってくれた方がいい。
俺たちじゃコネクションないもん!
ということで……がんばってもらう。
たぶんキツいけど。
さらにもう一人。
外食チェーンのオーナー……の息子さん。
30代。太ってる。たぶん調理の経験者。
手首が野太い。
この人の作る料理は美味いと思う。
「陛下」
一瞬、「誰よ?」って思った。
俺かよ。勘弁してくれよ。
「陛下のレシピを提供いただきたい」
その目は大手レストランチェーンの跡継ぎのものではなかった。
そう、それは食堂の息子の目だった。
「いいよ~、ただし独占しないでね」
こうして後に肥満を大量に作り出した伝説の料理屋が……。
ってまだわからんか。
自重しろ、直感。
ちなみにこのチェーンは凄い。
店ごと吹き飛んだとこも多数。
だけど普段から行ってる避難訓練で従業員にお客さんも多数救った。
「まず炊き出しの案ですが……物資を提供いただければ全店の従業員、それに同業者を総動員できます」
「お願いします!」
大げさに言ってるかもしれないけどここは乗るしかない。
ダメだったら遠ざけるし、できたなら重用する。
大公と言っても地元じゃないのでやってみるしかない。
「お給料払いますんで計画書の提出お願いします」
「はッ!」
「次に商店区画ですが……」
闇市はもうできてるんだけど、価格のつり上げとかされたら困る。
なので目の届くとこでやって、お願い。
あとは風紀的な取り締まり。
いや売春とかあるじゃん。
どうしても食うに困ってるわけだし。
お店でも海賊ギルドでもいいけどさ、誰か守ってくれる人がいないと悲惨よ。
みんな売春婦まで気にかける余裕ないし。
その辺で野垂れ死にとかやめて欲しい。
本当にそういうのされるとモリモリ治安悪化するのよ。
で、最後に大佐である。
「引き続き子どもの保護をお願いします」
子どもは真っ先に死ぬ。最優先だ。
「ということでお願いしますね」
会議終了。
さーて、仕事しなきゃ。
こうして俺の王様生活がぬるっと始まったわけである。
なお、銀河帝国でも話題になってる。
宇宙海兵隊クビになるかもな~。
退職金いくらだろ?