第四百三十一話
旧公爵会領、まずは一番近いメリッサの領地に向かう。
旧公爵会の支配地域の外れにある。
ここを経由すればみんなの領地に行くのが楽なのである。
立地的にはあまりよくないのだが、実家の近くだからとメリッサは希望した。
実家から人を派遣してもらうのが楽なんだそうだ。
サクサク行くとメリッサの惑星がある。
公爵級の惑星。
公爵級の惑星はとにかく人間がすごしやすい場所だ。
レンの実家の惑星ミストラルも全土で農業も漁業もできる惑星だ。
惑星カミシロみたいに乾燥しまくってて一部は土質が悪すぎて農業ができないってのはない。
惑星カミシロは一部が酸化鉄を多く含む赤土だ。
農業が無理ゲーである。
しかも隣接する海は雨期に赤土の流入で死の海になっている。
赤土は海洋生物へ毒性があるのだ。
その辺の改善には莫大なお金が必要だ。
それでも人が住めるし、赤土じゃなければ農業も可能。
海もまあ使えないことはない。
なのでまだいい方である。
侯爵級の下の方って感じかな。
メリッサの惑星、惑星『館花本家』は全土で土質がチェルノーゼム。
気候は温暖で四季がある。
海は珊瑚礁が広がってる場所や海草や海藻が大量に生えてる場所、干潟なんかの湿地帯もある。
野生動物も多く、地下資源も大量にある。
宇宙港は元からあるもの。
元公爵会の家臣が出迎える。
「なにこの悪趣味な宇宙港……」
メリッサがぽかーんっとした。
俺も固まる。
嫁ちゃんは「ヤレヤレ」とため息をつき、クレアは見なかったことにした。
レンは「相変わらず人類はバカですねえ」と上位存在目線でつぶやいた。
タチアナやワンオーワンは指さしてゲラゲラ笑ってる。
シーユンとお兄ちゃんはどうコメントしていいかわからないようだ。
だって金色に光る公爵像があちこちに設置されているのだ。
なぜか脱いでる像もある。
ビーナスの誕生風のうざい像もあった。
笑顔の像は歯がダイヤモンドだ。
悪趣味すぎて笑うしかない。
どうしよう……ツッコミが追いつかない。
メリッサはビキビキと血管を浮かばせた。
「すべて撤去して」
「ですが純金製でして……その芸術的価値もございますので……」
芸術的か?
おっさんのだらしない体が芸術なのか!
本当にそう思ってるのか?
全力でそう思って執事さんを見たら目をそらされた。
あ、うん、そうだよね。
判断できないだけだよね。
命令してくれって意味だよね。
「ヴェロニカちゃん! いいよね!」
メリッサが嫁ちゃんに責任をパスした。
「うむ、では、帝都美術館に寄贈せよ。反逆者として永遠に晒……帝国の歴史的異物……遺物として残そうではないか」
「かしこまりました」
よかったね。
気持ち悪い像から解放されて。
宇宙港から外に出る。
温泉街風。しかも外にはさらに裸の公爵像が乱立してた。
「メリッサ……俺さ、自分の親が一番無能だと思ってた。でも世の中には上には上がいるんだって思ったよ」
「うん、殴れないのが残念」
ここの領地を治めてた公爵は俺たちとの戦いで命を落とした。
公爵の家族は刑務所行き、生きて出ることはないだろう。
幼い子どもはいったん施設で保護してから養子に出したらしい。
物心ついた未成年者は施設から普通の学校に通ってるとのことだ。
「暗殺されない?」
って嫁ちゃんに聞いたら、
「そのくらい根性があれば近衛に登用してやる」
と言われた。
嫁が大物すぎて困る。
そんな嫁ちゃんは俺たちに向かって言った。
「見ろ皆の衆! これこそが無駄遣いじゃ!!! お主らの無駄遣いは無駄遣いに非ず! 必要な出費じゃ!」
「な、なんだってー!!!」
俺たちは一斉に叫んだ。
「む、無理だ……こんなの無理だよ……」
クレアが頭を抱える。
「親父たちが『お金入ったし、正宗くんグミで勝負をかける』って寝言ほざいて全然売れなかったの、……あれは無駄遣いじゃなかったのか……」
メリッサも頭を抱える。
「お、お待ちください! わ、私が推し活納税で牛一頭買ったのは……お高い和牛……」
「ただの通販と節税じゃ」
「なんだってー!!!」
レンは呆然としてた。
すき焼きごちでした!!!
「俺は高級スポーツカー買ったぜ!」
イソノが胸を張る。
「それもお主の収入考えると経費じゃな」
「な、なんだってー!!!」
「ま、待って、ヴェロニカお姉ちゃん! じゃあ、ワンとシーユンと一緒にお菓子の詰め合わせ買ったのは」
タチアナが驚愕しながら聞いた。
駄菓子詰め合わせのことだな。
五キロくらい買ったようだが、みんなに配ってすぐになくなったらしい。
「日常の支出じゃろ」
「なん……だと……」
贅沢道は奥が深い。
俺たちはまだ贅沢の入り口にすら立っていなかったのだ。
「待って……嫁ちゃん。じゃあ俺のポップコーン用のトウモロコシの実二十キロは……」
みんなですぐ食べちゃって追加で五十キロ注文したやつだ。
「それなら軍の経費で落としたぞ」
「支出ですらなかった!!!」
エディが首を振る。
「もう……無理なんだよ……俺たちに贅沢は……」
「な、なんだってー!!!」
贅沢の上澄みを体験してしまった我らは、自分がいかにちっぽけな存在だったことを思い知らされた。
「ところでイソノ、お主は金をなんに使ってる。みんなに教えてやれ!」
「ゲーム系のスタートアップ企業に投資しまくってるぜ! インディーゲーム中心に二十社くらいのオーナーになってる! ゲーム無料でくれるぞ!」
「そんな使い方があるなんてー!!!」
カミシロ一門に電流走る。
後にエロゲや出版、印刷所にプラモデルメーカーなどに大量の資金が流入する事件のはじまりだとは……まだ誰も知らなかったのである。
さてそんな俺らであるが、外でバスに乗ると状況は一変。
なぜか俺たちが通るたびに家の窓や店のシャッターが降りていく。
歓迎されてない。露骨な拒絶である。
「領主とその友人にその態度、ふーん」
メリッサは機嫌が悪くなっていく。
「気分はどうじゃメリッサ。これを平定するのが目的じゃぞ」
「あははは。やる気出ちゃった」
元の領主が名君ってことはないだろう。
ってことは住民側に力を持った権力者がいるってことだろう。
「俺の領地の方がマシだったな」
エディがつぶやく。
失脚した領主に義理立てしてもいいことなんてないのだが……それもわからんのだろう。
というかエディのとこは勝てる方を的確に選ぶ末松さんが化け物なわけでな。
聞いたら、エディに味方した住民グループは末松さんがどちらにつくか確認して動いたらしい。
残念ながらこの領地には末松さんはいない。
たった数日でどこまでできるかな?




