第四百十六話
シーユンはすぐに屍食鬼のしわざであることを指摘し、いますぐ太極国軍に虐殺をやめるように訴えた。
同時に自分の元に集うように訴えかけた。
その姿を見てラターニアは支援を約束した。
国として約束したのである。
これ大きい出来事だぞ!
さらに事態はその日の夜に動いた。
ラターニア王が退位を表明したのだ。
俺はよく知らない人だ。
健康状態に問題があったらしい。
なのでこの事態の責任を取る形で退位した。
新しいラターニア王は……。
「銀河帝国皇帝ヴェロニカ殿にご挨拶申し上げます。」
ラターニア人に多い痩身で金色の長髪。見た目30歳くらいの男性だ。
口調は非常に穏やかだ。
未婚らしい。
これが闇金の魔王扱いされてるのが恐ろしい。
向こうの方が年上なんだけど、嫁ちゃんの方が長く元首やってるので上座だそうだ。
他国の文化なのでよくわからん。
よくわからんので素直に言ってラターニアにセッティングしてもらった。
サリアも鬼神国代表として一緒にいる。
俺は嫁ちゃんの婿でありながら家臣であり、一番信頼されてる騎士だ。
嫁ちゃんの横で立つ。
うーん俺たちは見た目がガキの学級会だ。
迫力がない。
しかたないか。
まだ20歳になってないし。
サリアは20歳ちょい。
残念ながらキールティちゃんは欠席。まだ籍入れてないからね。
ただし外で鬼神国警備隊長として働いてる。
サリアはサマになってる。カナシイ。
ラターニアは王制ではあるが国民議会がある。
立法が議会で、法が裁判所、行政が王。
おっと三権分立!
法学の入門書に書いてあったやつ!
銀河帝国は一応、立法は議会、司法は裁判所、諸侯は行政になるんだけど、それを超越した存在が皇帝陛下なんだそうだ。
※ただし妖精さんの介入は無制限に許される。
……結局、法ってルール握ってる人が強いんじゃないの?
ギャンブルの親と同じで。
妖精さんに勝てる部分が見つからない。
けど妖精さんも人間さんがいないとそのうち人格が崩壊する。暇すぎて。
我らは妖精さんの気まぐれと怠惰とオタクコンテンツに守られて生きてる。
さて、そんな状況なので屍食鬼は陰謀論に走った。
というか陰謀論にすがるしかなかった。
シーユンがラターニアの傀儡だと噂を流した。
ラターニアの目的は太極国への復讐だと。
実情知らなければそうなるよね?
大悪人と思われてる闇金国家だし。
でもさー、実情知ってると「ねーわー」なのよ。
だってラターニア人の価値観の中で約束が一番重要なものなのね。
無駄な復讐でラターニア人がまきぞえとか反撃されて死んだら「国が民を守ります」っていう約束守れなくなるもん。
今回の自爆攻撃で国王が退位するレベルの騒ぎになるのだ。
やるわけないじゃん。
リスク高すぎるよ。復讐にそんな価値ないって。
そもそも国は「奴隷時代の復讐を絶対にします」って国民に約束してないもの。
ラターニア憲法にも書いてない。
歴代国王の発言集にもなかった。
つまりラターニア国民は屍食鬼という寄生虫にビビリ散らかしてるが、太極国ごと殺すつもりはないのである。
殺すのは屍食鬼だけ。
俺だって屍食鬼怖いもん! これは当たり前だと思うよ。
さて……さらに言うと、太極国もこれでまずいことになった。
おそらく最大の戦略ミスだろう。
黄龍型は巨大戦艦。乗務員一万人はいたはず。
その乗務員ごと反応炉を爆発させて自爆。
普通に撃墜してもあの威力は出せないから、反応炉をいくつも用意しての周到な作戦だろう。
乗員すべてが屍食鬼ってのは無理がある。
かなりの数が普通の兵士だ。
彼らごと抹殺。
そんなのやったら兵士がついてくるはずないじゃん。
わかりやすいくらいに太極国全土で反乱が始まった。
反乱を起こす大義名分できたもの。
尊皇運動は全土で勃発。
あちこちで正装するシーユンの肖像画のポスターが貼られ、警官や軍人がそれを必死にはがす。
抗議運動は人型戦闘機で発砲されたので地下に潜る。
軍からの離反者が地下組織を束ねて本格的な運動に昇華した。
手作りの銃や刃物で武装し、兵士に近づいて後ろから刺す。
そのまま何事もなかったように離脱。
それが太極国の日常になった。
怖ッ!!!
火炎瓶すら使ってくれなくなった。
将校がうかつに外出できないレベルである。
というわけで新しいラターニア王と会談し、記者会見。
余計なことは言わず、
「ラターニアの友人たちの死を悼みます」
とだけ発言した。
……若い外国人に感動的なスピーチ期待するなよ。
嫁ちゃんはスピーチ原稿用意して感動的なスピーチしてた。
……俺の負けである。
と思ったら、口数の少ない俺も評判よかったらしい。
その後であるがウー将軍はシーユン直属の軍として各地の尊皇軍の説得と共闘のために交渉しまくった。
……あのおっさん……超絶優秀なんじゃね?
そのおかげで太極国の地方軍の約半分が尊皇軍の参加に入った。
タチアナは尊皇軍の領地に結界を設置しまくる。
シーユンは結界の設置記念で挨拶しまくって地方の領主を味方につけた。
嫁ちゃんの入れ知恵である。
ワンオーワンもゾークの女王として各種イベントに参加。
サリアも参加して友好アピールの日々である。(前大王は逃亡)
各種族のトップのはずなのに……その実態はドブ板営業である。
でも戦況は予定通りだった。
屍食鬼のせいで各惑星が禁軍への協力を拒否。
補給すらできない状態になっている。
さらに太極国の三分の一ほどを我々が占領したころには脱走兵が一気に増えた。
自爆特攻なんかさせられたくないよね。
いまさら屍食鬼は銀河帝国の捕虜になると拷問されて殺されるなんて嘘を流しはじめた。
もう誰も信じない。
だって虐殺したの屍食鬼だもの。
ラターニアの中継でみんな知ってるもの。
もう誰も禁軍に協力なんかしない。
こうして屍食鬼による乗っ取り後の太極国は崩壊していったのである。
これどうすんのよ?
それをかわいそうだけど食堂で直接シーユンに聞いてみる。
シーユンは考えてる。
あ、シーユンさん。果物食べます?
リンゴむきむき。
おっと干し柿まだあったな。
ワンオーワン……期待した目で見な……わかった! あげるから待って!!!
タチアナはみんなと同じでいい? うっす了解。
「レオ様……なにかおかしいです」
「なにが?」
「正妃様にしてはずさんかと」
「うん?」
「自爆作戦も、禁軍への協力拒否も、抗議運動への弾圧も……正妃様ならもっとうまくやるはず」
「屍食鬼に監禁されてるとか?」
「ラオ将軍がいるのでそれはさすがに……まるでわざとやっているような……」
シーユンは考え込んでる。
どういうことぉ!?
こういうときは嫁ちゃんと妖精さんに連絡!
もうわからないよぉ!




