第四百十一話
まず戦略シミュレーター問題について調査結果が上がってきた。
歴史を再現して敵が動くものだったようだ。
ただ八百長がバレちゃうとまずいので、歴史的に正確なヘロヘロ指揮じゃないと敵AIが全力で殺しにかかる仕様だったようだ。
勝てねえわそんなの!
そもそもがイソノ家や中島家が悪いのではなく、公爵会のどこぞの家が悪かったようだ。
というわけで嫁ちゃん&マザーAIはシミュレーターの全データの検証を指示。
やったね! これで院生の仕事が増えるよ!
ここから優秀な戦略士官がバカスカ生まれるはずである。
そしてもう一つの懸念である。
俺はシーユンを太極国に返すのが怖くなってきた。
毒殺してくる正妃とかヤバいだろ。
嫁ちゃんも法律家や政治学者と会議を開きながら裏技探しに奔走してる。
一方俺は、そろそろ腹を割ってお兄ちゃんと話するときがきたのでは思った。
フィンお兄ちゃんを探す。
だいたいシーユンの側にいるだろう。
やっぱり食堂にいた。いつメンもいる。
シーユンの側に行くとリャンさんたち護衛とフィンお兄ちゃんがいた。シーユンもくる。
フィンお兄ちゃんは培養して作った眼球の移植手術が成功。
まだ眼帯だけどね。
三日後に見る訓練する予定。
かなりまぶしくてつらいと思う。
目が見えるようになったら今度は皮膚移植。
皮膚の移植の時に耳の再建手術もする。
しばらくつらいと思う。
これが普通だ。
いや、太極国やラターニア、鬼神国あたりの基準だと高度な医療技術に入る。
帝国の軍用ナノマシンがおかしいだけである。
「レオ閣下、なにかご用ですか?」
「うんシーユンのことなんだけど……」
「できれば屍食鬼問題の解決までは保護していただきたいと……」
こりゃ帰されると思ってるな。
「いま帰さなくていい方法を検討してるんだけどさ~。それより毒殺についてどう思う?」
シーユンは困ってる。
それをお兄ちゃんが説明してくれる。
「我が家でシーユン様をお預かりしたのもそれが原因でございます」
「納得した。おそらくさ、ラオ将軍の息のかかった人材がお兄ちゃんの部下にいると思うんだよね」
「な!」
「はいそこ、驚かない。さらに言うと探さなくていいから。いま暗殺に動いてないってことはラオ将軍も正妃もシーユンを殺す気ないんでしょ? 少なくとも今は」
「そ、そうですね……もはや直系はシーユン様しかおりません」
傍系はたくさん保護してるしね。
正妃側は屍食鬼に乗っ取られた偽物しかしないわけ。
「じゃ、シーユンの子どもができるまでは安心ってことか」
いくら正妃だからって自分が女帝になるのは難しい。
シーユンを全力で守らなきゃいけない形だ。
シーユンに子どもができたらその子を強奪。
その後にシーユンを殺害して摂政におさまるルートくらいか?
いや皇帝の義祖母のまま権力握った方が楽か。
「正妃、いま殺しておいた方がよくない?」
シーユンの治める太極国の邪魔にしかならんぞ。
「その場合、ラオ将軍が敵になるかと」
さー難しくなってまいりました。
「どうしろっていうのよ!」
「それを考えるのがお前の役目じゃねえの?」
イソノが無責任に言った。
「あの……イソノ先輩。なぜレオ様が考えるのですか?」
シーユンがおずおず聞いた。
先輩って単語が出てくるところで帝国式になじんできたなって思う。
するとイソノの野郎、当たり前って顔で言いやがった。
「こいつさ、たしかに部隊を率いる戦術級シミュレーターは苦手なんだよ。クラスでも真ん中くらいか?」
「おう、苦手だ」
脳筋に頭脳労働を求める方が悪い。
ギルティーだ。
「ところがさ、戦略級シミュレーターだと化け物なんよ。軍師とか指導者ポジションで自由にさせるじゃん。そうするとすぐ千日手とかこう着状態に持ち込んで、外交と貿易で揺さぶってリソース削ってくるの。リソースを削られてることすらわからないくらい巧妙にな。それでどんどん政治的な選択肢を潰していくんだわ。で、ある日気がついたら雪崩みたいにこいつの軍が大量にやってきて終わりってわけ」
お兄ちゃんが俺を見る。
化け物を見るような表情やめて。
「だから士官学校同期の中でも主席なわけよ。戦術の教官もどう扱っていいかわからなかったみたいだしな。そもそもレオはパイロット適性が高くなければ戦略分析官のコース行きだったと思うぞ。戦略分析課で扱えきれるとは思えねえけど。敵はみんな破滅したし。だから考えるのはこいつの仕事」
「で、出会ったら終わりなタイプの怪異じゃないですか!」
失礼な!
「そう。味方でよかったよな。プローン滅ぼしたのも屍食鬼追い込んでるのも、みんなジェスター能力のおかげだって思われてるけどさ。俺はレオの素の能力だと思うぜ」
中島の野郎も同意する。
「だよね。レオを敵に回した国とか同情しちゃうよね……本気で……」
クレアまでも。
「ほら……レオってゾークの最初の襲撃でもさ……国民あおりまくってたし、弱点までみんなに知らせちゃったじゃない。あれゾークの立場だとかなり痛かったと思うよ。ゾークはレオを最初に殺すか内部で失脚させてから戦うしかなかったって戦略分析課が結論出してたよね……」
クレアにまで見捨てられた俺にさらなる試練が!
メリッサとレンまで裏切る。
「あはははは! 出会ったら終わりなタイプの怪異は傑作だよねー! 隊長ってほら、使い方間違えると自分たちまで滅ぶタイプの毒だよね」
ひどい!
レン、たしゅけてー!!!
「旦那様は周囲に死と毒をまき散らすタイプの……言わばたたり神的な存在ですね」
一番酷いのきた!!!
「……つまり銀河帝国皇帝はその身をもってたたり神と共生してると」
お兄ちゃん……その発言、心の復讐手帳に書いていい?
最後に嫁ちゃんがとどめを刺した。
「婿殿をコントロールできてる妾に感謝するのじゃぞ」
なんてアホなやりとりをして自分の部屋に。
嫁ちゃんと寝てると通信が入る。
知らん相手だ。
もう相手はわかってるんだけどね。
「どうもラオ将軍。はじめまして」
屍食鬼に寄生されてなさそうだ。
太極国の最後の良心かもね。
「大公殿……。どうか太極国をお救いください」
たたり神のお仕事は夜はじまるのさーっと。
売国奴?
俺が嫁ちゃんを裏切るわけないじゃないですかー。(国はどうでもいい)




