第四十六話
営倉と言っても港内にそんなものあるわけない。
港内の取調室である。
そこに簡易の折りたたみベッドを敷いてある。
監視は特にない。
でも【トイレ以外で外出してたらぶん殴っていい】と兵士に伝えたらしい。
大人しく寝てる。
すると誰かが入ってきた。
「あははははは!!! 本当に捕まってる!!! ぶぁーかぶぁーか!!!」
大きなお胸をゆっさゆさ揺らしてメスガキ笑いをするのはTSロケット巨乳ケビンである。
そんなに俺が嫌いか?
俺の中じゃ俺の腸ぶちまけたのとTSいじりで相殺なのだが。
「なあケビン……」
「なんだよ真剣な顔して」
「ブラからはみ出してないか?」
「うるさいな! また大きくなったんだよ!!!」
今の発言は嫁からしたらぶち殺しレベルだと思う。
にしてもゾークの遺伝子組み換え技術って本当に雑だよな。
おそらくやつらは男女の区別すらついてないのだろう。
「なにしに来たん?」
「からかいに来たんだよ」
この暇人め!
……そうか、今なんの役職も与えられてないのか。
オペレーターも解任されちゃったし。
忙しいときだけオペレーターに戻る。
つまり今は暇なのだ。
裏切って俺を撃ってしまったので軍の規則で武器を与えられない。
復帰には医師の診断書が必要だ。
「にしてもー♪ 喧嘩して営倉行きとかー♪ 情けないんじゃないですかー♪ 英雄さん♪ プークスクス♪」
このおっぱい……全力で喜んでやがる。
それは置くとして……。
「なあ、おっぱい。おっぱいは人間の思考に影響を与えるゾークとか知らん?」
「おっぱい言うな! 人間の思考? どういうこと?」
「いやさ、あいつらさ-、おかしかったんだよな。だって俺を殴ってくる理由がない。しかも4人がかりでやるか? 俺たちは共に死線をくぐり抜けた仲間だぞ」
連中は近衛隊のおっさんたちに【一人相手に四人がかりで殴りかかるなど卑怯千万。罰を与える!】と連行されていった。
ただ単に反省室行きになっただけの俺よりも重い罰を与えられてるだろう。
この結果はみんな予想できていた。
軍では卑怯者には罰が与えられるし、仲間を裏切るものは許されない。
ケビンだって未成年じゃなければ処刑されてただろう。
いや実験動物扱いで解剖されてたかもな。
そのケビンは少し考えると小さな声を出した。
「いる……」
やはりか。
原作の方じゃ直接戦闘に関係ないユニットはシナリオの都合上省略されている。
嫁ちゃんに通信と。
「嫁ちゃん。精神に影響を与えるゾークだ。ケビン情報」
「おう、なんじゃ、もうさびしくなったのか……って、なんじゃとおおおおおおおッ!!!」
「宇宙港襲撃前の予兆かも」
「お、おう! 回線開けとけ! ピゲット! 起きてるか!!!」
グループチャットモードになってピゲット少佐が入ってくる。
「ヴェロニカ様。どうされました……」
「ゾークじゃ!!! ゾークが精神に影響を与えておる!!!
ガタタタタと後ろで音がした。
さらにドンと音がしてピゲット少佐の「いてて」という声が聞こえた。
小指ぶつけたな。
「警報と警告メッセージを送りました!!!」
「うむ避難準備せよ」
「リニアの駅に向かってください。我々の武器の輸送をしてるはずです」
「うむわかった! 婿殿も駅に向かうのじゃ!!!」
ここでいったん通信終了。
ケビンと部屋の外に出る。
するとすでに警告音と避難誘導が始まっていた。
「ケビン行くぞ!」
「う、うん」
兵士と目が合う。
「あっちだ!」
無能じゃなかった。よかった。
無能はカミシロ領にしかいなかったんや。
ただ気になったのは兵士が持っていたのはパルスライフルだった。
あれじゃカニちゃんに歯が立たない。
本当に武器の製造が間に合ってないらしい。
走って行くと警察官がいた。
樹脂製の盾を持って消火用の斧を持っていた。
ビーム系の武器が効果ないのは知ってるようだ。
「君たち! こっちだ!」
「うす」
言われたとおりに進む。
そのときだった。
いきなりボコォッと音がして壁が崩れた。
カニちゃんだ!!!
クソ!!! 素手じゃ勝てねえ!!!
「うわああああああああああ!」
警官が悲鳴を上げた。
そりゃそうだ。
誰でも勇敢に戦えるわけじゃない。
警官はカニちゃんに斧を投げつけてしまった。
カランと斧が落ちる。
「おっさん盾よこせ!」
俺は盾を引ったくる。
「ケビン! 警官のおっさんと逃げろ!」
俺は盾を持ってカニちゃんに突っ込んだ。
一発!
一発防げれば、その隙に逃げてやる!!!
そしたら明日は嫁ちゃんとダラダラ過ごすんだ!
なんて明日を考えたのが悪かった。
カニの爪が盾に突き立てられた。
強化樹脂を易々と貫通してくる。
俺はサイドに回り込んでベクトルを変化させ無理矢理いなす。
盾は爪に持って行かれる。
斧が床に転がっていたのが目に入った。
俺はダイブして斧を拾う。
そのままローリングして起き上がって構える。
さあ、さあ、さあ、さあ、どうする俺。
「ギシャアアアアアアアアアアアッ!!!」
カニちゃんが吠えた。
「うるせええええええええええええッ!!!」
俺も吠えた。
こういうのは気合だ。
カニちゃんは爪を振り回してくる。
アレだ!
メリッサ戦法だ!!!
俺はカニの関節部を狙ってカウンターを放つ。
どんッ!!!
クソッ!!! 重さが違いすぎる!!!
俺の方がノックバックされた。
じゃあ顔面!
俺は薩摩殺法で全速力で加速すると顔面に強打を振り下ろす。
がつんと音がした。
でも全身の力を総動員しても殻を割ることはできなかった。
やべ……。勝てる気がしねえ。
火薬式のハンマーねえのかよ!!!
そのときだった。
「乗れえええええええ!!!」
ケビンがバイクでやって来て俺の近くで止まる。
俺はすぐに後ろに乗る。
「行くぞ!!!」
バイクが全速力で発進した。
ああん? このバイク。民生品じゃん。
「これどこのバイク!?」
「知らない! そこの店から拝借した!!!」
おおう。
さすが帝都の宇宙港。
バイクショップまであるんか。
「警備員は?」
「兵士に引き渡した! でもゾークが邪魔で向こうに帰れない!!!」
あかん!!!
すると嫁から連絡が入った。
「婿殿はやく来るのじゃ!!! バリケードが突破される!!!」
「先に行け!!! 俺はそっち行けない!!!」
バイクで走っていくと駐車場に入り車両用の出口から外へ抜ける。
「婿殿! あとで合流するのじゃぞ!!!」
「ああ、しぶとく生き残るわ」
外に出ると空港周辺はあちこちから煙が上がってるような惨状だった。




