第四百八話
さーて、その後の話をしよう。
科学的にエディの無実は証明された。
パンツやジャージの内側から相手女性のDNAが検出されなかったのである。
個室のシャワールームからも指紋もDNAも検出されなかった。
朝っぱらからたたき起こされて野郎のパンツや衣服の鑑定をさせられた技官の気持ちを考えるといたたまれない。
さらにエディの全身に特殊な接着剤を散布。
皮膚表面の指紋を採取。
股間の毛を犠牲にして指紋がないことが証明された。
エディはもともと短かった髪の毛がさらに短くなった。
反省で坊主頭にしたわけではない。
毛先に付いた接着剤が落ちずに刈ることになったのだ。
なお、股間はつるつるである。哀れ。
さらに言うと、エディは睡眠薬を盛られてたことが判明。
合法的なもので夜間の服用だったため、軍用ナノマシンは反応せず。
ただログはデータベースに記録されてた。
もともとアルコール検知用なんだけどね。
いやみんなエディのこと信じてるのよ。
だけど執拗に調べないとなに言われるかわからないじゃん。
このしょうもないデータを根拠に嫁ちゃんと俺の連名でラターニアに抗議。
するとラターニア軍の大将と外務大臣が平謝りしてきた。
分厚い書類で言い逃れできないようにしたのが功を奏したのだと思う。
「いや……そのですね。軍部と外務省の暴走でして……。ゾークはワンオーワン殿が、鬼神国はシャル殿が、太極国はシーユン殿が【強い繋がり】をお持ちですのでどうしても【強い繋がり】が欲しかったようで……」
「言っとくけど全員俺の女じゃないからね」
「またまた~。レオ・カミシロ殿と言えば豪傑にして大の女好きとの話はもはや常識」
俺か?
俺が原因か?
「また我らの……その夜の店の利用データから銀河帝国人は色を好むと判断いたしまして……」
データ取られてやんの!!!
あのバカどもめ!!!
「それはたいへん申し訳なく……」
「いえいえ、現金一括払いでマナーもよくたいへん評判はよろしいと聞いております」
思いっきり恥をかいたところで女性を送り返すことが決定。
追加は若い兄ちゃんである。
アホなトラブルを処理した俺は疲れ果てて食堂で突っ伏してた。
嫁ちゃんも疲れてる。
いっそのこと夜のお店使用禁止にしようかと思ったけど、それはそれで不満がたまる。
女性隊員の一部も通ってるお店あるしね。
そっちに関してはラターニアでも結婚詐欺や過度な色恋営業は違法で助かった。
つってもなあ、そりゃねえ、もう工作員入り込んでるんだわー。
わかってるだけで10数人がラターニア工作員と交際中だ。
一般のラターニア人との交際まで含めると100人ほどにも及ぶ。
これは防げないよね。
一応、個別に呼び出してラターニア文化の講習受けさせてる。
捨てようとしたら銀河の果て……いや外宇宙だろうが追ってくるぞと。
男でも女でもね。
工作員とつき合ってる連中は常時監視。
なお監視チームを率いるのは通称モブ子さんことリコ・サカガキ少佐である。
今回のエディのトラブルでも無実の証明に尽力した。
サカガキ大尉は当初、ケビンの副長をやっていたが異様に高いコミュニケーション能力と情報収集能力を見込まれて憲兵隊の隊長に就任。
本人は「レオくんとケビンちゃんをくっつけたいから出世だけは勘弁して!!!」と拒否してたが却下。
ヴェロニカ艦隊の憲兵総隊長に就任した。
主に倉庫の酒とか食い物をつまみ食いした、酔って喧嘩した、ストレスで全裸になったなどの処理に追われてる。
そこにラターニア人との交際という大問題が発生してしまったわけである。
リコが食堂にやって来た。
「ふええええええええええん!!! 准将たすけてくださああああああい!!!」
【レオくん】じゃなくて【准将】と言ったところに精神的限界が垣間見える。
「どうしたん?」
「結婚するから退職するって5人も申請が!」
現地人と結婚してその国に骨を埋める。
軍じゃなくても現地駐在員とかあるあるである。
「家族いない人なら別にいいよ」
こういうのは個人の自由だ。
止められるはずがない。
「それが希望者の中に伯爵家の御曹司がいるんだって! ゴリゴリの皇帝派!」
嫁ちゃんの派閥である。
「いきなりめんどうくさくなったね!!! 親はなんて?」
「家を継がせたいと」
これ失敗したら恨まれるやつだ!
「嫁入りは?」
「ラターニア側でも名家のお嬢さんなんだって!」
「うん、ちょっと野郎殴らせてくれるかな? 仕事増やしやがって!!!」
嫁ちゃんも歯ぎしりしながらブチ切れてた。
「なんで次から次へ問題ばかり起こすのじゃ!!! アホどもが!!!」
継承権の問題やらなんやら出てきたぞ……。
嫁ちゃんの派閥だ。
命令違反っちゃ違反なんだけど、完全に民事だからな。
厳しい制裁は現場を知らない連中が大騒ぎするだろう。
ううーん?
なんかいい手ないかな?
あ、あれだ。
俺は陳情のファイルを漁る。
あった!
鬼神国からの陳情!
「嫁ちゃん、プローンの惑星の近くに管理してない星あったじゃん。環境は良好なんだけどプローンの惑星の近くだからって放置されてる星」
「あるの~」
所有権を主張するなり破壊するなり決めろって言われてたやつ!
どうしようか迷ってたやつ!
「そこの星をプローンから買い取るか長期レンタルして帝国の出張所作れば?」
外務省の出張所というか公館というか、とにかくそういうやつ。
そこの責任者……とまでは言わなくてもポストに就けてしまえばいい。
プローンやラターニア、鬼神国との外交施設。
いやラターニアに大使館あるんだけど、もっとちゃんとした施設が必要だって言われてるんだよね。
商社の支社と倉庫欲しいって言われてるし。
「それじゃあああああああああ!!!」
「軍は除隊。不名誉除隊にする?」
判例を見る。
一応軍規違反でできるな。
でも少し厳しいな。
「半年間の減給でどうじゃ?」
「うんじゃそれで辞表出してもらうか。そしたら同日付で外務省に入省。拒否権はない、で」
「いま、人の人生がいじられていくのを見てる……」
モブ子さんは少しだけ引いてる。
でもしかたないじゃん。
「伯爵家にはどう説明する?」
「ありのままに言って解決させる。伯爵家にも決断させるのじゃ」
自分で出した解決策だ。
納得してもらうしかない。
「それで一般兵にはどう伝えればいい? 恋愛禁止? そんなの無理だよぉ!」
「ですよねー!!! でも手出したら結婚しかないって広報して。お願い!」
「ふえーん!!!」
「リコ、喜べ。エディの迅速な検査が認められ中佐に昇進が決まったぞ」
「やーめーてー!!!」
モブ子さんことリコ・サカザキの苦難は続くのだ。
今回俺は悪くない。
ところでさ、なんで俺たちって戦闘以外でたびたびピンチに陥るのだろうか?




