第四百十七話
アタシはバイクに乗る。
宇宙海兵隊かつての十八番、バイクでの都市急襲。
大丈夫、大丈夫。
シミュレーターじゃ死ぬほど練習した。
それにヴェロニカお姉ちゃんの船で行くよりも安全だってルナお姉ちゃんも言ってた。
問題は実際にやるのがはじめてないことくらいだろう。
ヘルメット、ヨシ。
気密性チェック、ヨシ。
バイク、オールグリーン。
前にレオの兄貴とクレアお姉ちゃんはこれで死にかけたって言ってたけど……。
「タチアナー! 行くであります!!!」
ワンオーワンもいる。
私は無敵だ。
暗殺の危険性があるシーユンはあとで来る。
今日、レオの兄貴は太極国帝都惑星を急襲する。
アタシはレオの兄貴が暴れ回ってる間にバイクで侵入。
ワン達の舞台と結界装置を起動する。
アタシたちの護衛はクレアお姉ちゃんとレンお姉ちゃんの部隊が担当する。
ジェスターが一人いればまあ大丈夫だろうって。
ワンオーワンと人型ゾークの人たちも強いから問題なし。
レンお姉ちゃんのところのビースト種は帝国最強とも言われてる。
そんなビースト種の人たちも兄貴と組み手するのだけは嫌がるのだ。
彼らビースト種は鬼神国人ほどじゃないけど喧嘩自慢。
当然、一度は兄貴と戦って鼻っ柱を折られたようだ。
ケチョンケチョンにすらしてくれなかったとのことである。
思いっきり手加減されてたのに勝てるイメージがわかなかったそうだ。
……兄貴って人外レベルで強いみたい。
うん、なんか元気出た!
さて行くぞ!!!
バイクで戦艦から宇宙空間へ走り出す。
防衛システムはすでに沈黙してた。
兄貴たちが暴れ回ってるようだ。
スラスターふかして大気圏突入。
ワンもついてくる。
「にゃはははははははー!!!」
楽しそうだ。
こっちは悲鳴を上げる余裕すらない。
姿勢制御! 姿勢制御! 姿勢制御ぉ!!!
レオの兄貴、クレア姉助けるのにここから地表の海に飛び込んだんだよね!
そんなのどうやったらできるの!!!
化け物かな!!!
「たのしいであります!!!」
もう一人化け物じみた体力のがいる!!!
アタシは自分の身体能力をフルに使って姿勢制御に努めた。
地表が見えてきた。
「げ、減速うううううぅッ!!!」
減速した瞬間、とんでもないGがかかる。
シミュレーターと違いすぎる!!!
スラスター全開!!!
減速! 減速! 減速!!!
地面が近づいてくる。
もう二度とレオの兄貴たちの「簡単だよ~」は信用しねえ!!!
「絶対しかえししてやるううううううううううう!」
減速に成功。
地表にゆっくり降り立った。
もう限界。
「タチアナー! 楽しいでありますね!!! もう一度やりたいであります」
楽しそうなワンを尻目に……ヘルメットを手早く外し。
「うげえええええええええええええええええええッ!!!」
アタシは胃の中のものをぶちまけた。
「タチアナ、はい薬」
「ありがと」
薬を飲んで道ばたでクレア姉を待つ。
数分後にワンの執事さんたちがやってきた。
今は聖女結界を設置してる。
無理。
なにもかも無理。
銀河帝国の士官はみんなコレできるって……頭おかしすぎるだろ!!!
薬飲んだら元気になってきた。
アタシも軍に過剰適応してるような気がする。
さらに数分後、鬼神国とラターニアの「聖女親衛隊」とかいう団体がやって来た。
断じてアタシの部下ではない。
さらに数分、結界装置の設置は完了してた。
さすが量産品。
広げるだけで設置できるようになってる。
杭打ちまで自動だ。
OSも最適化され初期設定も自動。
すべての工程を合計しても30分かからない。
最初の苦労は一体何だったのだろうか?
アタシは非力なうえにレオの兄貴ほど電気もコンピューターにも詳しくないので役に立たない。
つうか、兄貴の頭の中ってどうなってるんだ?
起動前のテスト完了。
「うっす、こちらタチアナ。準備完了ッス」
「すぐ近くにいるから待ってて」
遠くで戦闘してるのが見えた。
太極国の人型戦闘機がビームを撃つ。
だけどクレアお姉ちゃんに当たるはずもない。
シールドで弾かれる。
兄貴みたいなふざけた動きじゃない。
充分納得できるものだ。
だが次からバグが起きる。
クレアお姉ちゃんは太極国の機体に接近。その顔面をつかむと、そのまま握りつぶした。
超近接戦闘型クレアお姉ちゃん専用機。
【光翼の神拳】
関節部の耐久力は全機体中最高レベル。
近接装備?
そんなものは拳のナックルガードだけでも問題ない。
バックハンドブロー、旋回裏拳がもう一機を襲う。
べきんと頭部がもげた。
……嘘でしょ。
「ワン……人型戦闘機ってあんな動きできたっけ?」
「自分はできないであります!!!」
そのまま裏拳の勢いを使ってお姉ちゃんは飛び上がった。
運動性能が高すぎる!!!
そのまま飛び後ろ回し蹴り!!!
違う、プロレスのローリングソバットだ!
蹴られた人型戦闘機がゴロゴロ転がり、お姉ちゃんはシュタッと着地した。
「片付いた。いま行くね」
え?
まだもう一体……。
ドカンと音がして制御を失った機体がゴロゴロ転がっていった。
レンお姉ちゃんのスナイパーだ。
……兄貴の嫁たちって化け物ぞろいじゃね?
メリッサお姉ちゃんとか速すぎて刀が見えないレベルだし。
よく考えたらエディお兄ちゃんも全国大会レベルの剣士。
イソノくんや中島くんだって帝国パイロットランキング上位の猛者だ。
それよりも強いって……兄貴っていったい何者!?
「執事さん……」
ワンの執事さんに声をかける。
「彼女らと戦おうとしてたなんて……肝が冷えますな……。それと……タチアナ嬢、レオ・カミシロ大公閣下の強さは別次元です」
あ、やっぱりそういう評価。
あまりにショッキングな光景を見て吐き気も治まった。
あれをさせようとしてるんだよな……。
考えたら負けだと思う。
結界起動しようっと。
装置のパネルに手をかざす。
力を使う。
すると鉱石がビームを結界に変換していく。
範囲は惑星一つをカバーするほどじゃない。
でも帝都だけなら丸ごと包み込める!
結界が起動した。
「兄貴! 結界起動したよ!!!」
「よし! こっちは宮殿に殴り込む!!! あとはわかってるな!」
「トマスお兄ちゃんの部隊がシーユンを連れてくるまで待機! 合図があったら宮殿に乗り込む!」
「よくできました!!!」
待ってろよシーユン!
おうちを取り戻してやるからな!!!




