第四百三話
ラオ将軍の記者会見は非常に短いものだった。
「我が軍は惑星タイガ防衛戦でラターニア軍に勝利した」
本当にこれだけ。
ちょっとゾクッとした。
この強キャラ感よ。
そもそもだ。
ゾークも公爵会も俺らに勝つ方法はいくらでもあった。
ゾークは有利なうちに帝国と交渉して戦争を長引かせ、ウルトラ無能な麻呂を殺されないように守りきれば数年で帝国を手中におさめただろう。
そもそも最初に俺や士官学校生、それにエッジを始末できれば勝てたのだ。
その場合、妖精さんが生えてくるけど……。
……勝てる気がしない。
妖精さんは人間でいることを選んだからナーフされてるだけで、手段選ばなかったら最強だもんね。
公爵会も侍従長あたりと結託して軍を掌握、その後俺たちを分断して各個撃破ってカードは残されてた。
その場合の必要条件は俺と嫁ちゃんを結婚させないことだろう。
ゾークとの戦いで生き残った時点で俺が危険人物と判断できればだけどね。
ゾークも公爵会も自分の方が上という慢心があったのか、それともカードを切ることができなかったのか。
それはわからない。
でも勝利以外の余計なことを考えてたのは事実だろう。
それが判断が遅れた原因だ。
だがラオ将軍は操られているのかはわからないが、言葉は最小限。
命令を余計な付け足しなく完遂させたのだ。
少なくとも無能ではないはずだ。
「ヤバイの出てきたな……」
俺がつぶやくと妖精さんがあわてた。
「ぜ、全軍! レオ・カミシロ准将が警告を発しました! 注意してください!!!」
なぜか艦内放送で緊急警告。
ドドドドドと走る音がして、武器やら施設やらの総点検が始まる。
「戦闘が始まるぞ!!! 野郎ども気合入れろ!!!」
「おーッ!!!」
京子ちゃんを先頭に整備班が走るのが見えた。
部品を積んだカートが通路を走っていく。
「いやまだ戦闘が始まるって言ってないんですけど……」
「今までレオくんの直感が外れたことないでしょ!!!」
いやラオ将軍は強キャラだよねって話しかしてないわけで。
「ミサイル、機雷ともにソフトウェア検査終了! 作業員による点検に入ります!」
「普通戦闘機点検開始! 人型戦闘機の点検お願いします!!!」
なんてもう大騒ぎ。
いやだから今すぐじゃねえっての!
「電気系統の検査します!」
会議室にまで作業員が来た。
邪魔にならないようにシーユンとお兄ちゃんを伴って食堂に移動。
電気の保安検査やってた。
俺も工兵班のアルバイトしてたので声をかける。
「お疲れッス」
「准将閣下! すぐ終わらせますんで!」
「急がなくていいって。中にいてもいい?」
「みなさんいらっしゃいますぜ」
中を見たらいつメンがいた。
書類仕事やってる。
「シーユン、ほらタチアナとワンオーワン。お兄ちゃん、シーユン頼みます」
「はッ!」
ここでシーユンと別れる。
ワンオーワンには元絶望の執事さんが見守ってて、タチアナには鬼人国から派遣された女性軍人が護衛していた。
シーユンも元太極国軍人の護衛にお兄ちゃんがいる。
警護に問題はないだろう。
俺はピゲットと一緒にいる嫁ちゃんのところに行く。
「たいへんなことになったね……」
「婿殿の直感だからの」
「なぜに全幅の信頼寄せてるのよ?」
「外れたことがないからじゃ。理屈的には【今までの経験から総合的に導き出された論理的ではない結論】と定義されてるがの……婿殿のはほぼ未来視じゃろ」
「本人が一番信用してないのに!!!」
「知らん! それに点検日は来週だったのじゃ。ちょっと前倒しになっただけじゃ」
「お、おう、んじゃ俺もアルバイトに……」
「座ってろ! 准将が行ったら笑いごとじゃなくなるわ!」
「へーい」
暇なので書類仕事。
えっと、ラターニア側との会議は出張扱いで……。
……ふう。
なんか大臣兼任のせいで自分のことばかりやってるな……。
上がってきた自分の警備計画に承認出してるし。
ラターニア大使との会談の音声書き起こしにも承認出してるし。
みんなも仕事しまくり。
するとまた艦内放送での警告。
「ラターニアの緊急放送です」
「またかよ!」
放送をつける。
黄龍型戦艦が映ってる。
テロップには【太極国がラターニアに攻撃】。
「え? この辺じゃん!? なんで気がつかなかったん!?」
「やられた! 我らのセンサーからは外れておる! 救援に行くぞ! 検査はどうなってる!?」
「ほぼ終わりました!」
「よし!」
シーユンをタチアナやワンオーワンとその護衛と一緒に別の船に移送する。
俺たちはラターニアの救援に向かう。
別れるのは怖いがゾークが守ってるし、ジェスターであるタチアナもいる。
完璧である。
俺たちは駆逐艦に乗り換えて救援に向かう。
作戦予定地点近くに来ると太極国の人型戦闘機をレーダーが捕捉する。
「レオくん! 太極国の人型戦闘機がたくさんいるよ!」
本気でラターニア潰しをするつもりだ。
お兄ちゃんとウーのおっちゃんに聞いたら、太極国は豪族の集まりで将軍がたくさんいるようだ。
領主がそのまま将軍くらいの勢いかな。
それと中央の禁軍ってのがいるらしい。
中央から来た連中かはわからないけど殺意が高い。
敵機体は相変わらず軽装甲。
ラターニアのミサイル対策だろう。
「じゃー、出撃してくるわ~」
本来のパイロットのお仕事である。
殺戮の夜たんに乗り込んで出撃。
ラターニア戦艦が爆発するのが見えた。
太極、というか屍食鬼は完全に対ラターニアに特化した装備だ。
その代わり鬼神国に弱……あ!!!
「どうしたん隊長?」
メリッサが心配そうな声を出す。
「俺……わかっちゃった……なんで屍食鬼がこんな焦ってるのか……」
「タチアナの能力のせいじゃないの?」
「それもあるけど……鬼神国だ……」
「どういうこと?」
「俺たちがプローン滅ぼしたからだ! プローンに鬼神国抑えてもらう計画だったんだ! 太極国を落としたらラターニア、それが終わったらゆっくり鬼神国……プローンもまとめて落とす予定だったんだ」
「つまり……うちらが引っかき回したせいで予定が狂ったってこと?」
「そういうことだわ……」
それで計画の変更を余儀なくされた。
そういうことか!
点と点が繋がったわ!!!