第四百五話
やはり帝国軍のマニュアルは役に立つ。
クレアから通信が入る。
「救助完了! 死者多数。遺体も回収できる分は回収しました」
「クレアは先に戻って嫁ちゃんとラターニア大使に報告して。俺は敵ぶっ潰すから」
「了解」
クレアは俺と一緒にラターニアとの会議に何度も出席した。
閣僚、官僚、学者、銀行を始めとした経済界のトップ。
その人脈は外務官僚を名乗っても恥ずかしくないレベルだ。
若いからなめられるのは商社のおじさん軍団がフォローしてくれてる。
そのおかげでこういうのは全部任せられる。
……クレアって政治家とか国家運営に適性あるよね。
「俺……外務大臣そろそろ辞任してもいい? クレアいるし」
「ダメです」
妖精さんが即答。
あ、はい。
カナシイ……。
戦艦に接近する。
黄龍型戦艦。
太極国の主力艦でかなりの数持ってるそうだ。
当たり前だけどシーユンは詳しいスペックなんかは知らなかった。
シーユンのお兄ちゃんに聞いたら詳しく教えてくれた。
完全にラターニアに照準を合わせたミサイル空母型と攻撃型のハイブリッド戦艦。
要するになんでもできる万能タイプ。
人型戦闘機がワラワラ出てくる。
普通の戦闘機よりマシと判断したのだろう。
本当は戦術しだいなんだけどね。
俺だったらミサイル当たらないってわかったら機雷ばら撒いて逃げるね。
太極国も屍食鬼の立場になって考えても、このあたりを確保する戦術的意味はない。
むしろ屍食鬼の恐ろしさを知った現地住民が本気で抵抗する。地獄になるだけだ。
太極国は評判が地に墜ちたし、これから領土拡大なんて無理じゃないかな?
皆殺しにされるのわかってたら最後まで抵抗するもんね。
プローンが中位で終わったのはそういうところである。
そこまで考えてないんだろうけどさ。
基本は占領したら同化するまで教育と現地人雇ってインフラ整備しかない。
ラターニアの場合、地方まで通信教育が完備されてるからそもそも侵略できないと思うけどね。
考えてたら射程距離まで接近。
人型戦闘機がやってくる。
「はーい、レッスンの続きな~」
「まだやるの!?」
「やるに決まってんだろ。タチアナ、お前だって騎士団率いるんだからな! よく見とけ!」
太極国の人型戦闘機が射撃してくる。
「はい、ライフルの避け方」
「最初からバグってんじゃねえか!」
「地上なら遮蔽物に隠れればいいんだけど、宇宙空間じゃそうもいかない。だからシールド……ほい!!!」
シールドでビームをぶん殴る。
「こういう風にパリングすればシールドの表面加工で散る。傷つかなくてシールドも長持ち」
「どんな反射神経だよ!!!」
「で、一番ダメなのが……」
シールドに隠れビームを真正面から受ける。
シールドがえぐれた。
「こうやって真正面から受けるとシールドが痛む。必ず受けるときは角度つけような」
「危ねえだろが!!!」
「へーきへーき」
シールドをたたんで格納っと。
「当たらなきゃどうってことないんですよ~」
あ、ほい!
ほらよ!
サクサク回避していく。
「はい、次は人型戦闘機の弱点について。我々はゾークとずっと戦ってきました。なので……」
太極国の人型戦闘機に接近。
鉾で襲いかかってくる。
でも遅いんだなー。
機体のスピードじゃなくて、パイロットの反応速度がね。
鉾を握った手をつかむ。
「他国はうちらより関節が弱いです」
握りつぶす。
めきめきめきっと音がした。
敵機体がもう片方の手でナイフを抜く。
「はいナイフを抜かれました。いい判断ですね。こういうときはナイフを対角線上によけて引き込みます」
と言いながらナイフを持った方の腕を手でロック、相手の勢いを利用して思いっきりぶん投げる。
「地上だったらぶん投げればいいんですが、ここは宇宙空間。関節極めたまま投げましょう。勝手に壊れます」
ばっきーんっと腕がひしゃげた。
そんな俺に一斉射撃。
仲間ごと殺す気だ。
俺は手をさらに振り回して敵どもに投げる。
哀れ、俺と戦った機体は爆散した。
「いい判断……って言いたいところですが、これは最悪です。人間関係が破綻するのでオススメしません。我々は運命共同体。仲間はなるべく救いましょう」
非情な判断は時には必要だけど、それは常時やるもんじゃない。
仲間は助ける。捕虜はちゃんと交換する。これ大事。
だって俺が前線の兵士ならそういう信用できない隊長がいたら後ろから撃つし、司令官が人間は駒だとか口に出したら敵より先に殺す計画立てるわ。
生かしておく理由ないもんね。
俺は仲間の命はなるべく守るし、命を守れない局面なら名誉だけは守る。
だから屍食鬼のこういうやり方は好きじゃない!
「はい、ちょっとムカついたのでシメてきま~す。仲間を大事にしない子は先生大嫌いです」
一気に距離を詰めて斬って斬って斬りまくる。
エディたちや騎士団勢も追いついて乱戦。
それを見てシーユンが驚嘆した。
「つ、強すぎる……」
「近衛でも何分もつか……」
お兄ちゃんも同意した。
でも実際はそんなことないよ~。
だって俺たちエース部隊だもん。
SLG的に考えれば、俺たちをこっちに足止めしてる間に別部隊で後方に攻めこむ、俺たちは孤立して終了。
それが理想型のはずだ。
これが強い部隊の限界よ。
SLG世界は厳しい世界である。
でも残念ながら俺は准将。
戦略を練る立場なのよ。
ちゃんと弱点を理解してる。
まず屍食鬼避けのタチアナ聖女結界シールドで孤立しようがない。
ありえるのは惑星ごと破壊かな。
でもそこまでの作戦を俺たちにわからないように決行できるはずもないわけでな。
各惑星にラターニアと俺たちと鬼神国の部隊が駐留して防衛してるし。
はっはっは、敵のやりそうなことなどお見通しなのだよ!
自分たちがやられたら困るなあってのは洗い出してる。
俺は負ける気なんてないのである。
乱戦は俺たちのワンサイドゲームで進んでいく。
さあ、ラオ将軍はどう出るかな?
「レオくん! 敵が撤退してくよ!」
はいこれでわかった。
ラオ将軍は手強い。
判断ができるタイプだわ。




