第四百十五話
聖女タチアナによる結界装置の起動セレモニーが終わって数日。
結界装置はさらに改良が進む。
っていうかそもそもの原理がわからないので京子ちゃんの講義をいつメンと受ける。
「つまりラターニアや太極国で産出される未知の鉱物に超能力の刺激を加えるとエネルギーを吸収して屍食鬼の嫌がる別の粒子を放出するということです」
うむ、わからん!!!
「京子ちゃん! よくわからないなにかが放出されるってこと? それ危なくない?」
イソノが聞いた。
こういうとき遠慮がないイソノや中島は有能である。
「わかりません」
「え?」
「だからわかりません。現地の動物を使った実験では体を素通りして問題ありませんでした」
「でも屍食鬼は?」
「細胞が破壊されます」
お、おう。怖いよね?
「実際こういった装置は昔からありますので。X線とかが代表でしょうか? おいおい鉱石については研究が進むでしょう。准将、帝国大学の研究者の受け入れ許可をお願いします」
京子ちゃんは工学の専門家で仕組みはわかったが、粒子とか物理の細かい話はわからない。
研究が細分化しすぎなんだよ!!!
というわけで研究者招致決定、若手も論文コンテストで拾い上げる。
さらには民間の研究者も欲しい。
いや企業で研究してる人の方が能力高くて高度な研究してる場合も多いのよ。
特に工業分野!
なので商社に泣きついてピックアップしてもらう。
商社には「新卒の若手をたくさんお願いします」と伝える。
文系理系関係なし。
もうね、わけわからん文明の分析官やら、弁護士やら、文化の理解やら……とにかく人が足りない。
高度人材が足りなすぎる!!!
あとみんなに秘書官つけないとそろそろ過労で倒れるものが出る。
どうしてもね、博士の就職先を確保するの難しいのよ。
だから慢性的に足りないところに突っ込む。
あと女性陣は女官さんが必要だし、野郎どもは外宇宙の業務サポートしてくれる執事さんも必要だ。
だからこうやって外宇宙にまで来てくれる人材を募集しまくる。
院生には「実質的にあんたらの部下だから」と伝えておく。
我がカミシロ本家だけでも最低で100人くらい必要だ。
え……嫁ちゃん……千人欲しいの?
護衛兼ねた侍女、シーユンとワンオーワンとタチアナの世話もさせる? あ、はい。
留学気分でおいで!!!
お願いだから!!!
今なら爵位もあげちゃう!!!
安定収入の公務員になりたければ軍のポストもあいてるよ!!!
……と募集をかけたらあっと言う間に定員に。
泣きついた商社さんが気を利かせてくれた。
なんと弁護士と芸能事務所が来た!!!
タチアナやワンオーワン、それにシーユンのマネジメントしてくれるって。
ラターニアの洗礼……じゃなくて研修を受けさせて根性を叩き直す……じゃなくてこちらのやり方を覚えてもらう。
だって一度痛い目見ないとわからない子たちなんだもん!!!
弁護士さんはラターニア文化に触れたら相手のヤバさを即座に理解してくれた。
えっと週一でいいんで弁護士事務所でバイトさせてもらえないか……あ、ダメッスか。はい。
あ、週六でも全然大丈夫……そういう問題じゃねえ? あ、はい。
哀れんだ弁護士さんが法学と憲法の入門書と判例集くれた。
彼らはラターニア側と鬼神国側、それにプローンのところに配置した。
そして結界装置はタチアナにしか起動できないという致命的な弱点はあれど、ラターニアや鬼神国にも設置された。
タチアナも大忙しである。
女官さんも分単位のスケジュールで走り回ってる。
あ、本当だ千人必要だわ。
侍従さんも大量増員。
俺も屋台で焼きそば焼いてる暇すらなくなった。
ほぼ毎晩、嫁ちゃんとタチアナやワンオーワン、それにシーユン連れて夜会に出席。
各国のお偉いさんにご挨拶。
現地の領主に、ラターニア外交官に、サリアに……。
これまでで一番疲れる日々である。
シーユンとワンオーワンが美味しい食事よりも俺の手作り料理を欲し、タチアナがアイドル風衣装に文句を言う気力をなくしたあたりで事件は起こった。
「隊長の作ってくれたナポリタンが食べたいであります……」
ワンオーワンがつぶやいた。
「レオ様の作ってくれたオムライス食べたい……」
シーユンも弱ってる。
「あたしはなんでもいいっす……兄貴! タマネギとピーマン少なめで!!!」
一番傍若無人なのはタチアナだと思う。
はーい、ナポリタンとオムライスね。
はいはい。
あ、餃子の余りもあるじゃん。
油で揚げちゃお。
必殺、食堂につけ合わせでよくある謎揚げ物の術!
あ、冷凍のシューマイの残りもある。
これも揚げようっと。
なんてご飯作ってたの。
夜会なんてまともにメシ食えないもん。
葬式とかと同じ。
腹ぺこキッズにはつらいのよ。
おかん気分でメシ作ってたら警報が鳴った。
あん? またかよ。
「ラターニア国境に黄龍型戦艦が接近。中継映します」
月額払いしてるラターニア国営放送の映像が流れる。
ラターニア国営放送は番組はつまらないけど報道は正確だ。
というか現地の映像流して解説入れてるだけだ。
余計なことしてなからヘイト買ってないけど、つまらないと認識されてる。
おそらく戦争の映像より、バトルドームでやってるアニメチャンネルの○休さんの方が視聴率高いだろう。
今回はラターニア側も人型戦闘機で戦う。
常識的な方のシミュレーターも売ったし。
頭おかしい方のシミュレーターはさらにナイトメアなものを開発中である。
楽しみ~。
そんなわけでラターニアも今回は負けてない。
いつものミサイル戦術に人型戦闘機による支援を加えた新戦術で挑む。
だから俺たちも安心して見られる。
「はーい、お待ち~」
ナポリタンとオムライスである。
炭水化物過剰であるが一日くらい許されるだろう。
でもこのとき……俺たちは屍食鬼がなに考えてるかなんて知らなかったのだ。
絶滅を目前にした知的生命体がなにするかなんて。
「黄龍型! 巨大なエネルギー反応!!!」
妖精さんが声をあげた。
は?
なんかこれ……既視感あるぞ。
ゾークだ!!!
「妖精さん! ラターニアに連絡!!! 自爆するぞ!!!」
「送信しました!!!」
間に合ってくれと祈ったが……遅かった。
画面が暗くなった。
その日、太極国の惑星、人が住んでる農業惑星が一つ。
ラターニア人が住んでる星一つ、そしてラターニア艦隊と無数の命が消えた。




