第四百三十八話
結婚式の招待状が来た。
士官学校全員に見るからに良質な紙で来た。
すごい高級品である。
おめかしは現地ですればいい。
我々は軍服でイソノの惑星に行く。
惑星イソノ本家、イソノの野郎の強い希望で国軍の要塞と軍用のコロニーを持つ。
住民の主な収入源は軍と関連産業である。
領主は特になにもしなくても恒久的な賃借料が見込める。
領民も軍に入隊するものが多い。
除隊しても軍人を相手にする飲食店に軍需産業や各種輸送会社が大量にあるため困らない。
また家電量販店、電気工事店、さらに軍人の家族を主な顧客とする各種教育事業、具体的には子ども相手の私塾にスポーツクラブに音楽教室、さらには配偶者目当てのヨガ教室も大量にある。
帝都の有名スーパーマーケットも各駅にあり、我がカミシログループの店舗も多い。
ミニ帝都とも言える中途半端な都会である。
クレアのとこと違って全体的にサイバーパンクな雰囲気である。
皇帝陛下がやって来る。
クレアのとことは違う感じで大歓迎である。
宇宙港の時点で凄まじい歓迎だった。
「皇帝陛下に敬礼!!!」
軍人に囲まれる。
「撃てええええええええええッ!!!」
軍人たちは歓迎の空砲を空に放つ。
筋肉、筋肉、筋肉……どんな過酷な環境下でも任務を遂行できるマッチョだらけだ。
どうしよう……俺たちが一番軍人らしくない……。
歓迎のラッパが鳴った。
嫁ちゃんは軍の礼服で降り立つ。
「皆に感謝する!」
「はッ!!!」
そのまま軍のマーチ隊が演奏しながら行進。
俺たちは何台ものオープンカーに乗って移動する。
花火が打ち上げられ、戦闘機が飛ぶ。
国営放送の車両がそれを撮影していく。
いままでとはレベルが違う。
嫁ちゃんは自分の結婚式だってウヤムヤにして公式なものは行ってない。
あ、これ、「お前ら夫婦もいいかげんに帝国公式行事で結婚式やれよ。わかったな?」という帝国政府からの圧力である。
とにかく派手かつ厳粛に。
『カミシロ一門の有力者の結婚とはこういうものだ』と権威を見せつけている。
戦車や自走砲、対空砲までが一緒に走る。
完全に軍事パレードである。
これ一般人的にはどうなのかなって思ったんだけど、実際の感覚ではお祭り気分らしい。
式場である領主館への道路は昨日まで屋台やキッチンカーが大量に出てたらしい。
今はいないけど、パレードが終わったらまた再開なんだって。
つうか結婚式明日なんだけど……。
明日も大騒ぎ? あ、はい。
二時間近くかけてゆっくり進んで領主の館に到着。
今日はここに宿泊である。
館に入るとマッチョに囲まれた。
マッチョなおっさんの包囲網!
「皇帝陛下、カミシロ准将閣下、カツオの父にございます」
頭の禿げた軍服のおっさんが俺に頭を下げた。
なお首から下はマッチョである。
すげえ胸板。
横には若い女性がいる。
たぶんお姉さん。
子どもと手を繋いでる。
お姉さんの横にはこれまたマッチョ。
眼鏡の男性がいた。
たぶんお姉さんの婿さんだろう。
筋肉の圧がすごい。
さらに奥にはお母さんと思われる和服姿の女性がいた。
「うちのバカ息子がご迷惑をおかけしたことでしょう」
どうしよう。
否定したいのに言葉が出てこない。
いや優秀なんだけどね。
気合で言葉をひねり出す。
「い、イソノにはたいへんお世話に……」
「……わかっております」
わかるんか!!!
もうね、苦虫というか苦渋というか、とにかく思うところがある顔だった。
「……甘やかしたつもりはなかったのですが。そのなぜかあのような出来に」
「イ、イエ、優秀デスヨ」
言葉に偽りはない。
イソノの野郎は間違いなく優秀だ。
帝国最上位のエースパイロット。
ゾーク戦争の英雄。
外宇宙との交流イベントを成功させた功労者……。
あれ? なんでイソノって周囲の評価だけ異常なくらい低いんだろう?
ハナザワさんのところも軍人ぞろいだ。胸肉がはち切れんばかり。
こちらも筋肉の圧が凄い。
さすが軍閥のお嬢さま。
「婿殿見よ。帝国全土でジムを経営してるハナザワ会長がおるぞ……。親戚だったのか」
嫁ちゃんが感心してる。
するとクレアも誰かを見つける。
「ねえ、レオ、あれ水島の社長だよ。ほらスポーツ用品とプロテインの」
ハナザワ家は帝国の筋肉産業を牛耳る一族か。
二人の子どもは……筋肉の申し子が生まれてしまうのだろうか?
筋肉界のメシア。
自分でもなに言ってるかわからない。
「そう言えば外宇宙進出を打診されておったの。イソノの親戚になるのじゃ。優遇せねばな」
プロテインが銀河を超えてしまう!!!
……って、別にいいのか。
「サッカー場でも作るん?」
サッカーは外宇宙で人気のスポーツだ。
現在は兵士の中で元サッカー部の人が教えてる。
それでも大盛況で練習には予約と抽選が必要な状態だ。
プロレス教室も大盛況だ。
こちらもプラチナチケット。
なおカトリ先生は剣術セミナーから逃げ回ってる。
俺たちと遊ぶ方が優先だって。
「本気で参入するみたいじゃぞ。元プロを派遣する計画が上がってるはずじゃ」
「ふへー……」
なんというか、イソノの結婚式まで外宇宙の話が出るとは思わなかった。
さーて荷物を置く。
俺は嫁ちゃんと別部屋。
嫁ちゃんは皇族専用ルームだって。
領主の館は新築のビルだ。
地下にはイソノ専用のスポーツカーの駐車場があるらしい。
イソノはお金使うの上手だよな……。
カミシロ一門のほとんどが増える一方なのに。
なんかムカつくから洪水が起きて地下駐車場が水没しますように。
俺は高級士官用の部屋。
同じ階の部屋は宇宙海兵隊のお偉いさんとその家族が宿泊してる。
遭遇したらどんな顔していいかわからない。
それでも出歩くけどね。
廊下には【カワゴン出現中】のポスターが貼ってあった。
嫌がらせか? こんな細かい嫌がらせするのか!?
ジャージに着替えて外に出ようとしたらレイブンくんが走ってきた。
「殿! どこに行かれるので!?」
捕まってしまった。
「いや屋台でなにか買ってこようかなって」
「おやめください!!! 買いに行かせますから!!!」
怒られてしまった。
「んじゃテキトーに買ってきてくれる? みんなの分も買ってきていいから。使いっ走りにしてごめんね……」
「は!」
と思ったらワンオーワンが来た。
「わたあめ欲しいであります!!!」
「……お願いします」
「はッ!」
嫁ちゃん……レオは罪深い男です。
騎士団を使いっ走りにしてしまいました。
チョコバナナ欲しいです。




