第四百二十八話
ミストラル一門の歓待を受け、国内向けプロパガンダ用に記事を発信。
完全にミストラル一門は皇帝派という印象になっている。
というか嫁ちゃんに表立って逆らおうという勢力は存在しない。
だって戦争上手だもん。
そりゃね、戦略的に穴があるとかプローンの扱いとか異論はいくらでもある。
でも結果を出してるわけだ。
さらに言えば、俺たちは「俺たちより上手くやってくれるならどうぞどうぞ」という態度である。
だってさ! 俺たちはまだ上司の指示に従えばいい年齢なのよ! 本当は!!!
頼む! 優秀な上司くれ!!! 優秀な上司プリーズ!!!
俺は、いや俺らは、責任から逃れたい!!!
俺たちの代わりに腹切ってくれる上司をいますぐくれ!!!
……そもそも嫁ちゃんの帝国は異論の声を上げられるくらい風通しのいい社会ではある。
不敬罪的論評も結果と実力で黙らせている。
嫁ちゃんは自信家で、良くも悪くも知らんやつの意見など歯牙にもかけない。
つまり世の中の無責任な発言など「文句があるなら直接言って来い」と無視ししてる。
なお本気で文句を言いに来たジャーナリストはすぐさま強制的に文官として登用され、能力を超える量の仕事を押しつけられた。
だって文官足りないんだもん。
偉そうに言ってるんだからできるでしょ。
ちゃんと残業代出るし。
言ってた内容も妖精さんたちが実行可能って判断したからやらせてるわけで。
なんか「コロシテ……コロシテ……」って言ってるけど、文句言えるならまだ大丈夫。
本当にヤバいときは感情が消えるから。
これがいい方に働いているようだ。
さて今日はタチアナのお母さんに会いに惑星ミストラルから少し行ったところにある都市に行く。
どこまで行っても都市が続く帝都と違って、都市と都市が離れてるんだよね。
幸いマルマくんには優秀な後見人がついてる。
軍閥の公爵で自らも退役軍人というお爺ちゃんである。
ちゃんと道路を整備してくれてた。(鉄道は間に合わなかった)
なので俺たちも普通の自動車……というかバスで向かう。
皇族専用車なんか用意してるわけもない。
というか嫁ちゃんは軍用車両でも気にしないタイプだ。
バスではカラオケセットで歌いまくってた。
おっさんの中で育ってるとこうなるのね……少し涙が出た。
タチアナのお母さんは当初別の場所で後見人がついて保護されてた。
だけどタチアナが異世界の聖女になってしまったおかげで、常時護衛がつく身になった。
しかたないじゃん。
変な宗教とかが聖母とか言い始めて狙ってるんだもん。
後宮でかくまうには理由が弱い。
軍や警察の施設じゃ自由がない。
カミシロ本家でもよかったんだけど、騎士団の人材が少なく警備が甘いのでミストラル家へ。
ここは建て直しさえできれば優秀な騎士団がいるし、領主軍も数が多い。
というわけでタチアナのお母さんと弟妹はここでかくまうことになった。
タチアナのお母さんがいるポエドシティに着いた。
前を走ってた装甲車から兵士がゾロゾロ出て来て安全を確認。
そしたら俺たちが出てくる。
なお帝国内向けの報道ではタチアナの出生についてはノーガード戦法で情報公開してる。
本人が「隠すの面倒ッス」と言ったのでそうした。
基本的にジェスターの勘は最優先とされている。
俺が外交で強力な権限を与えられ好き放題やってるのもジェスター最優先方針による。
悪い方には転ばないだろうと思われてるせいだ。
なのでタチアナはスラム生まれの軍隊育ち、さらにクローンを隠してない。
すでに親や生まれに難癖つけるアホどもを黙らすだけの手柄は挙げたのだ。
『黙れクズども』で終わりである。
俺たちは、というか俺とタチアナ、それにいつメンは自動車でタチアナの家族が保護されてるマンションに向かう。
「あー……緊張するっス」
中に入るとロビーでタチアナのお母さんと弟妹が出迎えた。
なおガチガチに領主軍が警備してた。
一斉に敬礼。
さすがミストラル公爵家。
うちの実家じゃここまでの練度は無理だ。
このマンション、領主軍の関係者とタチアナの家族しか入居してないんだって。
「お姉ちゃーん!」
二人がタチアナに抱きついた。
「お、おう、ただいま?」
クエスチョンマークは『アタシ、クローンなんすけど。【ただいま】でいいのか?』というとまどいだろう。
俺もわからん。
母親も来る。
若!
ちょっと待って!
タチアナいくつの時の子よ!?
それくらい若かった。
「タチアナ~。ママ再婚するわ」
「お、おう。今度はどこのヤクザだ」
タチアナは手厳しい。
前のタチアナが死ぬほど苦労したのが垣間見える塩対応だ。
「違うのよ~。ダーリンおいで~」
領主軍のゴリラ系マッチョが前に出る。
三十代くらいかな?
「はじめまして! ミストラル公爵家陸軍中尉! 鬼塚タケシです!!!」
ムキムキの敬礼。
「あ、はい。どうもご丁寧に。帝国宇宙海兵隊タチアナ准尉です」
こっちも敬礼。
だらしなさなし。
厳しく教えただけある。
士官でも通用する。
うん、なんか、わかった。
タチアナのお母さん……強そうな人なら誰でもいいタイプだ。
なおタチアナの階級であるが可変性である。
一応准尉なのだが、軍が手放したくないのですでに【佐】の予約が入ってる。
少佐名乗ってもいいよって言われてる。
タチアナは心の底から嫌がってて准尉を名乗ってる。
「レオの兄貴見てたら……出世したくねえって思うわ、ほんと」
酷いよね!?
それはいいとして、タチアナと鬼塚さんは同じ軍人ということでなにかを感じ取ったらしい。
テレパシーとかじゃなくて同じ業者関係者によくある動きだけで苦労がわかるアレである。
「若い身空でそこまで美しい敬礼を……さぞ苦労したのでしょう」
「あきに……レオ准将に仕込まれましたので」
あ、誤解されるような言い方しやがった。
鬼塚さんが俺を見る。
違う違う。そういう意味じゃねえ!!!
「じゅ、准将閣下……あとでお話が」
「誤解ですって!!!」
ジロッと見られてる。
それを見てメリッサが笑うのを必死に我慢してた。
よく見たらクレアも嫁ちゃんすらも笑いを堪えてる。
なぜオチがつくのか……それは俺たちはジェスターだからだ。
とりあえずタチアナが悩んでいたこととかが一気に吹っ飛んだ。
もう、なんにでもなーれーの境地である。
どうやら鬼塚さんは常識人のようだ。
タチアナの家族は鬼塚さんに幸せにしてもらおう。
ちゃんと監視するけどね。




