第三百九十三話
食堂で飯を食う。
太極国フェアでルーローハンみたいなやつと餃子みたいなのを食べる。
リャンさんが首をかしげる。
あ、やっぱ餃子は主食であっておかずではない派か!
く、帝国民は餃子はおかず派が大多数なんだ……。
するとリャンさんは額にしわを寄せながら質問した。
「大公閣下……なぜシーユン殿下は女子トイレを掃除なさっていたので?」
あ、気づきやがった。
性別時蕎麦の術が破られたか。
説明しよう!
性別時蕎麦の術とは、シーユンの性別の話題に気づきそうになった瞬間もっとツッコミどころ満載の展開をぶつけ性別問題をウヤムヤにする術である。
なお女性隊員は「なに言ってんだこいつ……」という顔をしていた。
女性隊員はシーユンを女性として認識してたらしい。
知らぬは男親だけと。
思春期あるあるだね!
嫁ちゃんが涼しい顔して答える。
「女性だからじゃ」
あ、リャンさんの顔がバグった。
「ななななななな!」
「黙れ! この銀河帝国皇帝ヴェロニカは女じゃ! ラターニアも女王を禁じておらぬ! 文句あるか!!!」
なお鬼神国大王は「喧嘩が一番強いやつ」なので禁じてないが、女性が大王に就任するのはほぼ不可能である。
「い、いえ……」
「シーユンの選択にまかせよ。シーユンが望むなら止めぬ」
「は、はあ」
おっさんが価値観変えるのは難しいだろう。
なんとなく「シーユンならいいやー」って感じにして屍食鬼に勝利して帝位に就いたら事後報告。
あとは民にも空気読みなら情報小出し。
どうしても皇帝は男性じゃなきゃダメって言うならシーユンの手で後継を指名すればいい。
屍食鬼に勝った実績があればシーユンが後継指名すれば安定する。
戦争に勝ったって実績は強いだの。
そしたら銀河帝国に逃げてくればいい。
あくまでシーユンが女性でいることを望むならね。
他にも考えられるシナリオをいくつか用意してある。
その中には屍食鬼にオーバーキャパの広大な領土を保有させちゃえばというのもあった。
凶悪犯を収容するのに使ってる惑星とか、なるべく人口が少なくて広いとこに追いやって統治させる。
プローンよりも統治能力低いから破綻するまで放置してあとは頭数管理なんてのも考えてある。
とにかく複数の手段を考えてある。
その中でもシーユンが皇帝になるのが一番被害が少ないってだけだ。
本音言えば、顔も知らん太極国の連中よりも俺はシーユンの幸せを優先するよ。
「どちらにせよリャンさんには選択肢はないです。故郷を取り戻すのにシーユンが必要。シーユンがいなければ尊皇叫んでるレジスタンスが戦後に反政府勢力になります。リャンさんその責任取れます?」
「うっ……」
「どちらにせよ先に屍食鬼を片付けましょう。それが一番の優先事項です」
そこまで話し合うとシーユンたちがやってきた。
配膳の当番を終えたのである。
「准将閣下終わりました!」
タチアナが敬礼。
「はいご苦労さん。ご褒美のお菓子」
三人にお菓子を渡す。
リャンさんが俺たちを見る。
「大公閣下、あなたは不思議な人だ」
「そうですか? ……あー、若さゆえの奇行は大目に見てください」
「そうではなく……銀河帝国は太極国をどうしたいのですか? 属国にするおつもりですか?」
「属国にするメリットがありません。遠すぎるし、銀河帝国はゾーク戦争で人不足なんです。拡大政策を取る余裕はありません」
「では経済植民地に?」
それには嫁ちゃんが答える。
「欲張る気はない。物資をめぐって戦ってた時代でもあるまいし。末永く交易をする程度じゃ」
「ではなぜ我が国を救おうと?」
「我が国の安全のためじゃ。海賊、プローン、屍食鬼は危険だから排除する。同情や変な正義感ではない」
「なるほど……」
女性隊員たちも「完全に信用できないが……」という顔をしていた。
そりゃね、信用しろと言われても難しいだろう。
「私は信用しますよ」
シーユンが言った。
「あのなー、国家元首になるならどんな相手も信用しない覚悟をだな」
嫁ちゃんが呆れる。
だがシーユンも負けてない。
「それでも信用します。あのとき私を見捨てる選択肢もあったはずです。それでもあなた方は救うことを選択したのです」
嫁ちゃんは顔を真っ赤にしてそっぽ向いた。
あらやだ、珍しい。照れちゃって。
「リャン、私に不満はあるだろう。だが国を取り戻すまでは力を貸してくれ。この通りだ」
シーユンが頭を下げた。
するとリャンさん大慌て。
「わ、私どもに頭を下げてはなりません!!! シーユン様は皇族なのですよ!!! も、も、も、もちろんそれがしの力ならいくらでもお貸しします!」
はい一件落着っと
これでいいのさ。
さあ、そろそろ攻略を開始しないとね。
「こ、これが……銀河帝国。これがレオ・カミシロということか……」
なんかリャンさんが一人で納得してる。
最高責任者は嫁ちゃんなんだから、嫁ちゃんをほめて。
「婿殿、レジスタンスがラターニア方面を奪還したらしいぞ」
勝手に治療作戦は大きな成果を上げていた。
だって治療嫌がるのなんて屍食鬼と陰謀論者だけだし。
レジスタンスは民衆の支持を受け大きな勢力になっていた。
レジスタンスの支配する惑星に逃げ込む民衆も多い。
太極国の企業なんかも逃げてきてる。
そりゃラターニアや俺たち、それにバトルドームと交易してるしね。
とりあえずツバつけとこって感じだろうか?
「そろそろ俺たちの出番?」
「そうじゃな。近くに交易の物流拠点がある。太極国はそこを死守したいはずじゃ」
「へーい」
戦いを前にしてゆるい顔をする。
戦いのことなんて考えてもしかたない。
なるようにしかならんのだ。
それよりも俺にはすぐ解決しなければならない問題があった。
「あ、そうそう。リャンさん、シーユン、ちょっと聞いていい?」
「なんですか?」
「餃子は主食? それともおかず?」
二人とも「それかよ!」って顔してた。




