第四百話
さて聖女作戦の前に大事な話をしよう。
現在、嫁ちゃんの艦隊では複数の派閥がしのぎを削っている。
まず【ワンオーワンを愛でる会】。
ワンオーワンを理想の妹、もしくは娘とする会派だ。
メンバーは多岐にわたりまとまりはない。あと人型ゾークの皆さん。
ワンオーワンを適切に餌付けしながら遠くからかわいい姿を観察するのを至高としてる。
一言で言うと変態だ。
もう一つが【タチアナを育てる会】。
配属当初、箸をグーで持ってたタチアナを理想の貴族女性、理想の妹として育てることを目的とした派閥だ。
華道部、茶道部、琴同好会などと軍閥が中心メンバーだ。
嫌われないようにヘイト管理をしながら、どこに出しても恥ずかしくないお嬢さまとして育成してる。
育成系が好きな連中やリアル娘を持つおっさんおばさんも多数在籍してる。
一言で言うと変態だ。
ここにもう一つの派閥が誕生した。
【シーユンと思い出を作る会】である。
シーユンを理想の妹として、悲しい出来事が多かったシーユンを励まし、一緒に思い出を作ろうという会である。
青春イベントこそ至高。
人生の中で短い一瞬を完全燃焼したい勢だ。
メンバーは主に体育会系とおっさんおばさんが後方腕組み要員として多数在籍してる。
一言で言うと変態だ。
なお俺や嫁ちゃん、あとクレアは【三人とも仲良くしろよ~派】で、ニーナさんやケビンは【三人に美味しいもの食べてもらいたい派】、メリッサやレンは【放っておいてやれよ~。プライバシーってのがあるだろが派】とみんな異端に分類される。
こうして見るとレンって結構クールな性格だよね。
「旦那様どうなさいました?」
メイド服姿のレンがお茶を入れてくれた。
「いやさー、レンってクールだよねと」
レンはひょうきんに振舞ってるが根は達観しててクールだ。
「物事に興味を持つことを許されてませんでしたので」
差別意識の強かった麻呂時代の銀河帝国じゃ貴族令嬢としては表に出すわけにもいかず、かといって教育しないわけにもいかない。
公爵の権力で適当な下級貴族、それも後妻として嫁入りさせられる運命だったのだ。
しかもビースト種であるが、必要摂取カロリーが高く燃費が悪いが高い身体能力で知能指数が高い。
ビースト種は対危険生物用の強化人間。
バカでは狩りはできないのだ。
ビースト種は不器用という偏見があるが、もともとレンはメカニック。
言い訳できないレベルで偏見による差別である。
クロレラ勢は逆に飢餓や病気にとてつもなく強い。
これは食料生産力が低い過酷な環境でも生きられるような調整だ。
嫁ちゃん時代になって差別は撤廃。
ゾークどころか外宇宙人と外交しなきゃならないのだ。
身内で争ってられるかっての!
それにね、クロレラ処置勢やビースト種から見た俺らって……正直ただの劣等種よね……。
我慢してつき合ってもらってるのは俺たちの方である。
嫁ちゃんの政策はおおむね好評だ。
というか水面下では差別や偏見が燻ってるんだけど、抵抗勢力が滅んだので表に出ることはない。
今のところはね。
俺たちの子どもの代で一気に爆発しそうな気がする。
他にもコロニー民への差別とか元海賊とかもあるし、最も恐ろしい爆弾は女性型ゾーク問題だ。
もう敵じゃないって帝国が公式発表しても信じてくれませんよねえ……っていう状態でいつ爆発するかわからない問題だ。
で、嫁ちゃん的にはレンを俺の嫁にしてビースト種問題を強引に解決したいらしい。
他にも長期計画を立ててるらしく、とにかく俺の直系と帝国内のあらゆる民族を婚姻させて【帝国民はみんな俺の子孫】っていう物語を作る予定らしい。
長期目標すぎね?
俺と嫁ちゃんの子どもとエディのとこの子どもを結婚させるとか、まだ誕生してもない子どもの運命決めてるし。
あとケビンとワンオーワンを嫁候補にしれっと入れるな!
というわけで細かいところで不満はあれどレンは大好きである。
「そんなレンも好きっす」
「旦那様? ハグします」
「しゅるー!!!」
とイチャイチャしてたらドアが開いた。
嫁ちゃんが入ってくる。
ハグしてるとこを思いっきり見られた。
「ん」
ハグするのね。
「はーい」
嫁ちゃんもハグ。
いったい俺はなにをしてるんだ?
少し冷静になった。
「で、嫁ちゃんどうしたん?」
「婿殿、提案がある」
「嫌でゴザル」
「話くらい聞け。シーユンのことじゃ」
レンが嫁ちゃんの分のお茶を持ってくる。
「皇帝にするんでしょ」
「摂政を置く」
「そりゃ専門のコンサル必要だもんね」
いまシーユンには急ピッチで概要だけ頭に叩き込んでる状態だけど、それでも政治に経済に法律に……とにかく学ばなくてはならないものは多い。
やっぱり君主制ってこういうところが難しいよね。
リーダーへの負担が大きすぎる。
「いいんじゃない? 軍事に法律に外交に。ラターニアのコンサル会社に頼むの?」
「いや利害関係の薄いところに頼む」
「へー」
「妾と婿殿じゃ」
「は?」
「妾と婿殿で解決する」
「国を乗っ取るってことぉッ!!!」
クソめんどいの来た!
国盗りなんて大量の金ぶち込んで育てて挙げ句の果てに敵視されるのがオチだっての!
太極国の国内産業を支援しながら交易を密にするのが正解なのである。
「うむ、婿殿を中心としたバトルドーム、鬼神国、ラターニア、太極国の大連合じゃ」
「は? いやいやいやいや、太極国はいいとして……なぜにラターニアまで?」
「屍食鬼だけで終わると思うか?」
「そりゃさプローンと屍食鬼に知性与えたヤバいの来そうだけどさ」
「ラターニアもそう確信しておる」
そうなるか……。
「俺になに期待してんのよ?」
「ゾークとプローンを滅ぼし、屍食鬼を追い詰めた軍事力と外交力じゃが?」
字面だけ見ると俺がやった感あるが実態はそうでもない。
俺が活躍したのはゾーク戦争だけである。
というかプローンと屍食鬼は学者たちの功績が大きい。
「生物学者に頼るという判断をしたのは婿殿じゃ。とりあえず屍食鬼を倒すぞ! そしたらまた聞く」
「もう勝ったみたいに言うの……それフラグ……」
すると今まで黙って様子を見てたレンが口を開く。
「旦那様は負けるとお思いですか?」
「いんやー、負ける気で戦う武人はいません。戦局は聖女作戦次第だけどね」
するとレンはとろけそうな表情になる。
「ならば戦いましょう。勝利して考えればいいのでは?」
大連合は置いて、とりあえず戦うか。
そう決めたところで嫁ちゃんが渋い顔をする。
「婿殿がやる気を出してくれないとな……【シーユンと思い出を作る会】がそろそろ爆発しそうでの……」
「そっちぃ!!!」
「艦隊の三分の一が割れるのじゃ! 大問題じゃろが!!!」
お、おう。
なぜいつも冗談みたいなアクシデントでピンチを迎えるんだ?
こないだはイチゴとトマトの過剰生産で全滅するかと思ったし。
俺たちおかしいよね!?




