第三百九十七話
ケビン姐さんやエディの兄貴たちが医療支援をする。
ラターニアの医療チームも合流した。
アタシは後から来た鬼神国やラターニアの祭事をやってる人たちと合流する。
打ち合わせでもさんざんもめたのにまだ戦いの続きをする。
アタシが見ても違いがわかんねえくらいの差しかないんだけど。
「聖女様はこちらの衣装ですよね!!!」
ツノ生やした女性に圧をかけられる。
「いえタチアナさんはこちらの方がお似合いです!!!」
違いのわからない衣装をゴリ押ししてくるのはラターニア。
並べても区別つかねえよ。
「なあレオの兄貴、どっちがいいと思う?」
「え? 帝国で用意したやつに決まったじゃん。あれが一番似合うだろ? タチアナのために型取ってるんだし」
「じゃ、それで」
女官さんに着替えさせてもらう。
一人じゃ着られないんだって。
化粧をされて終了。
「どうよ兄貴」
「おー、かわいいな。写真撮るか?」
問答無用で撮影される。
さらにレオの兄貴と二人で撮影。
「ワンオーワンとシーユンに送るぞ」
勝手に送信された。
「クレア、メリッサ、タチアナかわいいぞー」
「呼ぶな!!!」
そう叫んでもお姉ちゃんたちを召喚された。
クレアお姉ちゃんとメリッサお姉ちゃんも写真を撮る。
だーかーらー!
しかもどこかに送った。
「ケビンちゃんがかわいいねって」
「だーかーらー、なんで送るの!!!」
「かわいいから?」
「なぜに疑問形!?」
「さー、儀式行くぞー」
「聞けバカ兄貴!!!」
こういうときに一番下の子は発言権がない。
うちの弟たちも同じだからわかる。
人力の輿に乗せられ遺跡に向かう。
レオの兄貴はラターニアの護衛の武官の服を着ていた。
メリッサお姉ちゃんは鬼神国の衣装。
クレアお姉ちゃんは帝国の伝統装束だった。
みんな似合うな……。
鬼神国の神官が歌を歌いながら行進する。
途中ラターニアの神官にバトンタッチ。
こっちもラターニア語の歌を歌う。
なおラターニア語と鬼人国語は方言レベルの差しかないらしい。
聞いても違いがわからん。
でも曲調はかなり違う。
鬼神国はラッパみたいなのと琴みたいなのと太鼓だ。
ラターニアは弦楽器と笛だ。
ただ音楽ってジャンルじゃないらしい。
お経や祭事の時の祝詞みたいな立ち位置らしく娯楽性はない。
メリッサお姉ちゃんがささやいてくれる。
「中継見てるイソノと中島が大音量でロック流したいって言ってるぜ」
あの二人ならやりかねない。
二人とも行動力の塊だ。
「やったら絶交って言っておいて」
「ういーっす」
遺跡の内部に入る。
さあ、ものまねタイムだ。
「そちらに古代の石版がございます。太極国の神話によると聖女が触れることで太極国に聖女が復活するそうです」
「お、おう」
クレアお姉ちゃんがほほえみかけてくる。
「大丈夫よ。レオもいるし。それに神話がそう簡単に再現できるわけがないから。タチアナちゃんはなにかものまねできるものがないか触ってみて」
「うん!」
うー、緊張する。
輿から降りてプレートを触る。
そう簡単に起動するわけないか……。
と思った瞬間、遺跡のあちこちが赤く光った。
「お、おう……」
アタシは呆然とした。
すると音声案内が流れる。
帝国語だけじゃない。
鬼人国語やラターニア語、太極国語の案内も流れた。
「原初の能力者を検出。UIを表示します」
「え? え? え?」
目の前にメニューが開く。
「あ、あ、あ、あ、あ……兄貴?」
「ジェスターってここまで到達してたん!?」
なーにが「ジェスターに子孫は生まれない」だよ!
細菌やウイルスクラスの繁殖力じゃねえか!!!
「でででででで、データのダウンロードを!!!」
鬼神国の神官もラターニアの神官も大騒ぎする。
あんまり関係なさそうな太極国の人たちだけがボケッとしてた。
そんな神官たちを兄貴が止める。
「あとでコピー送りますから!!!」
「絶対ですよ!!!」
ラターニアの神官なんか目の色変えてる。
「送ってください!」
「可能な限りちゃんと送りますから!!!」
「約束ですからね!」
あーあ、約束させられてやんの。
破損データまで送らなきゃだめなやつだ。
そしたらUIが帝国語に翻訳された。
あー……うん。読めない。
「古文得意な人ぉ……」
文が古すぎてわからん。
クレアお姉ちゃんが見てくれる。
「うっわ古! レオ! ちょっと見て」
「うわ! かすかにしか読めない!!! 妖精さん助けて!」
ありゃま。
ルナお姉ちゃんに泣きついた。
これは大事だぞ。
「はーい。みんなのアイドル妖精さんですよ~……って古!!! 私が子どものときよりも前の文法ですよ、これ!!! 私でも時間かかりますって!」
古文読める勢が撃沈。
とりあえずルナちゃんがファイルをダウンロードした。
そしたら兄貴はヴェロニカちゃんに連絡。
「そのままのデータ送っちゃっていい?」
「しかたなかろう」
コピーを両国に送信。
もう一つはシーユンたちのサーバーにもコピーを送る。
「タチアナちゃん、このファイルに生体認証してください」
「うっす」
血を採る装置があるらしいんだけど、衛生面で却下。
あらかじめ持ってきた検査キットで外部からアクセス、認証を突破する。
すると頭の中に情報が流れてきた。
あ、これ【ものまね】するときのやつだ。
「それは聖女本人の生体情報みたいです。ただ不完全でシミュレーターで再現するほどの情報ではないですが……」
「大丈夫。なんかわかってきた」
それは聖女の物語。
彼女はラターニア人奴隷として生まれた。
このころはラターニア人はまだ国家を建設してなかったようだ。
彼らを奴隷として支配していたのは……人間型のサイボーグの体、頭部に水槽をつけてる異形の生物。
水槽の中にはタコみたいな生き物が入ってる。
彼らはかつて広大な範囲を支配していた種族のようだ。
ある日、ラターニア人が反乱を起こした。
彼女も混乱に乗じて逃げ、鬼神国にたどり着いた。
そこは弱肉強食の世界。
彼女は鬼神国の……たぶん豪族のもとで医療兵として従事した。
そうか……まだこの頃は鬼神国の方が勢いがあったんだ。
そして彼女は医師になり……そりゃ今よりもずっと昔だ。
医者がどういう立ち位置なんてわからない。
だけど彼女は鬼神国人が殺し合う原因にたどり着いた。
屍食鬼だ。
彼女はラターニアの薬草に詳しかった。
そこで治療できる薬を見つけて……。
そして彼女は聖女になった。
奴隷という絶望的な出自なのに悲壮感のない……。
……それはまるで。
「聖女はジェスター?」
気がつくとアタシの体は光っていた。




