第四百三十七話
イソノ家の結婚式の準備で大忙しだ。
俺も物資搬入のアルバイトしようと思ったら、住民に全力で止められた。
「大殿様にそんなことさせられねえですだ」
他のカミシロ一門も暇すぎて手伝いを申し出たが拒否される。
「皆様方に力仕事なんてさせられねえですだ」
カワゴン、カナシイ。
なんでも無償提供との有償のがあって参加者の人数がわからないから多めに発注したんだって。
とんでもない人数になりそうである。
なのでしばらくかかるってさ。
ということで予定を前倒ししてタチアナと結界設置という建前でキャンプに行く。
ラターニアにも出店してるボーリング場もあるんだけど、そっちは見慣れてるからね……。
「土地は余ってるからね」
余っている。
半分真実で半分嘘である。
クレアのとこは論理的な区画整理で農地が最適化されている。
そこで余った土地を公園やキャンプ場にしてる。
いざというときに使えるように管理してるのだ。
さらに奥の森林などは公営の自然公園として保護してる。
つまり余ってる土地というよりバッファーなのである。
運営方法間違えるとディストピアになるやーつ。
メリッサの惑星は管理されてないせいで罠を仕掛けられた。
クレアのとこは陽キャな管理をされてる。
クレアのとこは住民は不満はあれど幸せなんだけどね。
クレアの計画は理が通ってるし、住民負担も少ない。
報酬もちゃんと出るし、領主の言うことを聞けば子どもを帝都の大学に行かせるくらいは可能だ。
公爵会の圧政と比べたら天国だろう。
ただし自由はない。
帝都の大学に進学できるし就職先はカミシログループを用意してるよ!
公務員がよければ軍と文官の進路も用意してるよ!
騎士か文官になって故郷に帰ろう!
就職、結婚、家の購入、出産、子育て……何もかもカミシログループで!
疲れたら故郷に戻って農業三昧!
……ある意味因習村だな。
たとえ外宇宙まで逃げても故郷が追ってくる……。
自由を代償になにもかも与える……。
思考を放棄すれば天国なんだけど。
なんで、こう、極端なの!!!
「俺もクレアみたいな統治しようかな」
メリッサがつぶやいた。
「そのままのキミでいてー!!!」
銀河に一つくらいは野放図な温泉街があってもいいじゃない。
「えー……、だってクレアのとこ領民幸せそうだし」
幸せは幸せなんだけど、意思決定の自由がないのが問題じゃないかと……。
茶番に必死になりながらキャンプ場へ。
途中、地元のヤンキーが頭悪そうな改造バイクでツーリングしてるのが見えた。
それを地元警察が追いかけてた。
「金持ってるなー。うちの地元だったら、あの年で不良ってのはねえッスね。だいたい兵士か娼婦かマフィアの小間使いしてますね。金ないんで」
タチアナがあきれ果ててた。
これといった産業のないコロニー民との経済格差は深刻だ。
「うちはだいたい兵士かな。ボクは士官学校受かったけど。地元じゃ不良になるお金ないよね~」
ケビンも同意する。
ケビンは治安の良好なコロニー出身だ。
それでも不良になるほどの余裕はない。
俺も士官学校入れなきゃ強制的に小作農やらされてたところである。
やはり金、金こそがジャスティス!!!
なんて妄想してたらキャンプ場に着いた。
すでに座敷童ちゃんの神社が建立されてた。
タチアナの結界設置後に儀式やるんだって。
で、タチアナ。
「神社の敷地内で異教の聖女の装置設置していいんか?」
という至極真っ当な疑問にはあえて目を背ける。
嫁ちゃんがいいって言ったらいいんだよ!
もう何度も設置したおかげで慣れた。
装置を設置して……コンソール出して……アップデートっと。
「アップデート終わったらタチアナ頼むわ」
「了解!」
ということで遊ぶ!!!
キャンプなのでテント設置。
俺たちはこういうのの達人である。
サクッとテント張り終えて寝床の準備はできた。
なにして遊ぼう!
すると近くの農家の人たちがやって来る。
「皇帝陛下ぁ~。野菜持ってきたですど~」
軽トラに野菜詰め込んで持ってきてくれた。
嫁ちゃんも麦わら帽子姿なので威厳などない。
「おおー! ありがとうなのじゃ!!!」
臣下の礼儀とかあるんだけど、そんなの気にする嫁ちゃんではない。
「婿殿! こんなにもらったぞ!!!」
嫁ちゃんはニコニコしてる。
クレアの惑星は本当に豊かだ。
どのくらい豊かかというと、少し移動するだけで大量の野菜をくれるほどだ。
「無理しないでね」
って別のおっちゃんに言ったんだけどさ。
「なーに言ってんだ! クレア様のおかげで豊作よ! これも皇帝陛下に大殿様とクレア様のおかげだー!」
なんて言われた。
下水や製紙工場なんかの汚水も施設を作って完全リサイクルしてるらしい。
前の領主、どんだけ無能だったんだよと。
ということでもらったスイカを切り分けておやつタイム。
……この惑星来てから食ってばかりいるな。
「アタシ、スイカ好きッス」
タチアナですらこの惑星の食事を気に入ったようだ。
なに食っても「うまいッス」しか言わなかった子が……成長したわ!
「麦茶もあるど~」
近所のおっちゃんが麦茶を作ってくれた。
自家製だって!
なんて完全に林間学校の学生気分になってたら、アップデートが終了した。
「ほーい、タチアナ先生! 出番ですよ~!」
「スイカ食ってからでいいッスか?」
「いいよ~」
そう言うとタチアナはワンオーワンと争ってスイカを食べる。
シーユンとお兄ちゃんはそれを見て笑ってた。
スイカを食べ終わるとタチアナは結界装置を起動。
クレアの惑星は結界いらないんだけど、一応ね。
その後、キャンプあるあるのカレー作りに勤しんだわけである。
こうして俺たちは農村生活を満喫。
食べまくってたわりに体重の増減はなし。
花火、湖、キャンプに山登り……外で遊びまくってたからな。
いやー、楽しかった!!!
ゾークのアホのせいで遊べなかった分を取り戻した形である。
レンは虫取り絶対拒否だったけど。
なおカブトムシとクワガタを持っていこうとしたら「かわいそうでしょ!」とクレアに怒られた。
「ブランドン! ブレンダ! さようなら! 元気で生きろよ!!!」
「もう名前までつけて!!! いいから放してあげなさい!!!」
俺カナシイ。
すっかり日焼けした俺たちがイソノの存在を忘れたころ、結婚式の招待状が送られてきたのである。




