第四百二話
ウー将軍たちと別れて戦艦へ。
そろそろ惑星プローンに帰りたいなって思う。
むしろカミシロ本家に帰って南国リゾートから一歩も出ないで生活したい。
それが許されないからここにいるんだけどね!!!
シーユンには女官さんがついた。
もともとイーエンズ大人の部下がいたんだけど、皇族のお世話係はいないもんね。
護衛だけしかいなかったんでこれは助かる。
とはいえシーユンは普段は二等兵。
女官さんのお仕事は限りなく存在しない。
どちらかというと太極国の文化の本を書くためにインタビューやら書類やらの準備で忙しい。
いや皇族は自分たちの生活の細かいとこまでは記憶してないわけよ。
高度な教育を受けてマニュアルを頭に叩き込んでる女官さんや宦官の方が詳しいわけである。
あと儀典の統括管理者とか帝国だと侍従とか。
そういう人たちの資料があれば理解が進むのである。
……つーのは表向きの理由。
実は帝国では空前の外国文化ブームが起きてる。
「観光させろ!!!」
とかの陳情は日常茶飯事。
商売させろとか外国人と国際結婚したいとか自分探しに留学したいとか好き放題言ってる。
危険だから却下。
いまのところ軍の関係者とカミシロ家出入り商人、それと学者と少数のメディアのみ外宇宙進出が許されている。
情報が少ないと余計に創作がはかどるのは世の常。
資料寄こせって話になってる。
学術用の服飾資料集は初版数千万部とか頭おかしい数字が出てるし、帝国制作のドキュメンタリーは全国民が視聴したというデータがある。
鬼神国と帝国軍人の恋愛ドラマとか大人気すぎて逆に怖い。
彼ら脳筋やぞ。
ツッコミどころは数多くあれど艦内でも人気のコンテンツである。
というか鬼神国やラターニアでも人気なのである。
細かいところのツッコミは毎話殺到するけどね。
でも今のところはトンチキさは「がんばってる」って暖かい目で見てくれてる。
というわけで専門の要員が必要となったのである。
「ただいま戻りました」
ここのところ存在がなかった鬼神国女性シャルが帰ってきた。
そう、そこで我らが目をつけた……見いだしたのがシャルである。
だって現地民だし若い女性、しかも頭がいい。
さらに教養のある女性がいないかなと探したら、キールティちゃんに目が合った。
頼み込んで出版社を設立。
運営資金サリアに半分出してもらって。
そしたらラターニアの銀行がいっちょ噛ませろと言ってきてあれよあれよと規模が大きくなった。
で、そこで外宇宙のカルチャー本を出してるわけである。
当初の計画だと赤字でもよかったんだけど、ファッション誌とか売れまくってる。
今までなかったようだ。
伝統を尊重してるのでそこまで反感はない。
各国の軍服デザインの比較とか「誰が買うんだこんなの」みたいな本も売れまくってる。
そんなわけで女官さんも出版事業で働いてもらってる。
給料がいいので今のところは不満は出てない。
シーユンも自分のことを自分でやる今の生活気に入ってるみたいだし。
写真断固拒否勢のタチアナをなだめすかして鬼神国やラターニアの服、太極国の服を着せた写真集とかヤバい売上である。ヤバいとかしか言えない。
どれほど帝国民が外宇宙へ熱狂的かというとプローン詐欺の横行からもわかる。
プローン詐欺は【プローンに帝国風教育をする学校を設立する】なんて言って金を集めるやつである。
だから俺たち政府は【プローン教を維持しつつ科学教育を重視する】って何度も公式発表してるわけでな!!!
帝国風教育なんて文化侵略だからしねえっての!!!
アホか!!!
アマダの野郎に連絡。
「ちーっす」
「プローン詐欺の件か? いま家宅捜索するとこ。皇帝陛下に伝えといてくれ。切るぞ」
相変わらずの塩対応。
警察も仕事量増えちゃってたいへんなんだって。
アマダきゅんも偉くなっちゃったし。
警察本部の詐欺含めた生活安全の統括責任者に就任内定したんだって。
上の方になってくると軍と違いすぎてよくわからんけど、大佐級なのかな?
出世の階段駆け上ってるよね~。
そんなわけで順調に太極国ラターニア方面の浄化も進んで、ほっとしてたわけだ。
ラターニアがミサイル撃って太極国が黄龍型戦艦出したら撤退という千日手。
国内の事情や物資問題で選択肢を絞られて動かざるを得ないようになった方が負け。
リアルな戦争ってそんなもんだよね。
物資無限なゾークが反則なだけだもん。
ゾーク倒してゾークから物資補給してた俺たちも大概だけどさ。
でも今度は違う。
大国同士の戦争だし数年はこんな感じで行くかなって……思ってたわけ。
その間、シーユンの帝王教育してタチアナも聖女としての教育する。
仲良しが大人っぽくなればワンオーワンもゾークの未来を担う女王として自覚を持つだろう。
そう長期計画を練っていたときである。
ラターニアの緊急放送が流れる。
「惑星タイガにて壊滅的被害! 我がラターニア軍は撤退を開始しました」
戦線が崩壊したようだ。
ぐっと押し込まれた。
「太極国ラオ将軍の会見です」
ラオ将軍。
誰? わからない。
するとシーユンとシーユンのお兄ちゃんがやってきた。
シーユンのお兄ちゃんはうちらの戦艦で緊急手術を受けた。
眼球の再建は時間がかかるので細胞培養待ち。
目の周りの皮膚も培養待ち。
なので一時的にカメラの義眼を装着して、皮膚も手術するために培養中。
着け心地は悪くないらしい。
手術嫌い勢はこれで満足しちゃうんだよね~。
太極国のナノマシンはそれほど効果よくないみたい。
って言っても帝国のナノマシンの性能が爆上がりになったのはゾーク戦争のせいなんだけどね。
俺のヒーリングも形成外科領域まで可能かよくわからないから不許可である。
タチアナのものまねも不許可。
うーん難しい。
耳の付け根からこめかみまでの髪の毛も一部失われていて、そこから見える地肌の傷跡が痛々しい。
だが本人はなにもないように振舞ってた。
「ラターニアの緊急放送やってるから解説お願い」
「准将閣下! シーユン二等兵務めさせていただきます!」
シーユンは敬礼。
それを見てお兄ちゃんにちょっとにらまれる。
イラッとしたっぽい。
しかたないじゃん!
身柄渡さないための裏技だったんだし!!!
ちゃんと話し合ったのに納得してないようだ。
俺は悪くないと思う。
「ラオ将軍って誰?」
「は! 親戚であります! ……おそらくすでに体を乗っ取られたかと」
悲しい顔をする。
頭なでなで。
するとお兄ちゃんに手をつかまれる。
「大公閣下。少し距離が近すぎるのでは?」
「あ、はい。つい、いつもの調子で」
「べつにいいのに……」
シーユンがそうつぶやく。
お兄ちゃんのこめかみの血管が浮き上がった。
「……大公閣下ぁッ!!!」
「ホント、スンマセン! 気をつけます!!!」
だから俺はごまかすために言った。
「よかったなシーユン。お兄ちゃん生きてて」
「はいッ!」
シーユンの笑顔が見れて俺は満足である。
ところでお兄ちゃん、歯ぎしりしながらこっちにらむのやめて。