第四百十話
イソノ&中島がやって来る。
カトリ先生と稽古したのかボコボコにされたようだ。
道着が破れてる。
なおイソノは腰に縄つけられて手綱をハナザワさんが持ってた。
中島は普通に首輪だ。もちろん婚約者が手綱をしっかり持ってる。
当初はひでえなと少し引いたけど、みんなそういうプレイなのだと理解して放置してる。
幸せそうなのでヨシ!!!
「おう、どうしたよ?」
傷だらけに見えるけどケガはギャグ補正とナノマシンですぐに治る。
次の日の残らない程度の半殺しが上手なんだよね……カトリ先生って……。
俺相手だと「お前に手加減なんてできるかボケ!」って言い張って全力で殺しに来るけどね。
准将の扱いが酷すぎる件。
「いやさー、この問題が解けないんよ」
シミュレーションのリンクを送る。
「あん? ああ、これか。中島頼むわ」
「イソノー。クレアちゃんが解けない問題が俺にできるはずが……ってこれか」
なんだ?
なんか空気が違う。
「これなー、模範解答が間違ってるだろ?」
「お、おう、なんでわかった?」
「中島、説明頼むわ。いや……解いた方が速いか」
そういうと中島がサクサクシミュレーションを進める。
なぜか中島は自信満々でカスみたいな操船をした。
するとなぜか敵AIが非論理的な動きをはじめ、船を避けはじめる。
「なんじゃこりゃ!」
「これな、中島家と我がイソノ家がかつての内戦で勝ったデータなんだわ」
「なんでこの動きになるの!?」
明らかに操船に慣れてない動き……というかわざとやられに行ってる。
「そうですよ! 意味わからないです!!!」
妖精さんも納得できないようだ。
「トリックの謎解きしてやる。このときな、俺たちの家も攻め込んできた連中も戦いたくなかったんだ。それで口裏合わせて戦闘やった風にしたんだ。皇帝派だった俺たちの先祖が駆逐艦攻撃して戦闘不能にするカタチで決着つけたってわけ。マジメに戦ったらこの戦力差だ。勝てるわけねえだろ! それでイソノ家と中島家は大勝利で当時の皇帝陛下にお褒めいただいた。相手の貴族たちも税の上乗せで許されたわけよ。めでたしめでたし」
最低の理由だった。
「なんで戦いたくなかったんですか?」
妖精さんはごもっともな疑問を口にした。
「そんなもん、クーデター起こしたはいいけど帝都陥落できなかったからだ。もう負け確定だったんだよ。相手勢力も損切りするしかねえだろ。うちも中島のとこも茶番につき合わなきゃ滅ぼされるとこだったし」
待てよ……。
「妖精さん、ラオ将軍の動きをデータ化して」
「なにか思いついたんですか?」
データを見る。
「やっぱり……ラターニアとはバチバチに戦ってるけど帝国や鬼神国相手だと消極的だ。えっとシーユン!」
「お、なんか思いついたな。呼んでくる!」
イソノがシーユンを呼んでくる。
割烹着というか当番用の作業服姿のシーユンが来た。
お兄ちゃんも作業服で手伝ってる。
にらむなって。
これもいい経験だろ?
うちじゃ嫁ちゃんだって掃除当番くらいするんだから。
「ラオ将軍さ、ラターニアは本気で潰すつもりみたいなんだけどさ。俺たちとか鬼神国とは戦いたくないみたいなんだよね? なにか心あたりある?」
「あ、そうか!」
シーユンはなにか思いついたらしい。
「えっと……兄上、ラオは先のラターニアとの戦に従軍してませんか?」
「はい。もう何十年も前ですがラオ将軍はラターニアとの戦で捕虜になったことがございます」
個人的恨み?
いや違うか……。
ラターニアは我々と相性がいいだけで、ウルトラめんどうくさい気性をしてる。
約束ベースで物事を考え、過去の恩も恨みも決して忘れず、執念深く、必ず復讐する。
そのくせ盤外戦術に秀でてて、平気で愛人送り込んでくるし夜這いもする。
自分も含めて駒にすることをいとわず共同体の幸福のために個人が身を捧げる。
その代わり国家は遺体にすら身代金を払うし、他人であっても死を悼む。
はっきり言って幸福な全体主義である。
しかも自分たちがおかしい事を理解してない。
あれを理解しろって方が難しい。
鬼神国みたいに家単位で「敵討ちは武神の誉れなり!」って方がカラッとしててつき合いやすいと思う。
あっちはあっちで陽キャだけど強さだけが評価されるヤンキー社会なのではあるが……。
太極国は国家体制が異様に古いだけで普通の国っていえば普通の国なのか……。
文化の違いって難しいよね。
他国から見たら俺たちの方が頭おかしいんだろうし。
一番まともなのがバトルドームだもんな。あれは国家じゃなくて広域商業組合だけど。
でも見えてきた。
おそらくラオ将軍は……というか太極国の多くの人はラターニアを潜在的な敵だと認識してるのだ。
隣国だから当たり前っていえば当たり前なんだけど。
つまりそれ故にラターニアは受け入れられないのだ。
俺たちは様子見……いや話が通じると考えてると思う。
だって皇帝を人質扱いしないでちゃんと教育してるし。
おそらくシーユンのお兄ちゃんとその部下の中にラオ将軍に情報流してるのがいると思う。
いないわけありませんよねー!!!
味方寄りのスパイかな。放置しとこ。こういうのはいじらない方がいい。
つまりラオ将軍はシーユンの臣下であって屍食鬼に仕えてるわけじゃない。
確定じゃないけど可能性は高い。
家族……もしくは同じくらい大事な誰かが人質に取られてる可能性があるな。
「ラオ将軍が人質にされたら逆らえない人って誰だと思う?」
「……皇后様! ラオ将軍が人質にされた後に護衛として仕えてたはずです!」
えっと……皇后って……。
「シーユンの……」
「兄の母です」
なるほど。
難しいな。
「えーっと……仲はどうなの?」
その後宮ものにありがちな我が子を皇帝にするために邪魔するものは皆殺し的な……。
「昔は私を毒殺しようとしたことがあったようですが……」
「ごめん」
「あ、いえ! よくあることですから!!!」
よくあることなのぉ!!!
なんか面倒なことになってきたぞ!
どうする俺!




