第四十七話
バイクで走る。
バイオアルコール燃料のオフロードも対応してるホビー車だ。
避暑地で金持ちが乗り回すやつ。
車両による直接大気圏突入なんて実習でやるくらいだ。
俺たちは一通りの車両を運転できる。
戦車もなんとか……。
定期的に練習してるわけじゃないので自信はない。
クレアやメリッサも運転できるはずだ。
たしかクレアはVTOL機の免許も持ってるはずだ。
うちの連中で免許持ってないのは授業受けたことのない嫁だけだろう。
その中でも長期休暇時に玉掛け講習やクレーン車の講習を受けてるのは俺くらいだろう。
そう、次の長期休暇に民間の大型特殊車両の講習受ける予定で、すでに金を振り込んだのどうなったのかが心配なのだ!!!
これがあると「帝国軍車両に限る」がなくなるんだぞ!
……たぶんウヤムヤになると思う。
軍をクビになっても生きていける予定だったのに!
後ろからはカニちゃんが追いかけてくる。
「来てるぞ!」
「もう! しつこいな!!!」
空港から少し進み高速道路に入る。
戒厳令で車両はいない。
スピードを上げていく。
ゾークは意外に速い。
距離を詰めてくる。
「嘘だろ! 100キロオーバーだぞ!」
「飛ぶよ!」
「え?」
ダンプが横転していて板が転がっていた。
その一つに乗ると高速道路から飛び出す。
俺たちは落下していく。
高速道路の下の一般道へ向かって。
圧倒的玉ヒュン。
悲鳴も出せない。
そしてドゴっと音がして着地。
最終破壊兵器とタマタマのセットと肛門様のちょうど真ん中を直撃。
「マッ!!!」
死ぬ!
マジで死ぬ!!!
「おっし! レオ! どうだい僕のドライビングテク!!!」
「マッ……」
「うん? どうした?」
「……まッ」
悶絶する。
「ごめんね」
悪魔が笑っておる!!!
「まだ追ってくる」
そのまま発進。
死ぬる!!!
心が折れそうになってるとカニちゃんが飛び降りてきた。
道路に足がめり込むがムリヤリ足を引っこ抜いて追ってくる。
俺たちは運河の脇の大きな道路に逃げる。
途中、マンションの建築現場が見えてくる。
「この辺、再開発してたんだよね」
「詳しいな。都会っ子か?」
「違うよ。幼年学校のとき庶民用の寮がこの辺にあったんだよ」
「え? 俺たちはコロニーに隔離されてたけど……」
「そりゃ幼年学校の貴族部はコロニー一個借り上げだから」
今まで当たり前だと思ってたものにそんな事情があったのか。
私学によくある乱立する付属校だと思ってた。
あ、でも国立か。
……生きてるうちに嫁に通信するか。
「嫁ちゃん! ゾークに追われて運河沿いを逃走中」
「婿殿! 援軍を送る!」
援軍? と思ったら拡張現実に妖精が現われた。
「魔法の妖精AIちゃん参上!」
「チェンジ」
「あー!!! 相変わらず失礼ですね!!!」
「だってAIじゃ物理攻撃できないじゃん!」
「じゃ、何してくれんのよ?」
「えっと……とりあえずサーチ……おお! 警察の暴動鎮圧用機体がありますよ」
「それだ!!!」
そもそも警察は軍の別部門扱いだ。
つまり警察用カスタム機である。
で、警察用カスタム機は軍用と違う点がある。
それは人型重機との接近戦用にカスタマイズされてるのだ。
「ケビン! 速度落として!」
「どうするの!」
速度が落ちていく。
「飛び降りるんだよー!!!」
おりゃあああああああああッ!!!
男はど根性!
気合だけで生き残った俺が言うのだから真理に近いはずだ。
飛び降りた俺はゴロゴロ転がりながら落下ダメージを減らしていく。
さすが軍服!
普通のダメージじゃ破れねえ!!!
起き上がりナビに従い死ぬ気で走る。
人型の機体が見えてきた。
【帝都警察】のロゴが見える。
「ハッキング完了! 扉を開けますよ!」
扉が開いた。
死ぬ気でよじ登って操縦席になだれ込む。
「認証システムハック! 起動します!」
心臓がバクバク音を立て続ける。
顔は汗だく背中もびちょびちょだ。
「起動! 扉閉めます! 戦闘モードスタート」
【帝都警察システム】の文字が表示され起動する。
軍用の方がコンソールだけの表示で好きだな。
起動早いし。
まずは装備を確認。
ショック警棒。
電気を流して人型重機を強制的に止める警棒だ。
普通に殴ってもいい。
パルスハンドガン。イラネ。
折りたたみ式シールド。
これ重要。よしよし。
一歩踏み出す。
軍用よりもスピードが速い。
軍用と比べてパルスライフル用の装甲が薄いからだろう。
その代わりに腕と足に衝撃用の装甲があるはずだ。
走ってみる。
うん、安定してる。
カニちゃんがやって来た。
先手必勝!
警棒で襲いかかる。
「ギシャアアアアアアアアアアアッ!!!」
威嚇してきた。
爪の連打を避けて顔を殴打!
バキンと音がしたが警棒の威力が足りない。
鉄骨の方がマシかもしれない。
爪で殴ってきたので蹴り。
ぐちゃっと湿った音がした。
こっちはいい感じ!
くっそショックハンマー欲しい。
なんらかのアシストがないと甲羅が硬すぎて倒せない。
警棒でぶん殴るがこっちは効果なし。
カウンターじゃないと有効打は難しいか。
しかたないのでもう一度蹴り!
よっし、間合いが開いた。
助走して飛び後ろ回し蹴り!
関節に負荷がかかりすぎたのかアラートが鳴る。
あちゃー、さすがにダメか。
でも効果はあった。
バキッと甲羅が割れた。
「パルスハンドガン展開!」
警棒を捨てて足に格納されたハンドガンを抜く。
割れた部分を狙ってもいいが、高確率で外す。
だから間合いを詰め肘打ち。
ゾークも爪を振るうから肘打ちした手でガード。
爪が食い込んだ。
だけどこいつは計算通り。
「じゃあな!!!」
拳銃を割れた甲羅に突っ込んで引き金を引く。
六発ほど撃ったら爪から力が抜けた。
ふう……ジェスター専用機って強かったんだな。
ケビンのバイクがやって来るのが見えた。
「無事かい!?」
「勝ったぞーい」
操縦席から出て手を振る。
俺はケビンが来る間に妖精さんと話す。
「なあなあ、妖精さんよー」
「なんですか?」
「なんかいい車両ないかな?」
「そこに転がってるトラックはどうですか?」
【エンパイア通運】
聞いたことない会社だな……。




