第四百十三話
いきなり帝都強襲するわけにはいかない。
なのでコツコツ太極国を解放していく。
この頃は解放作戦がだいぶ楽になった。
俺たちが侵略者ではなく屍食鬼退治を目的にしてることが知られてきたのだ。
ラターニアは当初、闇金にはめて太極国人を地獄に落とすつもりだったようだ。
別に悪意はない。そういう文化なのだ。
ラターニア人は、奴隷として雑に扱われた期間が長すぎた。
さらには過度な全体主義でその辺の加減がわからないのだ。
なので俺たちは金ベースのお話をする。
「あんまり太極国追い込んだら徳政令出されたあげく全面戦争になって大損ッスよ」と。
損か得かの話をベースにするとラターニア人にはわかりやすいようだ。
「じゃあどうすんのよ?」
こういう話になる。
「太極国は大国なんだから、解放して交易してとにかく経済を回すの。銀行作って、企業に融資して、建築会社や貿易会社進出して。そうすればもっと儲かるでしょ」
そういうときはこう提案する。
雑な話ではなく数字ベースで。
帝国のゾーク戦争での復興データなんかを提出して信憑性を持たせる。
実際、解放した惑星の行政府から宇宙港工事をラターニアに受注させる。
この辺で空気が変わってきた。
経済植民地でもいいんだけど、支配なんかしないでもいいでしょと。
どうせ太極国の一部の上流階級や既得権益が没落するのは確定してるのだから。
支配なんかする必要はない。
ラターニア人労働者の食い扶持を稼いで、経済的に結びつけばいい。
それでも戦争は起こるが、戦争が損だと考えるように仕向ければいい。
そこはプロパガンダの見せ所である。
道路作ってビル建てて、役人にある程度金握らせて、阻止敵全体が腐敗しないように気をつけながら友好国感を出しておく。
数十年後数百年後に殺し合う運命だとしても表面上は友好的に振る舞っておく。
どうせ太極国は現在空位の皇帝の就任により、屍食鬼の被害を受けた被害者になるのだ。
そこを奴隷にしたら恨まれるし評判が悪くなる。
評判が悪すぎて滅んだプローンの判断ミスを踏襲する必要はない。
太極国と殺し合うのは今じゃない。
ラターニアは紳士的に接する。
そっちの方が得だよと説得した。
俺たちは太極国に関しては利害関係者じゃない。
だからラターニアも大人しく提案を受け入れた。
そしたら鬼人国はじめとした各国で「狂犬を飼い慣らした頭おかしい勢力」という評判を得た。
いや、ラターニアはまだ話できる方だと思うけどね。
鬼神国だとこの話し合いの最中に「よしわかった! どちらが正しいか力比べしよう!」って言いだしてカトリ先生か俺が担当者とバトルする必要があるのだ。
俺からすれば鬼神国の方がよっぽど意味わかんないからね!!!
というわけで例の試作品を持っていく。
遺跡のない惑星だ。
ここで試したらラターニア側の惑星や鬼神国でも運用する予定だ。
屍食鬼は絶滅だー!!!
「……にしても。原理はわからないけど再現できたって怖いよね?」
地表に降り立った俺は腰が引けてた。
だって怖いじゃん。
するとタチアナは涼しい顔してる。
「しかたねえっすよ。アタシなんて造形プリンターすら仕組み知らねえッスよ」
「あれは難しいからなあ……」
還元炉もわからんだろうな。
そういや、つい最近までゾークの殻やスペースデブリや隕石とかから物質作って人型戦闘機の修理してたな。
ついでに出てくる余剰物質で肥料作ったりしてた。
懐かしいわ……。
今も惑星プローンの岩とか土壌から物資作ってるけどね~。
ま、難しい話はこれまでにして任務だ。
「装置設置するか」
「ッス」
体育会系の返事である。
気合は入ってるらしい。
まずはテントの設置。
物資と置いたら作業である。
兵に指示を出しながら装置を設置する。
折りたたみの台を広げて、足の穴にアンカーを打つ。
台風とか竜巻来たら倒れそうだな……。
本当は地下深くまで杭を入れて強靱な建物作りたいけどここは我慢。
まだ試作品なのである。
そしたら聖女結界装置の本体を土台に入れる。
そしたら結界発生装置と繋ぐ。
外部電源も繋ぐ。
そしたら通信用アンテナを繋げて……ってこれすげえ手作り感あるな。
コンピューターを繋げて初期化。
帝国軍用OSが立ち上がる。
コンピューターを帝国のネットワークに繋げてライブラリをダウンロードしてコンパイルっと。
アップデートが終わって再起動。
うむコンソールからアプリを起動すれば……と思ったらアップデートが始まった。
日付見たら俺が出撃する直前だ。
うーん、この突貫工事感よ。
「タチアナ、まだ一時間くらいかかるから休憩してていいぞ」
俺って工兵だったっけ?
というのは気にしたら負けだろう。
「うっす」
「そっちのテントにお菓子とお茶あるから食べてろ」
「兄貴は?」
「今日の俺は工兵」
レイブンくんたちは工兵の訓練課程受講してないから悔しそうな顔してる。
いいのいいの。護衛なんだから。
重機が動いていた。
工兵によってベースキャンプにフェンスが設置された。
実験は半日で終わる予定なんだけど、襲撃あるかもしれないもんね。
俺は折りたたみ椅子に座ってコンソールを見つめてた。
ダウンロードが完了してOSを書き換えてる。
よっし完了。
再起動して診断プログラムを走らせる。
全ファイルのチェック完了。
さーて、開始するか。
「タチアナおいで~」
「ッス」
タチアナがやって来る。
「パネルに手を置いて」
「ッス」
タチアナがパネルを触ると聖女システムが起動した。
バチバチ音がする。
爆発しそうな気がしてかなり怖い。
本体が激しく揺れる。
「ちょ、本体温度上昇!」
なんだこりゃ!
振動を抑えないと!
コンソールから……。
余計なことをする前でよかった。
次の瞬間、光の柱が立ったのだ。
タチアナと俺は突風に飛ばされてゴロゴロ転がった。
無事なのは戦闘服のおかげだろう。
「た、タチアナ無事か!?」
「ぶ、無事ッス!!!」
クレアから通信が入る。
「聖女システム起動確認! 成功しました!」
「装置がもの凄い勢いで揺れてる!!! 改善を要求する!!!」
倒れるなよ!
ほんとやめて!!!
「と、殿!!!」
するとレイブンくんが人型重機でやってきた。
人型重機のアームで挟んで固定。
ようやく安定した。
「ふへええええええええええ。レイブンくんナイスぅ!!!」
「と、殿! 気をたしかに!!!」
「い、いや、大丈夫だから。タチアナはどうよ」
「力吸われて動けねえッス」
こうして俺たちは新しい装置で惑星を解放したのだった。
……技術開発部へ。
改良求む。




