第四百二十三話
船の清掃が終了し、嫁ちゃんの艦隊が出港した。
ゲートは最初の頃の遺跡感はゼロ。
改修されて宇宙港風にリニューアルされていた。
銀河帝国と鬼神国やバトルドームが共同で運営する研究所も併設されている。
ここのスタッフや研究者の求人出したら倍率二千倍だって。
もはやなに言ってるかわからない。
外宇宙人の研究者や言語学者、文化の研究者に……普通の生物学者に。
農学者や地質学者やら……。とにかくたくさん。
写真家やジャーナリストも来たいって言ってるけど、国営組織の信頼できる人のみにしてる。
新しい研究分野にイッチョ噛みしたいだけのクズから、とにかく国の金で援助しまくって世界を慈愛でつつみ込みたい勢、ただ文句を言いたいだけのゴミカスを排除したいのだが……そううまくいかないよね。
こればかりは難しい。
アカデミアの腐敗ってどう防げばいいのだろうか?
放っておくと勝手に権威作って腐敗するのだが。
すでに若手がグループ作ってマイナー派閥を排除しようとした。
猿山の猿かな?
誰も人事権渡してないんだけど。
なんかムカついたので士官学校院生のグループに丸投げした。
だって彼ら、外宇宙の最古参研究者だもの。
軍属なのでグループ作業は得意。
組織図的にもカミシロ隊のトップに俺というボス猿がいるので安心である。
ウキー!!!
で、ゲートから転移。
久しぶりに帝国に帰ってきた。
命をかけないワープっていいよね。
帰ってくると大船団がお出迎え。
凱旋帰国はすでに始まっていた。
あとから出発したトマスの船団も面食らってた。
いやさー、実は怒られるかなあって思ってたのよ。
いやだって現状維持って選択肢もあったわけでさ。
無駄金使っただけって言われてもしかたない。
実際の収支は黒字どころか空前の好景気だけど。
外宇宙の大国二か国との航路を作ったってのが大きい。
俺たちは英雄として出迎えられる。
というかね、お迎えで民間船まで合流したもんだからいつまで経っても帝都にたどり着けねえ!!!
大歓迎すぎる!!!
何日もかけて帝都にたどり着いたころには、我々は満身創痍だった。
「か、カミシロ本家に帰りたい」
完全にカミシロ本家を【お家】と認識してる嫁ちゃんがつぶやいた。
「これから帝都で凱旋パレードだよ」
俺も机に突っ伏していた。
つ、疲れる。
歓迎はいいんだけど、渋滞は本当に疲れる。
「嫌じゃ嫌じゃ! 南国ビーチでメロン食べたい!」
とうとう嫁ちゃんもキレてしまった。
「仕事終わったらゆっくりしようね」
俺はもう怒る気力もない。
とにかく解放されたかった。
俺を一番追い込んでるのは自国民のような気がする。
帝都に着いたら宇宙港でオープンカーに乗る。
もう意味わからねえだろ?
俺もわからない。
凱旋パレードの始まりである。
「オープンカーだけど暗殺大丈夫なの?」
「もはや外宇宙の遠征は高度に属人化されておる。我らしかできぬ。やれるものならやってみよ。なあ護衛よ! 我らを守らねば仕事が降りかかってくるぞ! 全力で守れ!」
「はッ!」
いつもの返事よりも声に悲壮感があった。
護衛の皆さん……お疲れ様です。
帝国市民は俺たちを熱狂的なほど歓迎した。
ゾーク戦争と違って奪われる戦争じゃないからね。
新しい技術やら文化やらを持ち帰り、太極国の皇族も連れてきて友好アピールもする。
シーユンの人気が……というかワンオーワンにタチアナを加えた三人の人気が爆発した。
ゾークは恨まれてるかなって思ったけど、そこはプロパガンダが成功。
帝国軍人としてゾークをまとめてるって話になってる。
さらにベルガーさんも来て、長命種として国営メディアのインタビューを受けてた。
タチアナなんかは元からクローンであることを公表してて人気がある。
シーユンは細かい話はしないけど国を取り戻したって話は伝わってる。
というわけで帝国じゃ三人娘は数奇な運命を力強く生きるヒロインって認識だ。
タレント化するのもどうかなって思うけど、今は利用させてもらう。
ところで……。
「お兄ちゃん。にらむのやめてもらっていいっすか?」
オープンカーで笑顔で手を振る。
なのにシーユンのお兄ちゃんはぶすっとしてる。
お兄ちゃんは皮膚の最終的な形成手術を帝国で受けてもらう予定だ。
「まだ目が慣れてませんので」
まぶしいんだろうけどさ!
別に無表情なのはいいんだけどさ、俺をにらんでるよね!!!
シーユンはクスクス笑ってる。
「兄様、もう、笑いましょう」
「で、ですが、シーユン様……」
「いいから」
義妹の忠臣であるお兄ちゃんは笑うしかない。
作った笑顔で手を振る。
で、数時間かけて宮殿に入る。
ふええええええ……疲れた。
宮殿に入ると国の偉い人たちが勢揃いで晩餐会。
俺は、いや俺たち士官学校組は軍の偉い人たちに周囲を囲まれた配置だ。
もうね、ゾーク戦争の終結で半分いなくなったのに、またヤクザみたいな顔の偉い人が補充されてる。
レイモンドさんなんて事務方の総責任者である。
「ふえぇ、レイモンドさん……」
もうね、レイモンドさんはカトリ先生とは別方向で俺の師匠だ。
レイモンドさんがいなければとっくにキャリアが終わっていただろう。
書類仕事方面で。
「レオくんがんばったね! 相談なんだけどそろそろ引退……」
「お願いですから残留してください!!! レイモンドさんがいないと仕事できないよぉ~!!!」
そうやって泣きつくとレイモンドさんの近くに座ってた顔が真四角な大将閣下が笑う。
普通の会社で例えると俺が平の役員でレイモンドさんが常務とすると副社長?
下手すると社長だ。
「はっはっは! かの英雄レオ・カミシロにも苦手なものが存在するわけですな!」
なぜか猫なで声である。
怖い!
おっさんの猫なで声は地獄への片道切符である。
「あ、はい。その自分は書類仕事が苦手でして……」
あんなもの得意なやつなんかいねえ。
難しすぎるんじゃい!
高度な判断が求められるし、出した答えが正しいとは限らないし。
だましだましやってる状態である。
「ところで……軍のトップに興味はございますか?」
「勘弁してください……土下座でもなんでもしますんで勘弁してください」
できるはずがない。
軍のトップ、それは国民のサンドバッグとほぼ同義である。
『責任を取るのが仕事さ』
なんて言うのは簡単だが、実際は超高度な根回しの力が必要だ。
皇帝の婿だからって世界が言いなりになってくれるわけじゃねえぞ!!!
というわけで全力回避。
「ですが、ゾーク戦争の英雄にして外宇宙探索で成果を上げた指導者。准将程度では我らが国民から責められます」
えー、無理だって。
神輿として担がれるにもある程度の重さが必要なわけだしさ。
まだ俺は重みが足りないのよ。
「人生経験が足りません。あと20年は必要かと」
すると大将閣下は満面の笑みになった。
「わかりました。20年後ですな。約束ですぞ」
あ、ラターニア人相手じゃないから油断してた。
言質取られちゃった。
20年後に大将に相応しい成長を遂げてる自信がない件。
さーて、晩餐会終わったら今度こそ遊ぼう。
俺は血走った目で誓うのだった。




