第四十四話
ぶっちゃけて言うと、植民地惑星からはじまるのは高確率で制作の都合だ。
だってなにも知らない主人公目線で説明できるもん。
例えば俺が主人公だと農協しかない惑星の情けない説明からはじまる。
……やりたくねえ。
部屋に帰って一人反省会。
ソファーにだらしなく座って考える。
はて……?
突きを放たれてから動いて間に合ったぞ?
首をかしげてるとドアが開く。
「ただいまー」
嫁である。
嫁の部屋は一番いい部屋なのだが、寝るときだけ自分の部屋に帰る。
嫁は冷蔵庫を開けジュースを取る。
そのまま俺の横に座ってジュースを飲み始める。
「ん」
はいはい。ポテチね。
ほいっと渡す。
ひとつまみ取りだしてポリポリ食べる。
「……すごかったのう」
「最近の俺、少し人外じみてない?」
「妾と出会った時点ですでに人外じみてたが?」
「えー……」
「婿殿、VRの格闘ゲームな。帝国の新兵教育プログラムに正式採用されるぞ」
「は?」
「この船にいる学生の成績が恐ろしく良好での。クレアと妾で作成したレポートが軍に採用されたのじゃ。無論、婿殿の鬼神の如き活躍も考慮されとるぞ。ま、それも帝都の立て直しが成功すればだが」
どうやら俺の戦闘データは帝都に送信されたらしい。
士官学校の学生とは言え軍属だし当然の義務か。
むしろこの最中にデータを生かそうとしてる優秀な人材がいるのだろう。
安定した人材育成システムと高い教育水準のせいで皇帝が暗愚でも滅びないんだよね……。平時なら。
アホは高位貴族でも政治的権力を持つことできないし。
ジュースを飲み終わった嫁はごろんと寝っ転がって俺のヒザを枕にする。
「帝都奪還の作戦が思いつかないのじゃ」
「今まで通りじゃダメなの?」
「都市の規模が違いすぎる。帝都は大陸級の都市ぞ。婿殿の機体がもたん」
「へー、地上部隊は?」
「弾薬が足りぬ」
「じゃあどうするの?」
「通常ならVIPの救出作戦になる」
「ですよねー」
VIPだけ救出してあとは見殺し。
立て直したら首都奪還。
……だけど。
「皇帝はここでぶち殺しておかないと帝国が滅びるのじゃ」
「ですよねー」
「事故に見せかけて殺るぞ!」
「あー、はいはい、優先度は最低でいいのね」
放っておけば皇帝殺害イベントが起こる。
皇帝がゾークに殺される。
そのせいで皇位継承をめぐって人間どうしでも血で血を洗う内戦が勃発する。
主人公は皇位継承者の一人の下について軍師プレイも可能だ。
軍師憧れるよね。
怪我しないところが最高である。
軍師するほど俺の頭はよくないのが問題だけど。
ヤ●には絶対なれないわけである。
現場の兵士に過剰適合しているのが問題のような気がする。
さて、そうなると嫁ヴェロニカの生存を最優先に考えねばならない。
皇位継承はどうでもいいとして、皇帝の死亡イベントからの内戦は起こさない方がいい。
ヴェロニカはここで死ぬ可能性があるからだ。
エッジが裏切らなきゃ内戦起きても大丈夫だと思うけどね……。
いや安全なルートを選ぼうと思う。
たしかに皇帝はドクズではあるが、死ぬと困るわけである。
そこが悩ましい。
嫁に嫌われたら俺生きていけない……。
精神的ダメージで死んじゃう。
かと言って死なれたら……考えるのも怖い。
ま、いいか。
やってみてダメならあきらめればいいや。
皇帝の死は強制イベントだし。
「なにを面白い顔をしてるのじゃ?」
「いや皇帝が死ぬと内戦が起きそうで怖いなと」
「起きるぞ。勝利するのは妾じゃ」
「ゾークと戦争中なのに!?」
「戦争中だからこそ頭を決めねばならぬのじゃ。いまの皇帝では人類の絶滅は避けられぬ」
「覚悟してたん!?」
「いいや、婿殿の活躍がなければ自分が皇帝になるという発想すらなかった。だが今は多くの貴族が妾が次代の皇帝になると確信してるし、そのように動いておる。期待を裏切れば死が待っているだけじゃ」
「えっと……ご兄弟と和解とかは?」
「兄弟から我が下につくなら可能じゃ。妾からどうこうはできん。貴族どもが許さん。有力貴族のミストラル公爵に獣人種のマルマがつき、レンが妾の下についた時点で選択の余地はない。皇帝orダイじゃ」
やだ怖い!!!
「安心せよ。妾は現状を変える気はあまりない。近親相姦だけは死刑じゃがな」
「あ、はい。がんばれー」
「なんじゃこのばかー!!!」
嫁が器用にクルッとまわって俺に足を向けるとキックしてくる。
べちべちべち。
俺は足をつかんでくすぐる。
「ほれほれほれほれー!」
「にゃはははははー!!! やめるのじゃー!!!」
家族にはこういう無駄な時間が必要なのだと思う。
しばらくじゃれると嫁のスタミナが切れた。
「うひひひ。ひー……疲れたのじゃ……」
「ジュース飲むか?」
「ジュースは太る。水を取ってくれ」
「へーい」
冷蔵庫からミネラルウォーターを取ると投げる。
嫁はキャッチして水を飲む。
この一連のやりとりでエロいリビドーを感じた回数ゼロ。
健全である。
「なあ婿殿」
「どうしたん?」
「妾な。婿殿と結婚できてよかった」
「死亡フラグみたいなこというのやめて!」
「カカカカカカッ! そうじゃのー。死亡フラグはだめじゃのー。これからもよろしく頼むぞ」
「へーい」
そんなやりとりがあった次の日。
ブリーフィングがはじまった。
「帝都に援軍の知らせをした。防空システムが我らを攻撃することはない。着陸地点の軍と合流するぞ」
びっくりするくらい作戦もクソもなかった。
「現在軍は一進一退を繰り返してる。原因は武器弾薬の枯渇。もともと最新鋭の兵器の普及率が高いため、旧型の実弾兵器がほとんどなかった。造形プリンターフル稼動させても足りぬのじゃ。博物館の兵器でなんとか凌いでいるらしいが……」
「人型重機は?」
「あれで戦えるのは壊れた精神の持ち主だけじゃ」
「えー、じゃあ標準機は?」
「工事現場の鉄骨持たせて戦場に出したらしいが……結果は……婿殿は自分が異常なことを自覚するのじゃ! そこまで戦えるものはおらん!」
うわーお。
今度こそ修羅場だぞ……。
だけど俺たちに絶望の二文字はなかった。
今まで勝利してきたこと。
それが自信に繋がっていた。




