第四百六十七話
クロノス解放も手順がマニュアル化して慣れてくる。
俺たちもだんだん雑になる。
「電磁フェンス降下!」
これ、帝国軍と京子ちゃんの共同開発した兵器である。
新兵器といっても電気柵と電撃殺虫器を合体して出力を上げたものだ。
結局、電気は効果あるのだ。
すでにある道具でアイテムが作れちゃう。
柵が詰まらないようにするのが難しかったくらいだろうか。
いろいろ試した結果、プラズマで焼いて処理することにした。
京子ちゃんはすでに技術開発部の幹部だ。
ただ性格的に管理職は無理である。
責任のないポジションで好き放題してほしい。
ラターニアと太極国に売り込んだら、まとまった数を購入してくれた。
イナゴが自国で発生した場合に備えた在庫である。
すぐに模倣できるけど「単純すぎてその考えはなかった……」ってやつである。
ワンシーズン限りの商品と割り切ろうと思う。
こいつをコンテナで衛星軌道上から投下。
地表に到着する直前にコンテナの隅をフェンスが傷つかないように爆破して解放。
フェンスが突き刺さったらフェンスがアンカーを出して固定。
結界展開まで保てばいいやという発想である。
なお、コケたらもう一つ投下すればいい。
装置は既存のパーツで構成されてる。
安い、生産速度が速い、効果も高い。
はっはっは!
フェンス設置したら俺たちとタチアナを降下。
遠隔操作の自動電撃砲台でいい説もあるけど、タチアナへの事故は許されない。
俺たちの妹に代わりなどいないのである。
太極国も本気で守ってくれる。
いいことである。
ラターニア……キミはアップ始めなくていいから!
キミらの装備はイナゴに弱いでしょ!
イナゴが襲いかかってくる。
だけど電磁フェンスでほとんどが感電して落ちていく。
ヒャッハー!
電撃自動砲台もサクサクとイナゴを落としていく。
お掃除ロボットがイナゴを回収してプラズマ焼却!
イナゴは消毒だー!!!
タチアナ機も装備変更。
浮遊砲台は電磁フェンスと電撃タレットに変更。
ちょっと燃費が悪くなったけど、背中に拡張エネルギーパックを追加して対応。
通称マジカルステッキを地面に刺して結界起動。
「うおおおおおおおおお!」
汚い声出すなと言いたかった。
ネタ枠になるのはジェスターのさだめ……。
そう思い直して黙った。
でも我慢できなかった。
結界起動するとイナゴが動かなくなった。
「タチアナ……【解決だにゃん♪】ってかわいい声で言って」
「死ね」
なおタチアナは普段わざと低い声を出してるようである。
出そうと思えば女児アニメのヒロイン声を出せる模様。
だってこないだアニメのものまねしてたし。
「クレアお姉ちゃん! レオの兄貴がいじめた!」
あ、今! たった今! かわいい声出した!
「レオ! いじめちゃダメでしょ! タチアナちゃん安心して。悪いお兄ちゃんはオシオキしとくから」
「ママ……愛してるよ……(命乞い)」
「ボキボキボキ(指を鳴らす音)」
という茶番を経て帰ったら食堂でコブラツイストをかけられた。
痛いにゃー!
ラターニア国営放送でクロノス人のインタビューが放送されてる。
「聖女様万歳!」
クロノス人がタチアナを讃えていた。
タチアナが嫌な顔してる。
救出されたクロノス人はタチアナを神のように崇めてる。
タチアナこそが全ての原因という陰謀論もあるんだけどさ。
ラターニア銀行やカミシログループの地下施設で保護されといてそれはない。
クロノス人もわかってるので声は小さい。
むしろ何もできずに政府機能が終了した件への怨嗟の声が大きい。
犠牲者も多すぎて……千年経っても屍食鬼とゼン神族は許されないと思う。
俺は食堂で書類作成。
電磁フェンスの有効性の書類を読んで承認を出す。
あとは戦略士官のレポート読みながら対イナゴの戦術を頭に叩き込む。
そしたらイナゴの解剖レポート最新版を読んで……。
帝国でもイナゴを作って戦術に組み込む案……てめえぶち殺すぞ。却下っと。
クソなめたレポート出したバカを対象に要監視の命令出してっと。
そしたらイナゴの生態レポートの各国語の翻訳版が来たのでチェックして承認っと。
で、一息つこうと思ったらゾンビのように別の書類に紛れこんで復活するイナゴ戦術案。殺すぞ。却下。
さらに別の書類に紛れ込んだラターニア、太極国併合計画。……自殺願望でもあるのかな?
併合する対象に鬼神国加えてないあたりに正常なのに認知が歪んでる感がある。
長期的にろくな事がない。却下!
あのね! 遠征は帝国の安寧のためであって領土の拡大じゃないの!
なんで! 俺が! 役人と! バトルせにゃならんのだ!!!
で、とうとうあの書類が来た。
【タチアナのクローン計画。~ガチャでジェスター引くまで~】
「うがあああああああああああああああああああああッ!」
「あ、レオが壊れた! レンちゃん! 炭水化物! 炭水化物あげて!」
「はーい旦那様。焼いたお芋ですよ」
「おぎゃー!」
ぱくぱく、甘~い♪
SAN値が回復した。
もう怒ったぞ。
嫁ちゃんに通報。
アマダくんにも通報しとく。
これはさすがにライン越えだからな!
俺のクローン勝手に作ってたのだって許してねえからな!
絶滅戦争下だったから我慢しただけで!
【帝国のためだから本人も喜ぶでしょう】
あるかー!
ぶち殺すぞ!!!
こういうのは信頼関係なの!
国が信頼できるから国民に多少の理不尽を我慢してもらってるの!
仲間まで裏切ったら国民がついてこねえっての!
あまりにもキレたので、その場にいたみんなにファイルを共有。
年少組以外にね。
クレアがバキバキと金属製のカップを握りつぶす。
メリッサは迫力のある笑顔に変わる。
レンは無表情。だけど手が震えてる。
エディとミネルバちゃんは怒ってる。
イソノ夫婦に中島夫婦からはゴゴゴゴゴゴゴと音がする。
ケビンがプンスカしてる。
ニーナさん……ニーナ様は「害虫は駆除しなきゃ」ってつぶやいた。
妖精さんはなぜか「メンテナンス中です」って応答してくれない。
嫁ちゃんは明らかに笑顔だった。
そして一言。
「みんなどうする?」
こうして帝国からまた一つ悪が取り除かれたのである。
愛国心があればなんでも許されるわけじゃないからね!
……目的をはき違えるんじゃねえっての。
俺たちは支配者だから偉いわけじゃない。