第四百二十話
「皇帝就任! おめでとー!!!」
俺はイソノのケツを蹴っ飛ばした。
「ならねえよバカ!!!」
シーユンがいるから言わないが問題は俺にも帝国にもなんのメリットもないことだ。
だって地方軍閥が力持っちゃった崩壊寸前国家である。
一手失敗しただけで戦国時代に突入である。
幸いなことにラターニアへの借金は少ない。
金に関して容赦のないラターニアのおもちゃになる運命は避けられた。
古い国家だけあって財政は終わってる。
終わってるけどギリギリ死なない程度の水準だ。
これ……利権と無縁な官僚が大量に必要だな。
新たな派閥の出現と粛清の嵐。
恨み買うぞ~。
それなのに誰がなっても避けられない。
ただ国民のリソースとマンパワーは余りまくってるので建て直し自体は難しくないと。
この体制で国民の学力や科学力は低くない。
ラターニアと同等の水準だ。
つまりうちらとあまり変わらない。
一方、文化は終わってる。
鬼神国みたいな脳筋やラターニアみたいに遊ぶという概念があまりないなどの原因があるわけではない。
プローン同様にクソつまらないだけだ。
それでもかつての太極国は文化的にも覇権国家だったのだろう。
伝統文化の厚みは凄まじい。
伝統曲の楽譜だけでも恐ろしいほどの量になる。
だがそのほとんどに当の国民は価値を見いだしてない。
こういうのって良くないんだよね。
国民にはある程度の自国や自国文化、歴史に誇りを与えて調子にのった枝だけ刈り取る。
自国民を神の子孫と言い放つほど調子に乗らせてもよくないし、自国文化を破壊するほど国民を自信喪失させても良くない。
外から来るものを受け入れつつ、自国文化を守る。
たとえ無駄な出費と言われようともこのラインを死守する。
そうじゃないと本当に国が滅ぶ。
それはプローンの滅亡からも明らかだ。
プローンは自信のなさから逆方向に触れちゃって滅んだんだからね!
建て直しプランって本当に難しいよね。
「シーユンはどうしたい?」
俺は素直に本人の意思を確認する。
「わかりません……」
「ですよねー」
わかるはずない。
嫁ちゃんだって考えながらうなってるもん。
あれは答え出せないときの嫁ちゃん仕草である。
ワンオーワンが同じ立場だが、銀河帝国内で惑星を所有する話だ。
でもワンオーワンは難易度がずっと低い。
かといって太極国を銀河帝国が植民地化……?
いらない。
大使館作って企業進出するだけで問題ない。
お互い文化交流して商取引して共存を目指すのが理想だ。
というわけで太極国いらない。
シーユンを渡したくない。
太極国を存続させる。
という条件が追加されたわけである。
はっはっは!
もうどうにでもなーれー!
さてそんな話をしたらみんなで移動。
惑星プローンの視察である。
プローンは鬼神国で医療支援保護が終わると、惑星プローンに戻された。
ここでプローンに迷惑してた国を中心に、ラターニアまでも含めて教師や貝類の生態に詳しい学者、メンタルケアの専門家や医師に育児の専門家なんかを派遣。
ラターニアなんかは不倶戴天の敵だろうが、俺たちは絶滅に至った経緯などを説得した。
金返さないから焼き尽くされたという本当にひどい話まで包み隠さずに教えた。
子どもたちのほとんどが納得してないが、これが戦争なのだと受け入れた。
小さな子はこっちかな。
三分の一ほどの年長少年(雌雄同体)はラターニアか銀河帝国か、もしくは鬼神国に原因があると主張。
それは、そう。
俺がもっと上手く立ち回ってたらというのはある。
……むしろ未熟だったため上手く立ち回りすぎたという指摘はさんざんされた。
とにかく反省材料だ。
「恨むなら俺を恨め。強くなったらいつでもかかってこい」
と前に訪問したときに言ったら「そういう問題じゃない!」って怒られた。
しかたないじゃん!!!
俺は脳筋で応じるしかないじゃん!
その中でも本当に少数が「いつかお前らをを皆殺しにしてやる!」と涙ながらに叫んでいた。
根性あるな。
その調子だ。
そのくらいの気合でプローンを立て直してくれ。
今回は何度目かの訪問。
植物性のお菓子を詰め込んで行く。
「大公様~」
年少の子たちは俺を見ると駆け寄ってくる。
すっかり知り合いだ。
年長で神聖プローン帝国時代を知ってるグループは俺を見て逃げていく。
彼らにとって俺は恐怖の対象である。
で、もう一人根性のある最年長の子がやって来た。
「おい! なんでやって来た!」
彼らにとって、俺は親どころか国が滅んだ原因を作った男だ。
だから少年もおしゃべりしたいわけじゃない。
簡潔に答える。
「視察のお仕事」
「そうじゃねえ! なんでお前らは俺らを支援する!? さっさと殺せばいいだろ!」
「プローンが滅んだのは完全に想定外だ。本来の予定では治療法と引き替えに和平するつもりだった。実際、当時の法王にはそう申し入れてた。ラターニアにお金借りて踏み倒そうとしてたり、鬼神国との約定は知らなかった。だけど俺たちが引き金引いたのは事実だ。だから我々には支援する責任がある」
どちらにせよ病気で絶滅寸前だったという話はしない。
完全論破は良くない。逃げ道は残しておく。
これはプローンとの出来事で学んだ教訓だ。
「もう……放っておいてくれよ……」
「病気の問題がある。それが解決するまでは介入する」
「クソ! 俺は絶対に復讐してやる! 海賊になって、お前らを食ってまた強大なプローンを作ってやる!」
「海賊じゃ無理だな。すでに俺たちは海賊ギルドと和解する方向で話が進んでる」
イーエンズ大人の置き土産だ。
他の大老たちを説得してくれたらしい。
あんのじじい!!!
結局勝ち逃げじゃねえか!!!
悔しい!!!
「じゃあ……俺はどうすればいいんだよ!!!」
プローンの子はポロポロ涙を流していた。
「記録を残せ。文化を守れ。国を強くしろ。強くなれ。誇りを持て。もし俺たちが弱ったら首を掻き切れ。俺はいつでも挑戦を受けてやる」
俺はこの子を処分するつもりはない。
ここで厳しくしたっていいことないし悪評が立つ。
……嘘ついた。
冷静な判断ができないくらい同情しちゃってさ。
あーあ、俺ってバカ。
将来の強大な敵作ってやんの。
「お、俺は絶対に負けねえぞ! いつかお前をぶっ殺してやる!」
「楽しみしてる」
本当に俺ってバカだね~。
甘い! 本当に甘すぎる!!!
この情けない姿がこちらの銀河最凶のウォーモンガーと言われてる男の本性である。




