第三百九十九話
タチアナが装置を起動した。
一つの惑星を完全に解放したわけだ。
さーて、ここからが問題だった。
装置の原理がわからんうえに解体して調べるわけにもいかない。
おまけにラターニア、太極国、鬼神国までも含めた聖地になってしまった。
嫁ちゃんはすぐに鬼神国、ラターニアと共同で聖地の起動成功を発表。
なんか両国の最高位の神官って人がタチアナと会いたがったので嫁ちゃんと一緒に会わせた。
俺も同席。
重鎮が集まったところで猊下とか聖下とか呼ばなきゃならないのか?
それすらわからない。
なので両国とすりあわせした。
両国とも「きとんと質問してくれるだけでも素晴らしいことです。呼び方はお好きにどうぞ」だって。
なんでも聖女が序列一位みたい。
とりあえず「殿」で統一。
いやノウハウないからわかんないじゃん!
うちら信者じゃないし。
上に上げすぎても下にするのもアウトなわけで。
かと言ってゲーミング坊主とか神社関係者も尊重しないといなけないわけで。
わかんないって言ってるあるので無礼は寛大さに甘えて見逃してもらおうと思う。
わかんない!!!
というわけで会談。
タチアナは両国の代表を前に言った。
「あの……聖女とか言ってますけどアタシ、クローンですけど。偽物なんですけど」
すると両国の代表が笑顔になる。
その一人、大きなツノの爺様が笑う。
まー、孫みたいなもんだ「ずいぶんかわいいこと言うんだな」って思われたんだろう。
「それは関係ございません。我々の聖女は貴女様にございます」
ラターニア側の年齢不詳の女性もほほ笑んだ。
ラターニア人、特に女性は外見から年齢を推測するのが難しい。
若いのよ! 全体系に!
男は若く見えても年齢相応に恰幅よくなるわけで……。
その女性も同調してくれた。
「ええ、その通りです。クローンであるか否かは関係ございません。遺跡を起動したのは貴女様ございます」
「そ、ソウスカ……」
とりあえず頭なでとく。
えらいえらい。
「うー、兄貴。あんまり人前でやるのはやめてほしいんですけど」
すると両国のお偉いさんは笑った。
「仲がよろしいようで」
「うちのは素直ないい子なんで。あんまりプレッシャーかけないでノビノビ育てさせてくれると助かるんですけどね」
「兄貴……」
本題はタチアナの聖女問題である。
そりゃ面会くらいさせるけどさ、あまり忙しくする必要はない。
「せめてお姿をいただいても?」
「それは……タチアナ、グラビア撮影だって」
「水着は絶対イヤ」
「あるわけねえだろ」
健全なやつに決まってるだろ。
「でもケビン姐さん……」
「あれは女性型ゾークの啓蒙のためだっつーの。そもそも水着撮影してねえだろ」
というかね。
水着撮影させられたのは主に俺たち男子である。
思う存分筋肉を披露してくれたわ!!!
すると今まで黙ってた嫁ちゃんが口を開いた。
「本人が嫌がる写真でなければ許可する。タチアナも前の撮影くらいならいいじゃろ?」
「ううー、ヴェロニカお姉ちゃんがそう言うのなら……」
「では話ついたな。次はシーユンじゃ! シーユン! サリア!!!」
シーユン、ワンオーワンとサリアが部屋に入ってきた。
「シーユン二等兵じゃ。聖女の友じゃ」
「ワンオーワンであります! ゾークの女王であります!」
サリアは思いっきり嫌な顔してる。
「サリアです。すんごい嫌ですけど鬼神国の大王してます」
ここのところサリアは国内の統治のために奔走していた。
来る日も来る日も……人型戦闘機での決闘に明け暮れていた。
サリアはすでに例のシミュレーターでソロクリア達成勢である。
さらに先代大王の稽古で武芸も上達。
歴代大王の中でも最強に近い存在として尊敬を集めている。
「私は商人なのにー!!!」
まだ言ってやがんのかコイツ。
そう商人だからか経済政策は順調。
元大企業の支配人だけあって【詳しい人にまかせる、余計なことはしない。自分の仕事は場を作ること】を徹底しており、ラターニアやバトルドーム加盟国の小国との会談を重視している。
サリアが上司だったらやりやすいだろうなー。
すると鬼神国側の代表が頭を垂れる。
「大王様、お久しぶりにございます」
「久しぶりだな。今回、私が来たのは【この三人の仕事に関してはすべてバトルドームが窓口になる】以上だ。帰ります」
「逃がさねえぞ」
襟をつかんで椅子に座らせる。
「あー、もう! タチアナちゃん! 太極国の救世主になってください! 頭ならいくらでも下げますんで!」
サリアは骨の髄まで商人だよな~。
無料ですむなら土下座すら許容するタイプだ。
「サリアさん……じゃなくてサリア大王様。なにすりゃいいんですか?」
「シーユンさん、こういった遺跡まだあるんでしょ?」
「はい、都にも……」
「それと隠してるんじゃないですか? 聖女の末路を」
「……はい」
シーユンは暗い目をしていた。
それは聖女伝説の最後の章。
聖女がジェスターだとしたら殺すのは難しいはずだ。
だが例外はある。
本来ならゾークは俺を殺せたのだ。
つまり能力の限界は存在する。
「太極国は聖女を【傾国の魔女】と恐れ軍を出動しました」
ま、そうだろうね。
前世の国際援助だって、現地民に雑に扱われるわ、武装勢力に攻撃されるわで命の危険があった。
いいことしてる人間が襲われないなんてのは夢物語だろう。
軍まで派遣されたらジェスターでも無理だろうな。
俺だったら……俺は健康な若い男で軍人だから例外か。
「太極国はそれを隠蔽した?」
「あまりにも古すぎてそこまではわかりません。おそらく討ち取ることには成功したのでしょうが」
記述がないことが答えだろう。
なにか恐ろしい事が起きたに違いない。
じゃ、嫌がらせで遺跡を起動しまくるか。
まず都は除外して……。
「知ってる遺跡教えて。片っ端から起動するから」
「は、はい!」
すると嫁ちゃんが立ち上がる。
「銀河帝国は聖女作戦を決行する!」
こうして俺たちはタチアナを中心とした聖女作戦の実行を決めたのであった。




