第四百三十話
メリッサの家族に挨拶する。
そしたらメリッサのお兄ちゃんに捕まる。
「大公閣下。ちょっとお話が」
やだ目が据わってる!
メリッサと一緒に道場に連れて行かれると木刀を渡される。
「ぜひ大公閣下に一手ご指南いただきたい!」
そっちか。
目が据わってたのそっちか!
なら安心である。
「一手だけなら」
カトリ先生だと疲れるまでなので一手だけならいいや。
「ところで木刀でいいんですか」
「え?」
こればかりは言葉じゃ伝わらないか。
「ではいつでもどうぞ」
そう言って下段に構える。
別に下段は防御の型だのなんのとご託を並べるわけじゃない。
単に一番安全ってだけだ。
「うおおおおおおおおおおお!」
メリッサのお兄ちゃんも帝国上位の使い手。
もう殺すつもりで打たないといけないのはわかったようだ。
思いっきり頭に木刀を振り下ろす。
だから俺は木刀を下から振り上げる。
サクッと音がした。
木刀が斬れた。
折れたじゃない。木刀で木刀を斬った。
ま、俺の木刀もただじゃすまなかったけどね。
折れちゃった。
力みをなくせば相手の木刀だけ斬れるような気がする。
俺も未熟である。
「た、隊長が……木刀を斬った……」
「次は竹刀で竹刀斬れるようにしないとね」
あっちは軽いから難しい。
ぼよーんって跳ねるし。
一気に加速して衝撃が逃げる余裕もないくらいのスピードで叩かなければならない。
難しい。
「か、完全に負けました……」
「あ、兄貴! これは相手が悪いだけだから! 隊長はあれからもずっと戦い続けてるから! 実戦経験の経験値がおかしいから!!!」
要するにそういうことである。
俺の才能はたいしたことない。
ただ実戦経験の経験値、命のやりとりをした数が異常なだけである。
あとカトリ先生という異常者のせいでもある。
「なぐさめないくていい。メリッサ……勝てないのはわかってた。だがこれほどまでに差があるとは思ってなかっただけだ」
「兄貴……」
「大公閣下。メリッサを幸せにしてやってください」
「もちろん! なー、メリッサ」
「だな! 兄貴、俺はいま幸せだぜ!」
試合したいエディがソワソワしてたのでバトンタッチ。
俺はメリッサとみんなでテーマパークに行く。
エディもすぐ来るだろう。
テーマパークは時代劇と西部劇の映画セットで、忍者と侍とカウボーイが歩いてるカオスの極みみたいな施設だった。
戦国ショーで馬に乗ったキャストが合戦したり……って、すげえな!
ここまでやるか!
「メリッサさんや」
「どうしたん?」
「テーマパーク作らない? ラターニアあたりに。メリッサが社長で」
「いいよー。これでもテーマパーク経営者の娘だし。隊長、ホラ貝吹く?」
ホラ貝体験のを渡されたのでやってみる。
ぶおーん!
いい音するな。
「え? 一発でできちゃうの!? 難しいのに!」
そうなん?
そう思ってるとワンオーワンがキョロキョロする。
「合戦でありますか!!!」
あ、ワンオーワンが変なスイッチ入った。
「違うって。ワンオーワンもやってみるか?」
「やってみるであります!!!」
ぷすりんこ。
鳴らない。
「……難しいであります」
こんな感じでテーマパークで遊ぶ。
西部劇では本格ロデオマシン!
暴れ馬ロボットの背中で片手を離して乗って八秒耐えたら成功。
だが、こんなの!
人型戦闘機乗りならば! 楽勝!!!
「ぐはははははははー!!!」
「すっげ! まったく振り落とされない! がんばれ隊長!」
「レオがんばってー!」
メリッサやクレアの声援を受けながらナイトメアモードをクリア。
はっはっは! 楽勝である!
「負けねえぞレオ!!!」
イソノもロデオをする。
この頃にはお肌がつやつやになったエディも合流。
エディもロデオをする。
二人ともなんなくクリア。
なお中島は「俺は両手を離しても問題なくぎゃあああああああああああああッ!」だった。
一度大怪我すべきだと思う。
「おうまさん♪ おうまさん♪」
牧場エリアで乗馬体験。
ワンオーワンにタチアナにシーユン、ご満悦。
クレアは普通に乗れた。
「実家でよく乗馬してたし」
農業惑星だけど俺とは違うようだ。
俺が乗れるのクマとか猛獣だけだもんな。
「隊長は乗らないでありますか?」
ワンオーワンが不思議そうにしてる。
だから俺は馬に近づく。
「ひひ-ん!!!」
逃げられた。
なんか猛獣扱いされて乗らせてくれないんだよね。昔から。
「旦那様、同じですね」
レンも内なる猛獣を察知されて逃げられたようだ。
逆にクマ牧場のコーナーに行くと一変する。
「なぜかヒグマが隊長を見に集まってるであります!!!」
「手を振ってる!」
「ぎゃははははは! 仲間だと思われてる!!!」
酷くない?
これが共に死線を乗りこえた仲間なんだぜ。
「レンは?」
「私は相変わらず逃げられますね~。ライオンは寄ってくるんですけど」
レンは猫系の猛獣に好かれるようだ。
俺は猛獣全般。なんでだろうね?
狼とかおなか出してるし。
きゅんきゅん鼻鳴らしてるし。
「おやび~ん。おやびん遊んで~」
「レン、アテレコやめて」
「レオ……なんで猛獣に好かれるのよ?」
クレアも疑問のようだ。
「妾も疑問じゃ」
嫁ちゃんも疑問だったらしい。
「知らない」
俺が一番わからんのだ。
自分自身のことなんてわかるはずもない。
「ま、いいか。なんであろうと婿殿は婿殿じゃ」
そういうことである。
こうして俺たちは楽しいテーマパークを堪能したのである。
なお、お土産に謙信くんブリトーと信長くんジュースをたくさんもらった。
あと発売したけど不人気で倉庫の肥やしになってた正宗くんグミを引き取った。
フルーツパンチ味なんだけどサイケデリックな味すぎて売れなかったんだって。
これラターニアで売れるんじゃないかな?
とりあえず全部買い取ってラターニアに送った。
レジ横で処分品として置いときゃいいでしょ。
賞味期限ずいぶん先だし。
さあ、ここまでは良かった
なんのトラブルもなく、ただの観光気分だった。
だけどそれは自分たちの領地に入るとがらりと変わるのだった。
それも知らずに俺たちは自分たちの領地に向かうのだった。
まさかさー、すでにこっちまで外宇宙の勢力が仕掛けてるなんて思わないじゃん。




