第三百三十五話
【ああん! 皇帝陛下の目の前だっていうのに襲っちゃう! ビクンビクン!】
よし!
報告書完成。
俺は報告書を軍に送る。
「わかりやすいんですけど怒られませんか、それ?」
「俺に書類仕事させる方が悪い!!!」
「はいはい。ケビンくんのドローンの動画ログに私の事件要約もつけときますね」
妖精さんがいなければ大学生のゴミみたいなレポートくらいの出来でしかない。
だから能力が足りないから出世したくないとあれほど言ってたのである。
これで人が死なない職場ならいいけどバリバリ生死に関わる。
レオ、責任なんて取れないよ~。
あれから住民は正気に戻った。
タチアナの結界が強化されたからだ。
と言っても科学的根拠は皆無。
帝都の学者チームが来ることになった。
というか学者の仕事が多すぎて人材が足りなくなってきた。
もうね、各大学、私立まで含めての大学院生まで予算つけて投入。
これでダメなら理系院生も投入する。
だって我がカミシロ家の長男、一番上の兄貴まで研究者として徴用されてるもん。
ちゃんと給料払ってるからいい……というか外宇宙で稼いだ金が研究予算につぎ込まれている。
こういうのはグルグル回って最終的に国に返ってくるからいいんだけど。
現在、帝国では理系進学ブームが起こっている。
研究チームには必ず機械を使ったり細かい作業したりのアシスタントが必要だ。
大学生でもいいけど、ここは工業系の高校生を大学進学の奨学金と単位を餌に投入。
アルバイトより割のいい給料も出る。船員くらいかな?
で、将来とか考えてない高校生に金持たせると子ども作りまくるわけだ。
空前のベビーラッシュも到来。
ありとあらゆる産業が活気づき、空前の経済成長を遂げた。
嫁ちゃんも「どうしてぇ~!!!」ってなってる。
たった一年で少子化という単語が死語になりつつある。
もはや俺もわからん。
さて、俺は今度は反省文を書く。
祠を解体したら復元する。
復元のために屋根瓦の固定用に持っていった銅線で縛ったのが少しだけアウト判定だったのだ。
俺としては結束帯で拘束するのが許された方が驚きなのだが。
過去の先例から導き出された結果らしいけど、レイモンドさんも「意味わかんないよね」って言ってるくらいだ。
形だけ反省文書いて心にもない謝罪すればいいと言われた。
ケガ人は多数。
治療が必要なケガはヤンキーかおっさんなのでおおむね許された。
ヤンキーに人権ないのはいいとして、おっさんへもうちょっと優しい社会を作りたいと思う。
俺だって10年もすればおっさん扱いなのだ。
男の子はおっさんという運命から逃れられない……。
カナシイ。
住民であるが医学的調査を強制した代わりにお咎めなし。
この規模の惑星の住民全員をいちいち断罪するのも効率が悪い。
とりあえず、ゼン神族のテロと発表。
祠の調査は続行される。……やっぱり研究者が足りない。
あれから住民は協力的になった。
売店での買い食いはもとより、大量の貢ぎ物がメリッサの領主館に届けられるようになった。
温泉饅頭、お焼き、各種干物……た、食べ物なんかで買収されないんだからね! びくんびくん!!!(買収された)
館花本家の平定は完了。
悪趣味な像は撤去されることになった。
「メリッサの像置く?」
「いらない」
シャイなメリッサは自分の像を置くことを却下した。
社の調査のどさくさに座敷童ちゃんの神社を作ってもらった。
特殊鋼であらかじめ作った鳥居を設置。
神社はあまり豪華なものにする予定はない。
座敷童ちゃんも「普通のお家がいい」って言ってるし。
工期が短く補修が簡単な工法で作る。
で、帝国から派遣された神職さんがなにかの儀式を行う。
すまん……俺の知識ではここまでの説明しかできない。
座敷童ちゃんに聞いたら違う場所に同時に存在できるらしい……。
どういうこと?
ま、いいや。世の中には考えてもわからんこともある。
これでメリッサの領地も安泰だろう。
嫁ちゃんの船と同じで加護が授かると思う。
なお座敷童ちゃん効果の原理は不明。
真理の追究は頭のいい人に任せて俺らは利益だけ享受すればいいと思う。
というわけでメリッサと住民の間には感情的なしこりが残ったが領地を去るときが来た。
いったんクレアの領地に行ってからイソノと中島の惑星に行く。
イソノと中島の結婚式に嫁ちゃんや仲間たちと出席する。
エディのところも行かなきゃ。
うーん忙しい。
クレアの領地は公爵会の土地だ。
クレアには一次産業の惑星を強く要望された。
結構大きい惑星である。
宇宙港は貨物船がほとんどみたいである。
宇宙港の駅前に農協がある。
列車も貨物列車が頻繁に通る。
港もあるらしい。
本当にガチの一次産業の惑星だ。
「す、すげえ……」
うちも実家が農家なので規模の大きさに圧倒される。
宇宙港に隣接したリサイクル施設兼肥料工場をクレアが指さした
「生ゴミは完全リサイクル。環境保全しつつ農地の雑草も肥料にするんだ」
「へえ。化学肥料は?」
「使うよ。だけど土壌の菌を育てるって考えると有機肥料も必要だから」
列車の窓からの光景は水田が広がってる。
宇宙港から領都の駅に着く。
「あ、トカゲ」
トカゲが駅の壁を這ってる。
自然豊かな風景だ。
こういう風景は田舎っちゃ田舎なんだけど、大規模農業でシステマティックに営業されてる。
一次産業を工業としてやってる感がある。
道路とかの整備されかたが緻密だ。
これはむしろ都会なのでは?
少なくとも商社が好きに開発してる実家こそ田舎なんだと思う。
領主の館は洋館だった。
「うちの果樹園は裏にあるよ」
先に果樹園に行く。
ブドウに梨にみかんに……。
「クレア……ぽく、ここの子になる……」
「結婚したら、レオのものでもあるよ!」
果樹園では作業員が大量にいた。
農業用のドローンも飛びまくってる。
あちこちにセンサーがあって株の状態や温度を測ってる。
「あっちはワイン用のブドウを作ってるよ」
すげえ広い土地での大規模農業だった。
もうね、俺は圧倒されていた。
実家とは何もかも違う。
こんなの実家じゃかなわないよ~!!!
思えば実家は中途半端に農業、中途半端に鉱工業。
本気出した公爵級惑星に逆立ちしても勝てない。
そしてクレアは農作物流通の申し子。
彼女がちょっと本気を出しただけでこれである。
この惑星だってクレアが領主になるまで中途半端な生産量だったのだ。
うちの婚約者凄すぎる……。
「婿殿……妾な。心から思うのじゃ。クレアと敵対しなくてよかったなと」
「うんだ……」
なお反乱など起こるはずもない。
ただ遊ぶところはないらしい。
しばらくはここを拠点としようと思う。
どうせいイソノの結婚式まで足止めだし。
ちょっと前の話に間違いがあったので修正しました




