第四百二十四話
三日ほど続いた晩餐会を終え……詳しい話が必要か。
トマスや俺たちは皇帝陛下からお褒めの言葉を賜わった。
帝国に貢献したら、ちゃんと功績が認められる。
これが重要なのである。
また貴族ばかりの晩餐会には出席できなかっただけど、一般兵士も宮殿の中庭で嫁ちゃんからお褒めの言葉を授けられた。
一般兵士には特別賞与が支給される。
で、俺たちはというと領主が死にまくったせいで余ってる惑星を押しつけられたり、出世名目で謎の役職が生えてきたり、爵位が上がったりした。
ただいきなり上げすぎても良くない。
嫁ちゃんは公爵をゴールに20年計画を立てている。
なので今回は伯爵のみんなに【上級】がついた。
副長のエディはすでに【上級】侯爵なので爵位の変動なし。
ただし帝国から【護国卿】という謎の称号と勲章を賜わった。
「いらねえ……」
それはカミシロ隊の心が一つになった瞬間だった。
嫁ちゃんも「いらねえ……」って思っるはずだ。
いや軍の内部事情を知らない貴族は名誉を賜わったと喜ぶのかもしれない。
だが俺たちは、義務だけ押しつけられたのだと知っていた。
かといって報償をもらわないと他の貴族たちから突き上げを食らう。
『俺たちが貢献したときに褒賞もらえないじゃねえか!』と。
まったくその通りであるのでエディも【クソいらねえ称号】と思いつつも笑顔で授与される。
副賞は称号に年金がつくくらいだろうか。
それも領地経営の経費でいつの間にか消えるくらいのものである。
例えるなら領主軍に支給される食事が一品増えるくらいだろう。
嫁ちゃんも、もうちょっと色つけたかったんだろうが……。
みんなそれをわかっている。
不平不満を口にするものなどいなかった。
帝国のこういう風通しの悪いとこ嫌い。
式典が終わってようやく解放。
夜会で酒飲んで営倉入りもなし。
先生は感動してます!
能力高いのに権力者を信じてないボクたちでもやれるんだね!
女子たちが話をしてる。
「せっかく帝都来たんだしなに買う?」
「せっかくだし服買わないと」
「ねえねえ、王室御用達ブランドの店行ってみる?」
「えー、入っても追い出されないかな?」
……おう。
キミら、王室御用達の店どころか王室御用達を呼んでオーダーメードさせるだけの財産持ってるだろ……。
今度は男子。
「おう、メシ食いに行くか?」
「俺さ、回ってない寿司屋行ってみたい! 自分の金で回ってない寿司食うの夢だったんだ」
「おう、じゃあ、駅前のあの店行くか? ランチなら安いし」
「行くベ行くベ。ランチに追加とかできちゃうのか! 俺らも偉くなったよな!!!」
お前ら、回ってない高級寿司の大将を呼ぶくらいの財産持ってるだろが。
だめだ……我ら、『大学行きたいけど成績優秀者の奨学金とれるほどじゃないな、じゃあ士官学校行くベ』という庶民マインドに支配されすぎてる。
俺が頭を抱えてるとクレアがやって来る。
「レオ、みんなボウリング行こうってヴェロニカちゃんが」
「うっす! 行くっす!」
別にボウリングにこだわりはない。
ゲームセンターで遊んでもいいし、カラオケに行ってもいい。
「で、どこ行くの?」
やはり宮殿前駅の近くにある大学近辺だろうか。
「どこって後宮」
「なぜに?」
「中にあるから。ヴェロニカちゃんが護衛つけないで遊べるのそこしかないし。あ、みんなにメッセージ送っておくね。寿司職人呼ぶぞっと」
先ほど宮殿駅前の寿司屋に行こうとしてた男子どもが凄まじいスピードで走ってくる。
「皇帝陛下、一生ついて行きます!」
ブランドショップに行こうとしてた女子も全力で走ってきた。
「お寿司!!!」
メリッサやケビンやレンなどが集合して、イソノや中島やエディなどのいつメンも合流。
さらにタチアナやワンオーワンがやってくる。
「シーユンは?」
「外交行事を装うから車で来るって」
徒歩10分程度の距離だ。
しかも敷地内の移動しかない。
俺たちはゾロゾロ歩いて後宮に向かう。
後宮の警備兵も顔パスで通してくれる。
それを見てクレアが笑った。
「私たちからしたら友だちの家に遊びに行く感覚だもんね」
メリッサもゲラゲラ笑ってる。
「だよな。それに隊長の嫁になって姉妹になるわけだし~」
レンもクスクス笑ってる。
「じゃあ私たちの実家にもなるんですね」
後宮を実家と言ってしまうその胆力。
やはりレンはすげえ。
素直にすげえ。
俺はここを妻の実家とは思えねえもん。
むしろ実家感があるのは嫁ちゃんの戦艦だよな。
お義父さんいるし。
後宮の中に入ると嫁ちゃんが出迎えた。
「よ! 来たな皆の衆。まずは女子! デザイナー呼んだから昼食前に服作れ。軍服で出席したせいで貴族から不満が出てしまったぞ!」
ボロが出ないように講じた策が逆効果だったようだ。
「男子はいい子にしてろ」
「へーい」
ここでシーユンがやって来た。
お兄ちゃんとベルガーさんも来た。
俺たち男子はお兄ちゃんとベルガーさんをボウリング場へと連れて行く。
シーユンは女子にさらわれていった。
がんばれシーユン。負けるなシーユン。
タチアナはすでに負けてるぞ。
「アタシもボウリングの方がいい」
なんて言葉は女子には届かない。
あきらめろ。
だって後宮の嫁ちゃんのお姉ちゃん、お母ちゃん軍団が女子組に合流したもの。
がんばれタチアナ! がんばれシーユン!
たぶんワンオーワンは『なんでもいいであります!』って受け入れてると思う。
そんなわけで俺たちはボウリングをして遊ぶのである。
というか麻呂専用遊技場すげえな。
前に後宮に来たときは任務だから気にしなかったけど、ボウリングに温泉にゲームセンターにバッティングセンターまである。
あのおっさん、俗物すぎるだろ!!!
イソノたち野球部が「バッティングセンター行きた~い!」ってダダこねたので、バッティングセンターへ。
トマスは苦笑してた。
聞いたら来たことなんてなかったらしい。
「父上の隠れ家だったようだね」
「その節はたいへん……」
なんてお悔やみの言葉を言おうとしたら手で制される。
「いいんだ。あそこで父上が死んでヴェロニカが皇帝にならねば……義弟がいなければ銀河帝国は滅んでいただろう。民は死に絶え、困窮し、絶望のうちに文明が失われるところだった。これは運命だったのだ」
そう言うとトマスは笑顔になった。
「さあ遊ぼう。私は子どものとき野球やってたんだ。久しぶりにバットを持ててうれしいよ」
バッティングであるが、俺たちはあまりに過酷な訓練をしすぎたせいで普通にホームラン連発であった。




