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第四百五十一話

「あー……写真撮りたくない……」


 リコちがブツブツ文句言ってる。

 ただし完全フルアーマー。

 顔部分も隠したいとのことで化学戦装備の顔の見えないヘルメットである。

 そもそもキミ、目隠れ女子で顔わからないだろが。

 あ、本人同定されるのがイヤ。はい。

 いま来てるのはレンの惑星の中途半端に開拓されて放置された土地だ。

 雑草や木が生えて林みたいになってたけど、大きいのは重機で切り倒して、草なんかは焼き払った。

 普段から焼き畑やってるわけじゃないから環境に影響はないそうである。

 リコちの装備は撮影のために新調した。

 前のはヘルメットのシールド部分がバキバキだし。

 盾にはヴェロニカ艦隊の【薔薇と骸骨】の紋章が書かれてる。

 愛と死を表してるそうで。

 禍々しさが五倍マシくらいになってる。

 腰にウルミを巻いてる。

 実家のある惑星の伝統武術らしい。

 背中にはスラスター付き補助エネルギーバックパックを背負う。

 短時間なら飛べる。

 バックパックにミニガンを背負ってる。

 本来は輸送機やヘリの装備だ。

 リコちは射撃が下手なので物量でカバーと本人は言ってるが……よりによってそれ選ぶぅッ!?

 バックパックからのエネルギー供給による筋力サポート外骨格があるけれど、それでも重すぎる。


「え? 合理的かつ普通のチョイスだと思いますよ」


 ためしに聞いたらそう言われた。

 リコちは普通の感覚がバグってるタイプなのである。

 なお合理性に関しては同意する。

 たしかに強い。

 ただ機動性を犠牲にする度胸は俺たちの大半には……ない。

 攻撃当てられるのイヤ!

 リコちは感性がバグってると思う。

 現場監督はいつもの従軍カメラマンさんではなく、国営放送の出版部所属の女性だった。


「えーっと……リコ中佐は?」


「はーい」


 がっしゃんこ、がっしゃんこ。


「中佐……なぜに?」


「自分、モブですから!」


 リコちが親指を立てる。

 リコちって自分では気づいてないけど、フル装備になると仕草がアクションヒーローなんだよね。

 妙に雄々しいのよ。


「女性ですよね?」


 出版物にデータは載せない契約だけど、中身は女性なのは事前に教えてある。


「女性です」


 ここは事前に教えてあるし素直に答える。


「では撮影開始」


 ちゅどーん!

 爆発が起こる。

 背景に炎でポーズ。

 やだカッコイイ!

 完全にヒーロー写真集のノリである。

 ガトリングをぶっ放すリコち。

 ウルミで重機をぶっ壊すリコち。

 意味もなく丸太を担いでサムズアップな男前リコち。

 想像図がマレットヘアーでサングラスの肉弾親父になってるのそういうとこだぞ。

 うさぴょんに搭乗するリコち。

 紋章はいつもの【USAPYON】ではなく【薔薇と骸骨】に強制的に塗り直された。

 あんれー?

 今気づいたけど、うさぴょんって玄人好みの渋い機体だわ!

 やだカッコイイ!

 リコちの機体はあれはあれで素早い。

【殺戮の夜】が武術的な素早さだとすると、【うさぴょん】はアメリカンフットボールの動きだ。

 とにかく前に出る圧が凄い。

 戦闘用重機に囲まれるも包囲網を脱出。

 捕まえようとネットランチャーを発射するも網ごと引っ張ってゴール!

 元になったのが【殺戮の夜】なのでパワーがとんでもないことになってる。

 エディの機体と共に帝国の次世代標準機の候補になってるだけはある。

 力こそパワー。

 パイロットの能力次第で化け物みたいな活躍が可能。

 そういう機体である。


「では対戦お願いします」


 はい俺の出番。

 撮影しながらリコちと対戦。

 なんで俺かというと、俺と【殺戮の夜】が一番人気だからだ。

 映像メディアもそこそこ売れてる。

 いつものようにリコちがウルミを振り回す。


「近づけねえ!」


 俺は珍しく盾を出す。

 あんなの避けられないよぉッ!

 なお殺戮の夜の盾はあまり大きくない。

 失敗した。

 全身盾にすればよかった!


「行きますよ!」


「ふひい!」


 盾でウルミを受ける。

 このウルミは特別製。

 ゾークの外殻を培養した新素材でできてる。

 軽く、柔軟で、切れ味鋭く、しかも丈夫というものだ。

 盾がメリっていった!

 俺の盾だってパーソナルシールドとゾーク外殻加工なのに!

 割れるって思った。こりゃ組み討ちしかない!

 盾を滑らせてながら突撃。

 リコちとも、もう何度もスパーリングしてる。

 向こうだって俺が近づいてくるのはわかってるわけで……。

 リコちはすぐにウルミを捨てる。

 俺は盾を捨てた。

 だってもう割れちゃったんだもの!

 リコちはカッターラを抜く。

 メリケンサックの拳部分にナイフがついてる凶悪な武器だ。

 ナイフも波形で殺意が強い。

 それをダブルで持ってる。

 俺は刀を振る。


「おどりゃあああああああああああああッ!!!」


「おりゃああああああああああああああッ!!!」


 がきんと音がして刀を二本のナイフで挟まれた。

 あー、失敗した!!!

 すぐさま右手で当て身!

 カッターラの下から拳を潜り込ませてアッパーカット。


「させるかあああああああああああああッ!」


 そのまま体当たりされた。

 食らう前に自分から飛び上がって衝撃を逃がす。

 そのまま距離を取った。

 ふへー! やっぱ強い!

 エディと同じくらいやりにくい!


「はいカットォッ!」


 撮影班から終了の合図が送られた。

 やべええええええええええ! 助かった。

 少し前まで手加減できたのに……今は殺すつもりでやらないと勝てねえ……。

 機体から降りるとリコちに声をかけられる。


「レオくんどうでした?」


「つ、強くなったね。次は最初から殺すつもりでやらないと確実に負けるッス」


 強者と対面した感が強い。

 ……疲れる。

 頭使い過ぎた。甘いもの欲しい。

 栄養バーをかじって落ち着く。


「いやー、迫力の映像が撮れました!」


 撮影班がほくほく顔である。

 俺はぐでーっとしてた。

 俺が苦手としてる相手、確実に勝てるかわからないのはメリッサにエディか。

 そこにリコちが加わった。

 たしかに俺もデスブラスター使わなかったというのはある。

 だけどリコちもミニガンとパイルバンカー使わなかったからな。

 ふへー、無理。

 次はメリッサかエディに押しつけよう。

 こうして撮影は終わった。

 ……後日。


「俺の攻撃を喰らいやがれ!(野太い声で吹き替え)」


 ちゅどーん!

 火柱の前で雄々しくポーズを取るリコち。

 リコちへの誤解は銀河を駆け巡ったという。

 もう知らん。

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― 新着の感想 ―
本人の意向もそうだけど ここまで徹底的に素性を隠すとなると 逆にひっつけたい相手のために虫がつかないようミスリードさせているのじゃないかと邪推する
婿盗りするか、婿獲りするか、婿捕りするしかねぇな・・・・
「自分、モブですから!」(CV.玄田哲章)
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