第四百二十一話
敵勢力をほぼ制圧完了し、銀河帝国の安寧は保たれることになった。
シーユンの皇帝就任問題など課題は数多く残れど、当初の目的は完遂した。
というわけで方面軍と外務官僚などの人員を維持しつつ、俺たち、特に嫁ちゃんは凱旋することになった。
シーユンも連れて行く。
ワープゲートは徹底的に解析され補修工事されまくってた。
もうね、バブルじゃないのにバブル状態。
帝都の復興建設ラッシュのどさくさに区画整理事業を行う。
それが帝国全土なのでとんでもない需要増である。
さらに解体業から廃棄物処理業までとんでもない量の仕事が舞い込む。
工事が大量にある。
ゼネコンウハウハ状態である!
インフレも起こったのだが、むしろ地方惑星と帝都の地獄みたいな物価の格差が是正されてしまった。
麻呂の悪政のおかげでバブル回避できたわけである。
斜め上の展開のためコメントは差し控える。
俺もわからん。
ゲートの前にバトルドームが建設した宇宙港に向かう。
バトルドームのコロニーに巨大な宇宙港をくっつけたものだ。
嫁ちゃんやトマスの艦隊が交代で補給する。
屍食鬼に侵入されたので全艦一斉洗浄が行われる。
帝国に屍食鬼を持ち込むわけにはいかない。
といってもタチアナの聖女結界装置は全艦に搭載済み。
さらに座敷童ちゃんの分社を全艦に作った。
神棚風から社まで。
侵入できるもんならしてみろ!
し、屍食鬼なんて怖くねえぞ!!!(ゾークより怖い)
宗教的なあれこれは軍にいた元神職さんに全力で働いてもらう。
本人曰く、「軍に入ってまで神職やるとは思わなかった……」。
ごめんね!
帝国に帰ったら軍属待遇で神職さんをリクルートしようと思う。
軍属の坊さんいるんだから許されるでしょ。
え? 誰が隊長になるんだ?
当然、あなたが隊長ですよ。
ようこそ少尉!(ゲス顔)
というわけでバトルドームでしばらく停泊。
バトルドームに新設された宿泊施設に入るとロビーに知らないおっさんがいた。
うーん、見るからに上流階級っていう姿だ。
鬼人国人でもラターニア人でも太極国人でもない。
見たことない人種だ。
品がある。
成金じゃなくて生まれながらの金持ち。
俺やサム兄では到達できない次元にいる存在だ。
ならば対処は簡単だ。
「嫁ちゃん! お願いします!!!」
オラオラオラオラオラァ!
このお方こそ我が国最高の貴人やぞ!!!
するとなぜか帝国ツアーについてきたサリアが驚いたような声を上げる。
「あれ? 会頭! どうしたんですか?」
「会頭?」
「あ、こちら、バトルドーム会頭のベルガーさんです。古代人のかたです」
「ベルガーです。大公閣下。お見知りおきを」
「えっと……古代人ってのは?」
ベルガーさんは柔和にほほ笑む。
「遙か古の時代、この銀河に大帝国を築いた最強種族です。このゲートも彼らが作ったっていう説があります」
「おもしろ半分で技術をばら撒いてるっていう?」
「それは別勢力です。我々の大多数は技術の大半を失い、国もすでになく、ただ長生きしてるだけの一般人です」
「えっと、技術はなぜ失われたんですか?」
だって妖精さんも長寿だけどできる限りの技術保存はしてたし。
すると笑顔のままベルガーさんは言った。
「いま生存しているものの大半が営業や事務職でしたので」
なんという説得力!!!
そうか……長生きでも技術職とは限らないもんな……。
自分の仕事や文化周りはある程度保存できるだろうけど、専門外は厳しいよね……。
「それに千年は生きてますが、鮮明に思い出せるのはここ15年……いや10年くらい、その日の食事まで思い出せるのは先週くらいまでですな。はっはっは!」
前に妖精さんも数年より前になると記憶があやしくなるとは言ってた。
長命種でも記憶できるものには限界があるようだ。
俺も子どものころなんて動物の背中に乗って遊んでた記憶しかない。
ちゃんと思い出せるのはゾーク襲撃後からか……。
うん、記憶なんてあてにならねえな!
長命種も俺たちとあまり変わらないようだ。
「それで会頭さんはなんのご用事で?」
「ええ、サリア大王様に引退のご挨拶と引き継ぎの連絡をしにまいりました」
「はい? 引退?」
サリアが変な声を出した。
「ええ、プローンに屍食鬼、さらに海賊の問題も一段落つきましたので。そろそろ引退時期だと思いまして。サリア大王様にバトルドームをまかせて旅に出ようかと。大公閣下、銀河帝国まで乗船させて頂きたくお願いにあがったしだいでして」
「はーい。お部屋ご用意しますね」
「ありがたく存じ上げます」
サリアがあわてる。
「ちょちょちょ! 待ってください! 私が会頭? 聞いてないですよ!」
「それは言ってませんから。ですがバトルドームは実質鬼神国の商会ですから。大王様に後を引き継いでいただければ丸く収まるかと。私も数百年ぶりに旅行したいですし」
すっかり定年退職後の海外旅行気分である。
もうどーにでもなーれー♪
「よかったじゃん、サリア。商人として成り上がるって夢が叶って」
「こんな文脈で成り上がりたかったわけじゃないです!」
「俺だって軍の弁護士になろうと思ってたら、知らんうちに皇帝の婿になってたわけだしさ」
「あんたの場合は弁護士の夢の方がバグってるでしょうが!!!」
サリアきゅんに「シャーッ!」された!
「じゃ大王の方を誰かにまかせれば? パパとかキールティちゃんとか」
「それも無理なんです」
ほう。
「プローンに……屍食鬼に……海賊ギルド……それに太極国問題まで解決した歴代最強の大王とか言われてるんです。やったのレオさんなのに……」
どうやらサリアの国内人気は不動のものになりつつあるようだ。
そりゃ国を回してる官僚からしたら国内向け報道は全部サリアの手柄にするよね。
俺が官僚でも同じ事するわ。
「うん、あきらめろ♪ サリアはそういう星の下に生まれてるんだ」
「ほぼすべてがレオくんのしわざでしょが!!!」
こうして鬼神国に伝説の指導者「サリア大王」の伝説が誕生したのである。
でもさー、俺思うのよ。
サリアに最初に出会ってなければナイトメアモードからの出発だったわけだ。
それにプローンのときも太極国のときも、サリアがいなかったら作戦どころじゃなかったわけで。
○休さんもファッQさんも輸入できなかったわけである。
俺のやらかしの大半はサリアが共犯でなければ不可能だったわけである。
つまり悪いのはサリア!
すべてサリアが発端なのだ!
俺はサリアを見据える。
「サリアきゅん、ボクらズッ友だよ」
「あんた、またなにか企んでるでしょ?」
こうしてベルガーさんを加え、楽しい里帰りが始まったのである。




