第四十一話
士官学校の生徒の多くは帝都惑星出身だ。
というか地方領主出身者は少ない。
そりゃね、まともな貴族なら自前で学校持ってて領民はそこに通う。
領主の子どもだけ中央の学校に通わせればいい。
それに帝都の学校はどこも難しい。
士官学校もサム兄が落ちるくらいには難しい。
軍隊なのでそんなに人気はないが倍率3倍は確保している。
卒業して3年軍で働けば各種資格と帝都の市民権がもらえるので俺はおいしいと思う。
なお長兄は帝都の進学校だけど一番難しい国立帝都アカデミーに合格者出せないくらいのレベルの高校から私大を経て、国立帝都アカデミーの大学院生である。
サム兄は士官学校落ちて、しかたなく二年制の地元の農業大学校を卒業。
今は限りなくニートに近い領主側近見習いである。
俺が侯爵になった今、仕事はサム兄に投げてきた。
サム兄はあれでも助けてくれる人が多いのでどうにかなるだろう。
……兄二人と比べて親に金出してもらってないし、むしろ士官学校から給料もらってる俺って偉くない?
孝行息子じゃん!!!
で、そんな事情もあって地方惑星出身者よりも帝都出身が多い。
階級は平民も多いが、領地なしの貴族も多い。
とはいえ爵位持ちはアホみたいに多いので平民との違いは家が一軒家かマンションかの違いくらいだろう。
そんな帝都の現状だが、現在ゾークの攻撃を受けて拮抗状態らしい。
たしか原作ではここから一年くらい粘るはずだ。
粘って皇帝が殺されて帝都は死の星へ。
それは避けたい。
あ、皇帝は見殺しにしてって。嫁が。
母親や姉ちゃんだけを救えばいいって。
俺も気を付けよう。
で、帝都の前に重要な任務がある。
主人公さがしだ。
搬入作業の合間に小型輸送機で植民地惑星へ。
免許はちゃんと持ってるぞ!!!
なぜか嫁とクレア、それにメリッサにレンまでついてきた。
「ここに誰がいるって?」
クレアに聞かれた。
「わからない。でも実家の文書によるとジェスターがここに住んでたらしい」
文書は俺が捏造した。
後悔してない。
「ほう、それで婿殿はどうするつもりなのじゃ」
「うん。ジェスターの子孫がいたら勧誘するよ。俺一人じゃ手が足りないじゃん」
「うむ……なんか釈然とせぬが婿殿が毎回死にかけてるの見ると説得力はあるのう」
この惑星もゾークの攻撃を受けていた。
でも、ここを攻めたのは最初にエンカウントしたゾークよりも弱い最序盤の敵だ。
アサルトライフルだけでも大丈夫だ。
惑星は植民地星。
開拓星より下のランクに位置されてる。
過去反乱を起こしたり、流刑地だったり、そもそも価値がなかったりした惑星だ。
そういう惑星はわざと文明レベルを落として管理される。
たしかここは中世くらいの文明レベルだ。
王が治めている。
俺たちは神の御使いという設定だ。
王は通信機を持っているのであらかじめ連絡して上陸。
もうなにも問題なくスムーズに着陸できる。
対空砲がない惑星に着陸するのって本当に素晴らしいね!!!
降りるとすでに馬車が迎えに来ていた。
「ようこそおいでくださいました! 御使い様! 歓迎いたします!!! 私は大臣のメゴスです」
オーバーアクションで出迎えたのはトランプの王様みたいな顔の大臣だった。
「出迎えご苦労。用件はわかっていますね?」
偉そうにレンが言った。
こういう惑星の人に偉そうにするのは不適切だ。
だけどこれには理由がある。
こちらが偉そうにしてないと向こうも困ってしまうのだ。
数百年単位で上位存在として崇めてきた存在の正体を知っていても今さら改めろっていうのも難しいのだ。
だから偉そうにする。
公爵家は舐めプの悪癖はあるが我が実家よりは優秀だ。
食料その他の支援は常にしている。
持ちつ持たれつというよりは植民地惑星の方がやや有利な関係である。
この惑星金がかかるだけで利益をもたらさないからな……。
「ええ、先日の魔物の襲来で活躍した人材ですね」
「その前に被害はどうでした?」
「おかげさまで神器による攻撃で被害は最小限に食い止められました。どう御礼を申し上げていいか……」
「礼はいりません」
レンが嫌な顔をした。
それもそのはずだ。
俺の報告を聞いた公爵はこの惑星で実弾兵器の実験をした。
ここに兵器をばら撒いてゾークと戦わせたのだ。
成績が良ければ自分の所でも使うつもりだったのだろう。
クズはクズなんだけど……頭ごなしに否定はできない。
そういう貴族は多いと思う。
どこを犠牲にするかは難しい問題なのである。
俺は株の損切りすらできそうにない。
なのでこの手の惑星は持たないようにしたい。
「その中で大きな功績を挙げたものがいますね?」
「はい。宮殿に呼んでおります」
「ご苦労でした」
「あ、あの……どうなさるので?」
「我らの同胞にし、ゾークとの戦いに参加してもらいます」
「やつらを御使いに!?」
「我らはそのために来ました」
へー、複数いるのかー。
それは俺が楽だ。
ここの住民は剣で戦うので、俺より強いはずだ。
もう俺は死にかけなくてもいいんだ!!!
トロトロ走る馬車で宮殿へ。
宮殿に入る。
すると王様と若い男女7人がいた。
俺はその一人の前に立つ。
主人公だ。
「天に来る覚悟はあるか?」
俺はただそれだけ言った。
「もちろんだ!」
はい採用。
でもごめんね。
君はこれから戦闘じゃなくてねちっこく士官学校の全課程をやらせるから。
クレアとレン、それに嫁は額に手を置いてる。
「それとそこの君」
「あ、はい」
銀髪の女子がいる。
肩くらいの髪で元気そうな女の子だ。
ヒロインの一人じゃない。
原作では殺されていたはずの主人公の幼馴染みだ。
「ジェスターだ」
俺は満面の笑みで言った。
「二人目のジェスターか!!! でかした!!!」
嫁は興奮した様子だった。
会ってみたら、なぜかわかった。
そういうことか!
ジェスターは冒頭で死んでいたはずだったのか!!!




