第四百二十七話
さーて、民間船で……あ、皇族専用船ですか。はい。
皇族専用旅客船で帝都近くにあるレンの実家へ向かう。
中のクルーはいつメンと護衛の騎士団。
すっげえ人数。家族旅行って感じじゃないな。
里帰りが終了したクレアはついて来てくれた。
まずはレンの実家に向かう。
タチアナの母親と兄妹もいろいろあって、レンの実家で保護されてる。
なのでついでに寄る。
そしたらカミシロ本家に寄ってから俺の実家へ。
メリッサの家に行って、ケビンのとこに寄りながらそれぞれの領地で降ろす。
エディはミネルバちゃんの実家への定期船が出てるとこで降ろす予定。
イソノたちも途中で降ろす。
帰りはそれぞれで帰ってきてもらう。
俺と嫁ちゃん、それとシーユンとワンオーワンは旅行気分である。
シーユンは顔が真っ青になっていた。
「て、帝都を見たときから思ってましたが……銀河帝国は超大国なのでは?」
領土広いからね。
でも領土の端っこは太極国と同じで田舎なのね。
うちの領地も帝都惑星直通便とIターン移住者の増加でずいぶん都会になったけど、伯爵級から下の領地が厳しいのは変わらない。
その辺も余すことなく見せるのがシーユンの視察旅行の目的である。
シーユンのお兄ちゃんも一緒である。
「超大国かはわからないけど広いよねえ」
「うむ、人口が増加してるときはよかったのじゃが……ここまで少子化が続くとな、もうちょっとコンパクトでもよかったと思うのう」
どの文化圏でも急激な人口増加からの土地バブル、それによる僻地の無意味な開発からのゴーストタウン化という運命からは逃れられないのである。
そのせいでビースト種やクロレラ処理などの強化人間の就職難なんかが起こってるわけである。
体や遺伝子を改造してまで肉体労働に適応したのに就職難とか言われたら、俺だったら政府転覆を本気で考えるだろう。
あ、ジェスターである俺も改造人間だったわ。
今のところ公務員でうまくいってるからいいや。
というわけでレンの家に到着。
そもそも戦闘がなければこの距離なのである!
だって高級リゾートだもん。
ゴミ屋敷、もとい博物館さえ清掃すればね。
「そういやゴミどうなったの?」
俺はレンに聞く。
「また古代兵器が見つかるかもしれないので帝国が調査してます。10年くらいかかるみたいです」
ですよねー。
妖精さんの寝床は見つかるわ、いまや帝国の主力兵器になってるリニアブレイザーは見つかるわ、だもんね!
変に触ったら帝国が滅亡しかねない。
ゴミ屋敷が原因で帝国崩壊って地獄かな?
宇宙港につくとミストラル公爵家の騎士団が出迎えてくれた。
「お姉様!!!」
現当主のマルマくんがやってきた。
会ったときは「様」つけてたけど、今や俺も大公。
これで思いっきり義弟扱いできる。
弟、欲しかったんだ!
カブトムシ捕まえに行ったり、魚釣りに行ったり、海で遊んだり!
「マルマくん……お義兄ちゃんと虫取り行こうね」
「圧! 旦那様、圧をかけないで! それとマルマは虫苦手なんですから!」
「えー……」
弟と虫取りの夢が潰えた……。
「じゃあ、なにして遊ぶ?」
「け、剣を教えてください!」
「エディさん、頼みましたよ」
俺はエディに投げる。
「なんで俺!?」
「俺が教えてマルマくんに変なクセついたらどうするんだよ!」
「レオさー! 自覚あるなら型稽古ちゃんとしろ!!!」
思いっきりツッコまれたけど、型稽古を一緒にやるという約束したら許された。
今日はここで数日宿泊。二泊か三泊かな?
皇帝陛下が来てるから晩餐会をしなければならないのである。
「皇族ってたいへんだな……。レンもなんかごめんね」
「いえ! むしろ一門の忠誠心を高めるチャンスですので」
いまやミストラル公爵家は皇帝派の重鎮である。
まだ未成年のマルマくんを支える家臣を団結させること重要らしい。
皇帝が直接来て感謝の意を述べるってのが重要なんだって。
『うちは皇帝の身内じゃん! そんな一門の俺もSUGEEEEEEEEE!!!』
って思わせるのが目的だそうで。
あとは図にのったバカだけ剪定。
『むしろ高潔に生きねばならない』という正解引いた子は優遇するそうである。
身分制って厳しい社会ね……。
これを各地でやるのが嫁ちゃんの今回のお仕事。
並行して俺や仲間たちで産業の育成や流通や人材の話をする。
クレア様がいなければ無理ゲーだっただろう。
さらに有力者の陳情である。
建設してほしい施設の話とか、帝都の国立大への推薦状の話とかをする。
具体的には病院や宇宙港の整備だ。
大学への推薦状なんかは枠増やすだけだからむしろ歓迎である。
文理問わず高学歴人材が不足してる状態だからね。
入学試験受かればだけどね。
というかもし成績が不振だったら『てめえ皇帝陛下のお顔に泥を塗る気か?』と死ぬほど圧をかけられる。
関係者全員不幸になるし、最悪恨まれる。
入学試験だけは絶対である。
このように、政治とはどこまでもドブ板活動なのである。
晩餐会には男子は軍の礼服、女子はロリおばちゃん軍団チョイスのドレスで挑む。
もの凄い量の服を持ってきた。
男子と違って女子はドレス一度着たら終わりなんだって。
なに言ってるかわからないし、女子も胃痛になるもの続出。
俺たちの金銭感覚は未だ庶民のものである。
着飾った女子が会場に入る。
士官学校女子は全員が現役伯爵家当主。
しかも公爵確約という逸材ぞろい。
ミストラル一門も社交に必死である。
息子の嫁にしたいみたいな表情ではなく、取引の相手方という扱いである。
さらには男子も女子も将来の国軍を担う精鋭。
男子だって無下にはされない。
ミストラル一門、カミシロ一門ともにお互い接待モードであった。
俺はというと、接待されながらクレアを秘書役にして仕事の話をしまくる。
軍から貿易まで。
本当に、本当に、文官が足りない。
タチアナが囲まれてる。
そりゃ外宇宙の聖女様だ。
誰もがお近づきになりたいだろう。
だけど今回は大丈夫。
マネージャーさんがいるから。
マネージャーさんは元軍人で芸能事務所で警護とマネージャー業務をやっていたやり手だ。
クロレラ処理の改造人間で身長2メートル超もある筋肉ムキムキのおっさんである。
退役後に軍の奨学金で大学に行って、芸能事務所で働いてるそうである。
マネージャーさんはにこやかに貴族たちとの会談などをセッティングしていく。
彼がいなかったら俺も仕事量が増えて死にかけたかもしれない。
シーユンはお兄ちゃんがいるし、ワンオーワンは絶望の執事さんがいる。
……秘書欲しい。
女の人じゃないと嫌とか贅沢言わないから、本当にお願い!




