第四百四十一話
ゼン神族、その中でも我々世俗派は銀河を脱出し、新たなる新天地に旅立った。
我々、ゼン神族の悲願である神をこの手で産み出すために。
我々は現地生命体に潜み、内側から操ることにした。
滅ぼすようなことはしない。
管理し、頭数制限をする。
そして間引いた個体で実験を繰り返した。
それは完全に偶然が産み出したものだった。
絶望を力に変換する最強の存在を作る実験。
さらにその先兵たるゾークの開発に成功した。
そう、それは成功したはずだった。
屍食鬼は寿命の短さ故に独自の文明を築くことが出来なかった。
貝類を進化させたプローンは妄執に囚われ、我々を否定した。
それならと作業員用ヒューマノイドとして作ったラターニア人に文明を与えてみた。
だが……やつらは知恵をつけ我々に従わうことをやめた。
我らは蜂の生態を学び、マザーを中心とするゾークを作り上げたのだ。
だが……、ここで我らの想定外しなかった事態が発生した。
マザーを支配する存在として作った存在。
悪魔。
その中から突然変異で生まれた存在がいた。
正確は寛容にして平和主義。
利己主義が基本であるはずのディアブルに対して利他主義、いや共存主義の傾向が強い。
慈悲深いとも言えるだろう。
弱い個体だと最初はバカにしていた。
我々は彼らを愚者と名付けた。
だが恐ろしい事に……それは間違いだったと後に判明する。
愚者は……やつらに率いられた軍勢は増えれば増えるほど力を増す。
愚者に率いられた軍勢は死を恐れず、協力することで力を増す。
その力の及ぶ範囲は……数万、数十万、いや限界などないのかもしれない。
愚者本人も影響範囲が広がれば広がるほど力を増す。
愚者はその名の通り、高頻度で不合理な決断を下す。
本来切り捨てるべき少数の仲間を護るために自らを犠牲にしたり、敵すらも滅ぼそうとせず共存を図ろうとする。
普通であれば、このような甘い決断は共同体を危機に陥れる。
別の勢力に滅ぼされるきっかけになるだろう。
そう思って野に放って実験してしまった……。
……その決断は間違いだった。
愚者はこの銀河を支配する帝国に戦いを挑んだ。
やつらの目的は支配階級を操るゼン神族の打倒だった。
結果は……我らはまた故郷に追いやられた。
愚者どもも数を大きく減らし、滅亡寸前になった。
戻った我らはゼン神族は滅び、古代人として各地に散ったことを知った。
我らは再びゼン神族の国家を建国した。
愚者がやってくるときに備えねば。
かなり数を減らせたはずだ。
それにやつらには生殖能力はない……はずだ。
だがやつらへの我々の予測は常に外れた。
いまもどこかで増えているかもしれない。
ああ、恐ろしい……。
次にやつらがやってきたら……我々は滅ぼされるだろう。
その前にこの銀河の覇権を取らねば……。
■
俺たちは鉱山に行く。
つよつよ企業独裁惑星の中島本家は鉱山も豊富にある。
以前は頻繁に事故が起きて、公爵会関連企業がもみ消してたらしい。
だけどそれらの企業も公爵会の滅亡で経営陣の総入れ替えや、廃業を余儀なくされた。
現在は善良とまでは言わないけど、事故が起こったら報告する程度の倫理観を持った企業に入れ替わった。
労働者もかなり喜んでるらしい。
標識の今日の事故件数はゼロと。
たぶん信用できる数字だろう。
だって掘ってるの帝都の最新鋭の機械だもん。
ドローンなんかで効率化もされてる。
「で、鉱山で遺跡が見つかったってのはどこですか?」
「こちらにございます」
今回は嫁ちゃんは待機。シーユンたちもね。
タチアナ置いておけば大事には至らない。
うーん、タチアナに軍を辞められたら困る。
軍のお偉いさんたちと屈強な中島家が護衛してる。
いま目の前にいるのは商社の社員のおじさん。
パーティーにも来てたから本社の偉い人だと思う。
帝都の大学卒業したエリートだ。
作業着が似合ってない。
現場仕事なんかしたことないだろうに。
その点我らは現場仕事経験者。
ゴリゴリの戦闘服で挑む。
遺跡はラターニアでも太極国でもない様式だった。
あえて言えば悪趣味な洋風?
文字がある。
「うーん? 鬼人国語でもラターニア語でもないな」
俺がそうつぶやくとクレアが声をかけてきた。
「太極国語は?」
「まだ読めないかな。妖精さん読める?」
「館花本家の祠にあった装置と同じ文字のようですね。ベルガーさんに聞いたらどうですか?」
「あ、そうか、ベルガーさん見てもらえます」
「ベルガーさんが走ってきた」
「なにかありましたか?」
「またゼン神族の文字みたいなんです」
「は、はい! 拝見いたします……あー、古い言葉ですね……。なになに【ここに黒の災厄を封印する】」
「はい?」
「なにか?」
「いえ、いま【黒の災厄】って」
「ええ。ここに書いてありますけど」
「妖精さーん!!! 黒の災厄だって!!!」
「ぎゃあああああああああああああッ! なんてもの発掘してるんですか!!!」
黒の災厄。
完全に忘れてた。
ジェスターが起こした反乱だ。
「でも歴史的事件を【封印】ってどういう意味?」
「わかりません!」
「ですよねー!!!」
ということで遺跡を調査。
院生や俺でサクサク探索していく。
「端末がありますな」
前に妖精さんが寝てた端末みたいなのがある。
「妖精さん、バリバリ嫌な予感しかしないんだけど」
「あー、はいはい。見ればいいんですね! 見れば!!!」
妖精さんはそう言って拡張現実で飛び回る。
すると急に真顔になる。
「あー、うん、レオくん落ち着いて聞いて。ジェスターのプロトタイプのレシピだわ、これ」
「あー、はい。カミシロ本家に帰って70年くらい引きこもっていいっすか?」
「寿命いっぱい逃げる作戦!? さすがレオくん、次から次へと汚い手を思いつく!」
「ほめてない!」
「嫌味に決まってんでしょが!!!」
ガッデムである。
なんで完全に忘れてた話が掘り起こされるのよ!
っていうかさ、生殖できないって設定もどうなったのよ!
子孫も思ったより数倍多いしさ!
アメリカザリガニ状態じゃん!
たぶんビースト種やクロレラ処理人間と同じくらいいるんじゃないかな?