第四十五話
「こちらヴェロニカ近衛隊。着陸指示を頼む」
帝都惑星に到着した我々は着陸する。
いやー、もうね!
砲台に撃たれながら着陸しなくてもいいの!
画期的すぎて泣きそう。
みんな遠い目をしていた。
そうなるほどに公爵領への大気圏突入はトラウマになっていた。
「こちら帝都タワー。滑走路07番に着陸してください」
スムーズに着陸。
普通にタラップ車がやって来て空港に案内される。
宇宙港は厳戒態勢だった。
滑走路を装甲車が走り回り警戒し、港内では銃を持った軍人が行き来してる。
武器弾薬、それに物資はいったんここで提出。
職員が車両で運んでいく。
「積み降ろし作業は二時間ほどかかる。休憩じゃ。メシでも食ってろ」
「って、店休みですけど」
港内の店はほとんど休業していた。
レストランどころか立ち食い蕎麦やバーガー屋すらやってない。
「自販機あるじゃろ」
おう……。
自販機フードコートは開いていた。
これなー。
みんな大好き冷凍食品である。
帝都の有名店の味もある。
逆に言えば帝都じゃ有名店もセントラルキッチンなのである。
でも手作りの方が上質であるという思い込みには勝てない。
みんながっかりした顔だった。
軍隊の食堂は量多くてうまいもんな。
「近衛隊の経費で落としてやる。好きなもん食え」
嫁の一言でみんなの目つきが野獣に変わる。
我先にと自販機に群がる。
メリッサやクレア、レンまでも腹ぺこ勢になった。
運動しまくる環境は人をここまで変えてしまうものなのだろうか。
「そういう婿殿は何をやっているのじゃ?」
ステーキ、ハンバーグ、唐揚げ、焼き鳥……肉料理を片っ端からオーダーする。
「嫁ちゃん……俺……タンパク質大量にとらないと次の日つらいの……」
「婿殿が言うと説得力あるな」
嫁はハンバーガーのセットをオーダー。
近衛隊はそばうどんカレーなどの炭水化物を中心にオーダー。
自販機で調理でき次第ドローンが運んでくる。
「お金大丈夫?」
一応聞いてみる。
「たとえ在庫を食い尽くしても痛くもかゆくもない。帝国が出してくれるからな」
「ではお代わりをば……」
「たらふく食うのじゃぞ~」
消化器の限界に挑戦するかの如く暴走する10代の食欲。
そこに完食指導など必要なかった。
メシ食って休憩するとこだ。
だけどここは脳筋士官学校、筋トレしたり港内をランニングしたり運動しまくっていた。
ちゃんと休んでるのは嫁くらいだった。
一般の乗客がいたら炎上するだろう。
俺もランニングに加わる。
すれ違う兵士が【まじかよあいつら!】って顔をしてた。
球技できねえからランニングしてるだけなのだが?
士官学校っていっても大学校課程まで出なきゃ下士官スタートである。
力こそパワー。筋力こそ正義なのである。
はいそこの兵士! 【あいつら頭おかしい】って顔すんな!!!
船乗りなんてこんなもんやぞ!
空き時間は艦内走り回ってるからな!!!
他の学生は言われないとやらん?
るせー!!! 我、体力だけで今まで生き残ってきたんぞ!!!
「なあレオ。メリッサとどこまで行った?」
男子たちが俺を囲みながら話しかけてくる。
「どこにも行ってねえよ。俺が毎回死にかけてんの知ってるだろ?」
「そうなんだけどよー。殿下とはどうなのよ?」
「普通の新婚夫婦だが?」
「……憎い。貴様が憎い」
「だからさー、お前ら調子にのってブス決定戦とかやってるからフラグが逃げるんだよ! メリッサ怒らせただけじゃねえぞ。他の女子もブチ切れてるからな」
「ぐ! だが男子なんてそんなものだろう!!!」
「俺は理解できるけど、女子はそこまで忖度してくれるわけじゃねえっての」
ルッキズムがあかんとかそういう問題ではない。
シンプルに女子全体をあおり散らかしたのだ。
「とにかく同級の女子はあきらめろ。もう取り返しがつかん」
「ところで……だ。クレアとはどこまで行ってる?」
「どこにも行ってねえ」
何のフラグも立たない。
「レンは?」
「嫁と一緒に弟の後見人になった」
俺は侯爵家の当主だし、嫁は皇女だ。
両人とも半人前だが二人でマルマ様の後ろ盾になったわけである。
帝国から却下される可能性もあるが戦時だからどさくさ紛れに行けるだろう。
「ってことはレンが第二とか第三夫人に収まるわけだな」
「姉をヨコセーっていつ時代の悪役貴族だよ」
なお先ほどから肘で脇腹を殴打され続けている。
いいかげん腹立ってきたので腹にグーパン入れておく。
「ぐ! 貴様!!!」
と四人がかりで殴ってくる。
後頭部をガードしながら前の男子に肘をぶち込む。
「ぎゃば!!!」
そのままそいつを盾にして横の一人に蹴り。
「がは!」
あと二人っと。
二人がつかみかかってきたのでスルッとかわす。
一人の襟をつかんで壁にドーン。
「うごッ!!!」
最後の一人がポカーンとアホ面さらしてた。
「え……?」
「覚悟はいいな?」
「あ、はい」
頭つかんで腹にヒザ蹴り。
「ごふ!!!」
勝利である。
「う、嘘だろ……化け物クラスになってやがる」
「るっせ!」
さあ帰るかと思ったら警備が来た。
「おまえら大人しくしろ!」
「もうこいつら営倉にぶち込んでくださいよ!」
ぷんぷん。
「お前もだ!」
「え?」
俺も連行されていく。
手錠つきで。
で、今だ。
ブチ切れた嫁、ため息をつくクレア、ゲラゲラ笑うメリッサ、それに目が泳いでるレンがいた。
「婿殿、ごめんなさいは?」
「ごめんなさい。ちょっとじゃれてたら殴り合いに……」
「レオ、たぶん悪いのは男子だと思うけど……」
甘やかしてくれるクレアさんだいしゅき!!!
「まあ、あいつらだし、勝手に嫉妬して喧嘩売ってきたんだろうけど」
メリッサわかってるー!!!
「うちの男子あまり頭よくないから……」
レン! 最高!
「でも自覚してる圧倒的腕力でボコボコにしたんじゃろ」
嫁……俺を完全に理解してるな。
「ま、明日の出発まで営倉にいるがよい」
「えー……」
「空港の兵士が見てるからな! もみ消せぬわ!!!」
「ですよねー」
取調室に閉じ込められることが決定してしまった。
で、ここで空港が襲われ……あははははーまさかー……。




