第四百三十六話
クレアの領主館に入る。
帝都の文官っぽい人が使用人と出迎えてくれた。
「皇帝陛下にご挨拶申し上げます」
「うむ、これからも職務に励むがよい!」
うちの皇帝陛下はいつも偉そうだ。実際偉いので文句はない。
「食料品の生産量が多いから、政府が帝都の文官さんや女官さんを優先配置してくれたんだ」
クレアがふふんっと胸を張る。
リモートでそこまでできるものなのか……。
すげえ。
「とにかく中に入るぞ! 遊ぶのはその後じゃ!」
……遊ぶの決定か。
でもここ遊ぶところあるのかな?
ま、いいや。
荷物を置いてジャージに着替える。
今回は嫁ちゃんとは別の部屋。
みんな個室だって。
でもなんで嫁ちゃんと別の部屋?
「家でイチャイチャされたらムカつくからよ」
あ、はい。自重します!
というわけで着替え。
ジャージマン! 変身!!! シャキーン! お高いジャージ!!!
クレアの洋館はよく手入れされていた。
塵一つない。
お掃除ロボが廊下を行き交う。
すげえな……。あれ業務用の新型だ。
たしかイソノのスポーツカーくらいの値段だぞ……。
そうか……収益を設備投資にぶっ込んでるのか。
そりゃ超テクノロジー型農業惑星になるわ……。
メモメモ。
とりあえず中庭に出るとバーベキューのコンロが用意されていた。
女官さんがガラガラとカートを押してくる。
レンやメリッサもやって来て目を輝かせる。
クレアと嫁ちゃんがタチアナたちを連れてやってきた。
二人ともジャージ姿だ。
野菜が運ばれてくる。
ふッ……。
「焼くぞおおおおおおおおおおッ!」
ニーナさんとケビンも調理係。
トウモロコシにイモにナスにタマネギに……。
「おにくー!」
レンが壊れる。
「先に野菜お食べ!」
なぜか俺がオカンになって野菜を焼く。
ふははははは!
素晴らしい火力だ!!!
「はい野菜!」
「にゃーん!!!」
レンは肉のために野菜を食べる。
シーユンやタチアナ、ワンオーワンはお行儀よく野菜を食べてた。
「食べたでありますおにく!」
「はいはい」
お肉を焼く。
肉を焼いてる間、俺は野菜をつまむ。
ヤサイウマイ。
いや、半端なく美味いな。
なにこの甘さ!
「クレア、これ」
「甘くなってるね。新しく作った微生物資材がよかったかも。菌根菌培養したやつ」
バイオテクノロジーは胡散臭い商品が多い。
でもクレアは『作った』って言ってた。
「すげえ、うちの実家にも投入できるかな?」
「この惑星の菌のブレンドだから難しいと思う。でもレシピと製法はお義兄さんに送っとくね」
「頼むわ~」
という感じで穏やかな時を過ごし……。
「に、にくううううううううう!!!」
レンはバーサーカーモードで食べ続ける。
「お肉おいしいであります!!!」
ワンオーワンは美味しさに震える。
「し、シーユン様! そんなにがっつかれなくても!」
「前々から思ってましたが、帝国の食事は異常なほど美味しいのです! こんなの我慢できません!!!」
シーユンとお兄ちゃんも目の色変えてる。
ですよねー。
銀河帝国人の食への執念って異常ですよね~。
なおこの中で一番バカ舌のタチアナも目を輝かせてた。
いつもより仕草がお上品である。
黙ってれば聖女なんだよね……タチアナって。
ニーナさんはニコニコしながらお肉をひょいパク、ぴょいパクしながら調理してる。
ケビンはお胸を揺らしながら調理に集中してる。
食事も取ってるけど、男子と比べたら小食だ。
嫁ちゃんよりは食べるけど男子未満って感じかな。
クレアやメリッサなど戦闘員は男子くらい食べるけどね。
俺は男子でも上位の食欲である。
だって、お腹空くもん!
トウモロコシウマイ。
肉も美味しい。ブランド肉と遜色ない。
「クレアさん……お肉……お高いのでは?」
「うん品評会で最高評価だよ♪ 一頭丸ごと買っててたくさんあるからね!!!」
嫁ちゃんは椅子に腰掛けて黄昏れていた。
あー、うん、食べすぎて限界来たな。
エディがやって来る。
「それで予定はどうなってる?」
「イソノ家とハナザワ家の親戚がイソノ本家に到着するまで待機かな。皇帝陛下の受け入れ準備が整ったら行く感じで」
両家ともに名家だ。
しかも、末っ子は将来の公爵で、皇帝陛下が結婚式に直接来るのだ。
親戚全員を招集し万全の体制で迎え入れねば末代までの恥。
その気合の入り方は「友だちの結婚式じゃん。そういやいくら包むんだっけ?」みたいな空気感の俺たちとは一線を画していた。
その空気をわからない俺は食べすぎてダウンしそうな嫁ちゃんに声をかける。
「嫁ちゃん! イソノにいくら包めばいいの?」
「軍艦五十隻」
「はい?」
「妾からの結婚祝いは最新鋭戦艦五十隻じゃ。到着は再来年以降じゃが、すでに両家に通達してある。喜んでたようで親戚一同から感謝状の山じゃ」
スケールが違う。
五万クレジットの引換券包もうと思った俺がバカでした。
「え……五万クレジットじゃダメなの?」
女子たちを中心にして電流走る。
「……いや皆の分はすでに手配したぞ」
「はい?」
「クレア頼む」
「全員の連名で食糧を提供したよ。トン単位で。いま貨物船で運んでるとこ。この規模の結婚式なんて準備だけでかなりの期間かかっちゃうから。でもうちが料理の問題を解決したの」
「なぜ先にこの惑星に寄ったのか? これが答えじゃ」
「恐れ入りました!!!」
俺らは嫁ちゃんとクレア様に平伏した。
もうね、友だちの結婚式レベルを想定してたから勘違いしてたよ!
シーユンとお兄ちゃんは首をかしげてるが俺たちはもう必死である。
「あ、あの、ヴェロニカ殿。私たちは?」
シーユンが聞くが嫁ちゃんは笑う。
「外国の要人は出席してもらえるだけでも誉れじゃ! なあにドレスは用意してあるぞ!!!」
もう、嫁ちゃんとクレア様には頭が上がらない。
食事が終わると湖に行く。
思ったのの数倍は大きい。
クレアのとこはスケール感が違うな。
「私も来たのはじめてだけど……すごいね」
領主本人が驚いてる。
広大な湖が広がってる。
ヒルや寄生虫の心配はないそうで泳げるんだって!
「皆様、いまトウモロコシ茹でますんで」
湖の管理してるおっちゃんがトウモロコシを茹でてくれた。
うみゃい!!!
俺たち食ってるだけだな。
なんか移動するたびに近くの人が野菜くれるのよ。
「うまいの~。皇族御用達つけるかの~」
ついさっき食べすぎてダウンしてたのに、トウモロコシはしっかり食べる嫁ちゃん。
こういうのでいいのよ。こういうので!
いきなりスペイン語叫びながら襲ってくる因習村がおかしいだけでな!!!




