第四百七十話
俺がヤクザ仕様のスーツ着ても「底辺校の就活生かな?」となってしまう。
もしくはホストクラブの面接。
なので戦闘服。
現場から帰ってきましたという設定だ。
これには理由がある。
俺が軍の礼服着るじゃん。
迫力が足りない。
結局、俺はブルーワーカーなのだ。
作業服が一番似合う。
失礼じゃないかって思うけど、それは問題ない。
相手だってキレイな格好してないって。
向こうだって薄い権限でやって来てる山師だ。
そもそも鬼神国なら問答無用でたこ殴りだ。
うちらはまだいい方だと思う。
「戦闘服で失礼」
メットを脇に抱える俺とフル装備のリコちが出迎える。
カミシロ騎士団も脇を固める。
レイブンくんも悪役メイクだ。
嫌がったのが面白かったのでオールバックにしてみた。
有能若頭感が凄い。
元海賊から選抜した組員。
じゃなくて兵士の方々が過去の過ちファッションで「准将閣下! おはようございます!」と頭を下げる。
入れ墨は見せつける方向だ。
「あ、ども、はい」
市議会議員が俺たちを調べ上げてるとは思えない。
市販されてる資料にある情報なんだけど、イナゴが食い尽くした状態で調べるのは難しい。
元外交官とかで専門家だったらアウトだけど、今目の前にいる市議会議員はそういう人じゃない。
俺たちが調べた感じじゃ高確率で知らないだろう。
そもそもクロノス人は薄ら外国人をバカにしてる。
銀河帝国人のことも多少マシな鬼神国人くらいの認識だ。
文化的に下も下。原始人くらいだと思ってやがるだろう。
カウントワンツースリーとセルバンテス大好きなのにね!
ということで議員を観察する。
おっさん、なんか偉そう。
服が汚れてる。
着替えてきてないのだろう。
それよりもなにで汚れてるかが問題だ。
俺は小さくつぶやく。
「ケビン」
「了解」
ケビンのドローンが議員をスキャンした。
結果が端末に送られてくる。
見たいのは救助活動を手伝ったかどうか。
つまり血液の付着。
「血液付着ありません。傷も無し」
「了解」
いやさー、だって普通の格好で救助してたら擦り傷の一つや二つこさえるし、助けた人の血液だって付着する。
人を助けたいとか思ってたら救助くらいしますよね。(にっこり)
要するになんもしてねえのよ。この人。
いやだけど、わからない。
別のウルトラ重要な任務をこなしてたかもしれない。
ということで第一印象から50点減点しておく。
戦艦の中を案内する。
すると思いっきり悪者になったイソノが角材で鬼神国人をぶん殴る。
「テメエコラ! なめてんのか!」
たいへん流ちょうなラターニア語である。
「イソノの兄貴! すんません!」
イソノは折りたたみ椅子を出して鬼神国人をぶん殴る。
がちゃこん!
「ひいッ!!!」
議員が悲鳴上げた。
これひでえって思うじゃん。
違うのよ。
イソノもだけどタンク師匠のプロレス教室の生徒だ。
つまりイソノの仲間。仲良しである。
ボコられる鬼神国人を素通りして、応接間に行く。
真面目な会議用じゃない方の部屋。
座敷童ちゃんがノコノコ灰皿持ってきた。
お手伝い偉い。
……ところでお菓子が入ってるのだが?
「な! 突然お菓子が現われた!」
あ、見えない人だったか。
よしビビらせた。
ついでにニーナさんに連絡。
「あの~ニーナさん。灰皿にお菓子入ってるんですけど……」
「え? お菓子入れじゃないの!?」
ヤクザ映画皆勤賞の灰皿を知らなかったようだ。
なんてこった。
軍服を着たレンがお茶を持ってくる。
……すっげえエロい。
待って、メークでそこまで変わるん?
気になってしかたないんだけど!
するとドアを開けてヘルメット着用状態で戦闘服の中島がやって来る。
「レオの兄ぃ! 海賊の野郎どうしますか!」
ボイスチェンジャーでダミ声にしたようだ。
完全にノリノリである。
「テメエコラ中島ぁッ!」
灰皿を持って中島のヘルメットにぶつける。
灰皿がバラバラになった。
「ちょ! 結構痛い!」
小声で言ってきた。
「我慢して……おら中島ぁッ! 全員ぶち殺せって言っただろうが!」
「い、今すぐ全員縛り首にします!」
「おいてめえら! 客人の前だぞ! このバカつまみ出せ!」
「うっす!」
鬼神国人が中島をつまみ出す。
「騒がせてすまねえです」
「ぎゃあああああああああああああッ!」
中島の叫び声が廊下から響いてくる。
少しわざとらしいな。
「うるっせえぞ! 中島黙らせておけ!!!」
俺は怒鳴ると今度は猫なで声になる。
「それで、銀河帝国への植民地の件でしたっけ」
にっこり。
議員は「あ、こいつら服着てるだけの鬼神国人だわ」って顔してる。
バカめ!
だまされおって!
ここで突っ走る選択をできるのならまともに対応してやるわ!
「あ、はい。援助物資の件ですが……」
「植民地では?」
「あ、はい、それは連絡ミスかなって……あははははは……」
よし日和った。
「援助ですなあ! うんうん助け合わなきゃなりませんからのう!」
圧をかける。
「ソ、ソウデスネ……」
目が泳いでる。
これは完全に勝った。
「ではとりあえず風呂に服に食料に仮設住宅ですな!」
「ハ、ハイ」
わりと当たり前のことしか言ってない。
いやそもそも俺たち助ける義務ないけどね。
屍食鬼を恨んでるクロノス人が政府を立て直すのが目的なんだよね。
そうすれば俺たちは安全になる。
つまりどういうことかと言うと、ケガ人の救助の手伝いもしない議員などいらんのじゃ!
てめえは将来性ないんだよ!
その後、議員は逃げるように帰って行った。
当たり前だっての!
そしたら別の会談を申し込まれた。
「大佐だって」
クレアと妖精さんで調べてくれた。
「本人だと思います」
「会いましょう」
俺は笑顔で応じる。
今度は礼服。
イソノや鬼神国人もキレイな格好である。
大佐って人は定年間近くらいの髪の白いおっちゃんだった。
笑顔で握手。
向こうも軍人だから話がわかりやすい。
警戒は怠らないけどね。
「ところで、クロノス各地から併合してほしいと要請がありますが?」
「私は一軍人であって、併合に関して判断する権限はございません」
はい信用できる。
軍事の覚え書きを作成。
政府機能がダウンしてる間の協力である。
俺たちにやって欲しいなんて話ではなく、自分たちクロノス軍も作戦に参加するって言うやつ。
この人が大統領にならないかなあ……。
俺は勝手に思うのだった。




